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Tuning

「…どう、なってんだ?」


なぜ自分がこんなところにいるのかが分からず、慌てて周りを何度も何度も見渡した。

誰かいないのか。何かないのか。

しばらく同じようにしか見えない中をあてもなく歩く(浮く、のほうが正しいかもしれない)うちになにか変だと気が付いた。

どんなに動いても疲れない。おなかもすかない。
何故。いやそもそも疲れるってのはどんなものだっただろう?空腹って?
本当に俺はそんな経験をしたんだっけ?

ほどけていく糸を掴めずにたぐる手も伸ばせないようなもどかしい感覚が胸にあふれた。

何か俺は知っているはずなんだ。ここにいる理由がきっとあるはずなんだ。
目を閉じて、力いっぱい閉じて、頭の芯が痺れるほどに記憶を呼び覚ます。

「やめとけよ」

ふいに自分以外の声が聞こえて、慌てて目を開いた。
そこには頭からつま先まで真っ黒な少年が佇み、こちらを射抜くように見ている。
見ている、ように思えた。顔には目を覆い隠すように何かがかかっている。
それでもその視線は痛いほど感じられた。

「……お前は誰だ?」
「相手に何か聞く時は自分から名乗れ」

一瞬だけ無愛想すぎる相手の態度にムッとしたが、それもそうか、と思い直して体を完全に相手と対峙させた。

「MZD。アルファベットで一文字ずつのM、Z、D、だ」

すらすらと答えて、名前を覚えていたことに自分でも驚く。

「変な名前だな」

容赦ない返答に言い返そうとしてやめた。
今はそんなことにかまっていられない。

「…俺は名乗ったぞ。お前の名前を教えろよ」

同年代に見えるその少年は、とても同年代とは思えないような卑屈な笑みを浮かべた。
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