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キリトリ線はもういらない(柔造)


※だいぶ前に書いたので蝮さん派の人ごめんなさい。



たまに、ごく稀にだけど、とてつもなく寂しくなる時がある。なにか辛いことや悲しいことがあったとか関係なく急に、ー人になった時や、夜寝る前に、まるで自分だけが真っ黒な色画用紙から銀色の鋭い鋏で切り取られたような孤独に陥るのだ。不意にやってくるそれに上手く対応が出来るわけもなく、私はただひたすら泣く。声をあげるわけではなく、ただただ、ぼろぼろと瞳から水をだすように。

だから、あの晚も急にきたそれに逆らうことなく、自室で泣いていると、偶然訪ねてきた彼に見られてしまった。いつも柔らかく優しく笑う彼が眉間にしわをよせ、驚いたように私を凝視していたのが思い出される。そしてなにか言おうとした私を無視し、理由を聞く前に私を引き寄せ、彼の胸へと顔をうずめさせた。その時の頭にそえられた大きな暖かい手にひどく安心したのだ。そして、ゆっくり言い聞かせるように、大丈夫だ、と何度も言ってくれた。まるで魔法の言葉のようなそれはじわじわと私のからだに染み込む。気がつくと声を上げて泣く自分がいた。小さい子のようにわんわんと。

それからだった。彼、柔造さんがよく私の部屋に訪ねてくるようになったのは。

「柔造さん」
「ん?」
「私もう大丈夫です」
「あかん」
「でも、」
「いやや」
「…」

部屋に来てなにをするわけでもなく、ただあの晚のように私を抱きしめてくれる柔造さん。安心するのはもちろんだが、恋人でもなんでもない、ただの部下である私のためにここまでしてもらうのはいささか心が傷むと言うもので。何度も、大
丈夫だ、と伝えても彼は首を縦に振らず、私が眠るまで側にいてくれている。

「柔造さん、疲れてるんじゃ」
「そないなこと自分は気にせんでええから」
「でも、」
「ええってていよるやろ。…迷惑か?」
「そ、そんなことないです。すごく安心します」
「ほんならよかった」

そういって私の頭をなでる手は男性特有のごつごつした、でも暖かく優しい手で。私はまるで猫になったかのような気分になる。

「俺はな、お前にあんときみたいに泣いて欲しないんや」
「あれは、」
「あんな魂が空つぽんなったみたいにカなく泣く姿は正直みてられへん」
「……」
「せやから、すこしでもカになれるんなら、そばにいさせてくれへんか?」

手で優しく髪をときがら彼は私に言った。彼の細められた目が少し開き、その瞳に私を映す。悲しげな、でも暖かい眼差し。私はうつむぎなが一度だけうなづいた。こんなに心配されて、何も返せない。行き場をなくしていた私の手にカがこも
る。…悔しい。するとその手をー回りも大きい彼の手が包んだ。

「別に借り作ったわけやない。ただ俺がそうしたかっただけやから自分を責めんといてくれ」

ああ、彼にはなんでもお見通しのようだ。

「…好きな女ぐらい、自分の手で守らせてくれや」

きっと私のちっぽけな恋心も彼には手に取るようにわかってしまっているのだろうなぁ。伏せていた顔を上げて彼を見ると、視線が合った。目尻が下がりいつもより少し頬が赤い。私は不器用だけど笑ってみせた。

あぁ、私はー人なんかじゃない、彼がいる。
包まれていた手にカがこもり唇に彼のような優しい熱が触れた。そうしてて彼は微笑んだ。

彼のいる世界はこんなに暖かい。
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