甘やかな夜(土方)
明日の朝食の下準備をしたのでこれで今日の私の仕事は終わり。今日も1日、食べ盛りの隊士達の食事を作って、洗濯をして、掃除をしてクタクタである。幸い、明日は遅番なので午前中はゆっくり休めそうだ。と、いっても真選組の屯所なのだからいつ何が起こるかわからないのだけれど。
お風呂に入って歯磨きをして、少しだけ本を読む。優しい局長の計らいで、女中の私にも一部屋あてがってもらった。おかげで自分の家のように安心して過ごすことが出来ている。こと読書の時間も私にとっては至福のひととき。お風呂上がりの髪が、開けた小窓からの風に吹かれながらゆっくりと時間が流れていく。
しばらくして、キリのいいところまで読み終えた時、廊下を歩く足音が聞こえた。夜の見回り組が帰ってきたのかと思って顔を上げたけれど、足音は1人分。そして私の部屋の方向に向かってきていた。本を片付けて、鏡で少し髪を整える。足音は私の部屋の前で止まり、障子に人影が写った。
「起きてるか?」
「起きてますよ、どうぞ」
静かに空いた戸から顔を出したのは、真選組の鬼の副長、土方さんだった。でも制服姿ではなく、着流しに肩にタオルをかけた完全オフモードの彼。自然と口元が緩む。
「お疲れ様です、お仕事はもう終わりですか?」
「ああ、今日の分は何とか」
「今日は早かったですね」
「珍しく総悟が事件起こさなかったからな」
「あら、明日は雨かしら」
「槍が降るかもしれねえ」
そう言いながら、どかりと土方さんは私の隣に腰を下ろした。ふわりとお風呂上がり特有の香りが鼻をくすぐる。その香りは彼が濡れた髪をかきあがたことで一層広がった。
「髪、まだ濡れてますね」
「乾かすのがめんどくさい」
「もう、鬼の副長がだらしない」
「今はお前しかいねえから気が抜けてんのかもな」
肩にかかったタオルを受け取って、わしゃわしゃと髪を乾かす。されるがまま頭を預ける彼が可愛くて普段、鬼だの厳しいだの言われているのが嘘みたいに感じられる。そしてこの姿を見せてくれるのは私だけなんだと思うと、胸がくすぐったい。
ふとタオルの隙間から彼と目が合った。すると腕を掴まれて、気がつけば彼の膝の上。どうやら今日はよっぽど甘えたい日みたいだ。回された腕で横抱きにされる。
「ふふ、今日はどうしたの?」
「別に」
「なんだそれ」
「眠い」
「うん、眠そう。今日はここで寝るでしょ?」
「ああ、そうするつもり」
「じゃあ歯磨きしてきてください。お布団敷いておくから」
「お前歯磨きしてんのか?」
「しましたけど、ってえ、…ん」
布団を敷こうと立ち上がった腕を引かれ、もう片方の手が首裏に回された。視界には土方さん、唇に感触。ひざ立ちになったまま深いキスをされる。突然の事で驚いたけれど、手持ち無沙汰な掴まれていない手が彼の袖をつかむ。微かにタバコの味がした。
しばらくして唇が離れ、微かな唾液が糸を引く。呼吸が上手くできなくて再び彼の膝の上に戻った。
「相変わらず呼吸ヘタクソだな」
「と、突然してくる、からですってば!」
「慣れろよ」
「もう、なんなんですか一体…」
「さて、歯磨きしに行くか。ほらお前も行くぞ」
「私しましたって」
「でも口ん中、タバコの味残ってるだろ?」
「なっ、わざとですか!」
「ほれ、立て。行くぞ」
「そんなに私と一緒にいたいんですかバカ」
「バカは余計だっつーの」
本当に今日はびっくりするほど構ってちゃんのようだ。上機嫌に腕を引いて洗面所へ向かう彼の後ろ姿を見ながら思う。でも口では怒っていながら内心、甘えてくれるのが嬉しい私はどうやら彼にべた惚れのようで。少しだけ歩みを早めて彼の隣に並んだ。
願わくはずっとこんな些細な幸せを感じられる生活が続きますように。夜空を見上げると星が見えたからきっと明日は雨じゃなく、太陽が顔を出してくれるといいな。
お風呂に入って歯磨きをして、少しだけ本を読む。優しい局長の計らいで、女中の私にも一部屋あてがってもらった。おかげで自分の家のように安心して過ごすことが出来ている。こと読書の時間も私にとっては至福のひととき。お風呂上がりの髪が、開けた小窓からの風に吹かれながらゆっくりと時間が流れていく。
しばらくして、キリのいいところまで読み終えた時、廊下を歩く足音が聞こえた。夜の見回り組が帰ってきたのかと思って顔を上げたけれど、足音は1人分。そして私の部屋の方向に向かってきていた。本を片付けて、鏡で少し髪を整える。足音は私の部屋の前で止まり、障子に人影が写った。
「起きてるか?」
「起きてますよ、どうぞ」
静かに空いた戸から顔を出したのは、真選組の鬼の副長、土方さんだった。でも制服姿ではなく、着流しに肩にタオルをかけた完全オフモードの彼。自然と口元が緩む。
「お疲れ様です、お仕事はもう終わりですか?」
「ああ、今日の分は何とか」
「今日は早かったですね」
「珍しく総悟が事件起こさなかったからな」
「あら、明日は雨かしら」
「槍が降るかもしれねえ」
そう言いながら、どかりと土方さんは私の隣に腰を下ろした。ふわりとお風呂上がり特有の香りが鼻をくすぐる。その香りは彼が濡れた髪をかきあがたことで一層広がった。
「髪、まだ濡れてますね」
「乾かすのがめんどくさい」
「もう、鬼の副長がだらしない」
「今はお前しかいねえから気が抜けてんのかもな」
肩にかかったタオルを受け取って、わしゃわしゃと髪を乾かす。されるがまま頭を預ける彼が可愛くて普段、鬼だの厳しいだの言われているのが嘘みたいに感じられる。そしてこの姿を見せてくれるのは私だけなんだと思うと、胸がくすぐったい。
ふとタオルの隙間から彼と目が合った。すると腕を掴まれて、気がつけば彼の膝の上。どうやら今日はよっぽど甘えたい日みたいだ。回された腕で横抱きにされる。
「ふふ、今日はどうしたの?」
「別に」
「なんだそれ」
「眠い」
「うん、眠そう。今日はここで寝るでしょ?」
「ああ、そうするつもり」
「じゃあ歯磨きしてきてください。お布団敷いておくから」
「お前歯磨きしてんのか?」
「しましたけど、ってえ、…ん」
布団を敷こうと立ち上がった腕を引かれ、もう片方の手が首裏に回された。視界には土方さん、唇に感触。ひざ立ちになったまま深いキスをされる。突然の事で驚いたけれど、手持ち無沙汰な掴まれていない手が彼の袖をつかむ。微かにタバコの味がした。
しばらくして唇が離れ、微かな唾液が糸を引く。呼吸が上手くできなくて再び彼の膝の上に戻った。
「相変わらず呼吸ヘタクソだな」
「と、突然してくる、からですってば!」
「慣れろよ」
「もう、なんなんですか一体…」
「さて、歯磨きしに行くか。ほらお前も行くぞ」
「私しましたって」
「でも口ん中、タバコの味残ってるだろ?」
「なっ、わざとですか!」
「ほれ、立て。行くぞ」
「そんなに私と一緒にいたいんですかバカ」
「バカは余計だっつーの」
本当に今日はびっくりするほど構ってちゃんのようだ。上機嫌に腕を引いて洗面所へ向かう彼の後ろ姿を見ながら思う。でも口では怒っていながら内心、甘えてくれるのが嬉しい私はどうやら彼にべた惚れのようで。少しだけ歩みを早めて彼の隣に並んだ。
願わくはずっとこんな些細な幸せを感じられる生活が続きますように。夜空を見上げると星が見えたからきっと明日は雨じゃなく、太陽が顔を出してくれるといいな。
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