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南国(ラビ)

「一週間だけだってば」
「納得いかねぇさ」
「任務なんだから仕方ないでしょ?」
「んんんん」



書類だらけの室長室で、疲れきったコムイから任務の説明を受けたのはつい1時間ほど前。どうやらお偉いさんの無茶に付き合わされての疲労らしい。そしてその無茶ぶり関係での任務が私に言い渡された。



「なんでそいつの旅行の護衛にお前が駆り出されるんさ」
「その人の要望に答えられるのが私しかいないんだって」



そうなのである。どうやら教団が資金援助を受けている団体のお偉いさんの一人息子が一週間の旅行の護衛にエクソシストを指名したらしいのだ。
ミランダは別の任務に出てるし、リナリーも明日から任務に出るらしい。そして、ちょうどそこを通りかかった私に白羽の矢がたったのだ。さすがに、断ると減給と過剰労働を強いられそうな室長に半泣きで懇願されたら断れるはずもなく、任務の無かった私が護衛につくことになった。


でも正直、旅行気分を味わえると云う点に浮かれていたのかもしれない。だって南国だし。
そんな私は準備をしようと部屋に戻る最中にラビにあったので任務の内容を話してしまった。最初は浮かれた私に合わせてニコニコ話を聞いていた彼だけれど、話が進むにつれて眉間にシワを寄せ、雲行きが怪しくなってきて、終いには任務を阻止しようとずっと後ろをついてきて離れなくなってしまったのだ。南国行きたいから邪魔しないでほしい。



「ラビ、いい加減にして。準備できない」
「しなくていいさ」
「ちょっと出かけるだけじゃん」
「一週間も過ごすとか無理」
「定員1人だからね」
「ちげえよ!南国なんて危険がいっぱいさ!」
「心配性だなぁ。別にアクマが出る情報もないし、お土産買ってくるから落ち着きなさいって」
「なんでお前はそんな呑気なんさ!」
「南国行きたいし」
「このバカ!」




水着はさすがに着ないか、お土産は美味しそうなチョコレートのお店を探そう、なんて呑気に考えながら服を畳んでいると、背中にひっついていたラビが肩を掴んで向かい合うように目線を合わせてきた。



「もう、何にそんな怒ってるの?南国行きたいの?ごめんね、楽しんでくるよ」
「お前は、俺の彼女じゃん」
「会話しよ」
「彼女が他の男と一週間も過ごすなんて嫉妬するだろうって思わねえの?」
「一般的にはそうかもね」
「俺はその一般的な男なの!」
「え、そうなの?」
「だからお前がなんかされないかすげえ心配してるわけ。わかった?」
「ふむ」
「よし、じゃあ任務断れ」
「やだ、南国いく」
「…もーーー!!」



しゃがみこんで頭を抱えてしまった彼に合わせてしゃがんでみる。どうやら南国に行くのを羨ましがっていたのではなく、嫉妬してくれていたようだ。なんだかニヤニヤしてしまう。



「…何笑ってんさ」
「んーん、別に」
「お前、俺が南国羨ましがってるとか思ってんだろ」
「さっきまで思ってた」
「やっぱり…」
「でも嫉妬ってわかったから嬉しい」
「喜ぶポイントおかしいさ」
「そんなにラビ、私のこと思ってくれてたのかぁ」
「わかったんなら断って」

「でもさ、伝え忘れてたんだけど、護衛するぼっちゃん、6歳なの」
「…は?」


そう、ラビに伝えて無かったが、護衛する相手は6歳の男の子なのだ。両親は共に海外を飛び回り、息子に構ってあげられない、でもいろんなものを経験してほしい、でも心配、という親心故に万全の体制で旅行に望みたくてエクソシストを任命したらしい。コムイから伝えられた情報をラビに伝えると、突然顔を覆って床に突っ伏してしまった。



「ラビ、大丈夫?床汚いよ?」
「うわー!俺ガキンチョにヤキモチ妬いてたとか恥ずかしい」
「早とちり野郎だね」
「…いや、エロガキって可能性も」
「ないから安心して」



恥ずかしさからか左右に揺れる赤髪に触れる。するとピタリと動きがとまってゆっくりと彼が顔を上げた。



「機嫌、直った?」
「ごめんな邪魔して」
「ううん、収穫があったからよかった」
「俺が勘違いしてて面白かったってやつ?」
「ラビが私のこと大好きってこと」
「…格好つかねえけどわかってくれてよかったデス」
「私も大好きだよ」
「おまっ、今ゆうか…!」
「顔赤い」
「…はよ任務いけ」



からかいすぎたのか少し拗ねたラビの髪をなでて、立ち上がる。荷物はトランクを閉めれば完成である。




「お土産楽しみにしといてね」
「チョコレートがいい」
「ふふ、言うと思った」
「はよ帰ってこいよ」
「行けとか、帰ってこいとかワガママだなぁ」
「うっせえ…いってらっさい」
「うん、行ってきます」




一週間後、懐かれたぼっちゃんとラビが睨み合うようになるのはまた別の話。
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