A 道端の雑草
なまえをおしえて。
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11
呑んだ時、最後にレモンシャーベットを食べるのが好きだった。
だから、リリィの店では呑む客にシャーベットを差し入れる。
あさのすけが定番にしたといっても過言ではない。
「あれ、レモンない?」
見ずにカゴを漁ったあさのすけが思わず呟いた。
リゾットを作っていた子が、その呟きに振り返り、しまった!という顔をする。
「あさのすけさん!すみませんっさっきの揚げ物に添えるのに使っちゃいました!」
「あ〜、揚げ物予想よりも多くでたものね」
「俺買ってきますよ!裏路地のターナ爺なら売ってくれると思うので」
リゾットを作り終えた子が皿に盛りながら言った。
助かる申し出、だがメインを大方作り終えたあさのすけの手は空いている。足りない料理は今日担当している彼らに任せた方が良いだろう、とあさのすけは考えるとエプロンを外し買い出し用の店の財布を金庫から出した。
「私が行ってくるよ」
休憩とりたいし、と付け加えると
申し訳なさそうな顔をしていた子は、それならお願いします。と買い出しの役を譲った。
忙しさも落ち着いてきて、そろそろあさのすけに休憩を取って欲しかった彼らにとってちょうどいい理由にもなった。
ターナ爺というのは、いつも使う商店街とは反対の港の裏路地にひっそりとある果物専門の店の店主のことだ。
果物の畑を自分の家族で作っていて、その畑に近いから、という理由と
反対の港は小さく滅多なことで船が停泊しないため、メインの港と雲泥の差で静かなのも理由だと、
何処よりも美味しい果実を卸してくれるのに大々的に店を構えないのを不思議に思ったあさのすけが本人から聞いたのだった。
たしかに、こっちの港は小さすぎてモビーディック号は確実に停泊できないし、海路的にも裏手に回る手間があるため港があること自体を知らない船の方が多く、町民の漁船しか使わない。
モビーディック号の停泊している港の方からは賑やかな音が聞こえるが、こちらはとても静かだった。
慣れた足取りで裏路地を曲がって曲がって、目的の家の扉を控えめに叩くと、
少し間を空けて、不機嫌そうなターナ爺が出てきた。
「…こんな薄暗い時間に女一人でくるんじゃない」
開口一番に怒られた。
しばらく小言が続き、爺の後ろから
「まぁまぁ、お爺さん。ここで話し込んでたらそれこそもっと暗くなってしまいますよぉ」
とターナ爺の奥さんのパールが助け舟を出してくれた。
目的のレモンをカゴいっぱいに詰めてもらう時も、扉を閉めるときまでずっと「次遅くに来たらうちに泊まらせて帰らせんからな」とブツブツ言ってるターナ爺に、あさのすけは苦笑いしながら「ごめん、ごめん、次は気をつけます。」と守るかわからない返事をした。
心配してくれているターナ爺に対して適当だったから、バチが当たったのかもしれない。
「はぁ、はぁっはぁ…!!」
馴染みのある裏路地をあさのすけは精一杯に走る。
時々後ろを見て、玉のような汗をカゴを持っていない手で拭った。
「あっ」
つまずいた拍子にカゴからレモンがいくつか溢れ落ちる。
それを拾おうとしてレモンに手を伸ばした時、背後から足音が聞こえた。
慌ててその手を引き走り出す。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ…!!)
汗が地面に跡を残す。
肩がズキズキと痛み、それに気を取られて曲がる道を間違えた。
「うそ、」
目の前を壁が広がる。
見上げると高いところに屋根が見えた。掴める凹凸もなく登ることも叶わない。
「おーいつーめたー」
あさのすけが振り向くと、ナイフをくるくる回しながら嫌な笑い方をする男がゆっくりとこちらに向かってくる。
その男の顔に見覚えがない。
だが、男の首筋からちらりと見える刺青には見覚えがある。
あさのすけが二度と見たくないと願った刺青だった。
呑んだ時、最後にレモンシャーベットを食べるのが好きだった。
だから、リリィの店では呑む客にシャーベットを差し入れる。
あさのすけが定番にしたといっても過言ではない。
「あれ、レモンない?」
見ずにカゴを漁ったあさのすけが思わず呟いた。
リゾットを作っていた子が、その呟きに振り返り、しまった!という顔をする。
「あさのすけさん!すみませんっさっきの揚げ物に添えるのに使っちゃいました!」
「あ〜、揚げ物予想よりも多くでたものね」
「俺買ってきますよ!裏路地のターナ爺なら売ってくれると思うので」
リゾットを作り終えた子が皿に盛りながら言った。
助かる申し出、だがメインを大方作り終えたあさのすけの手は空いている。足りない料理は今日担当している彼らに任せた方が良いだろう、とあさのすけは考えるとエプロンを外し買い出し用の店の財布を金庫から出した。
「私が行ってくるよ」
休憩とりたいし、と付け加えると
申し訳なさそうな顔をしていた子は、それならお願いします。と買い出しの役を譲った。
忙しさも落ち着いてきて、そろそろあさのすけに休憩を取って欲しかった彼らにとってちょうどいい理由にもなった。
ターナ爺というのは、いつも使う商店街とは反対の港の裏路地にひっそりとある果物専門の店の店主のことだ。
果物の畑を自分の家族で作っていて、その畑に近いから、という理由と
反対の港は小さく滅多なことで船が停泊しないため、メインの港と雲泥の差で静かなのも理由だと、
何処よりも美味しい果実を卸してくれるのに大々的に店を構えないのを不思議に思ったあさのすけが本人から聞いたのだった。
たしかに、こっちの港は小さすぎてモビーディック号は確実に停泊できないし、海路的にも裏手に回る手間があるため港があること自体を知らない船の方が多く、町民の漁船しか使わない。
モビーディック号の停泊している港の方からは賑やかな音が聞こえるが、こちらはとても静かだった。
慣れた足取りで裏路地を曲がって曲がって、目的の家の扉を控えめに叩くと、
少し間を空けて、不機嫌そうなターナ爺が出てきた。
「…こんな薄暗い時間に女一人でくるんじゃない」
開口一番に怒られた。
しばらく小言が続き、爺の後ろから
「まぁまぁ、お爺さん。ここで話し込んでたらそれこそもっと暗くなってしまいますよぉ」
とターナ爺の奥さんのパールが助け舟を出してくれた。
目的のレモンをカゴいっぱいに詰めてもらう時も、扉を閉めるときまでずっと「次遅くに来たらうちに泊まらせて帰らせんからな」とブツブツ言ってるターナ爺に、あさのすけは苦笑いしながら「ごめん、ごめん、次は気をつけます。」と守るかわからない返事をした。
心配してくれているターナ爺に対して適当だったから、バチが当たったのかもしれない。
「はぁ、はぁっはぁ…!!」
馴染みのある裏路地をあさのすけは精一杯に走る。
時々後ろを見て、玉のような汗をカゴを持っていない手で拭った。
「あっ」
つまずいた拍子にカゴからレモンがいくつか溢れ落ちる。
それを拾おうとしてレモンに手を伸ばした時、背後から足音が聞こえた。
慌ててその手を引き走り出す。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ…!!)
汗が地面に跡を残す。
肩がズキズキと痛み、それに気を取られて曲がる道を間違えた。
「うそ、」
目の前を壁が広がる。
見上げると高いところに屋根が見えた。掴める凹凸もなく登ることも叶わない。
「おーいつーめたー」
あさのすけが振り向くと、ナイフをくるくる回しながら嫌な笑い方をする男がゆっくりとこちらに向かってくる。
その男の顔に見覚えがない。
だが、男の首筋からちらりと見える刺青には見覚えがある。
あさのすけが二度と見たくないと願った刺青だった。