A 道端の雑草
なまえをおしえて。
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03
あさのすけは調理学校を卒業してすぐに料亭に就職した。
学生時代から下積みさせてもらっていた料亭だった為、どんなに厳しくてもどんなに過酷でも楽しかった。
料亭で料理できるまでの道はとても長い。だからこそ触れられる料理はとても繊細で洗練られていて憧れるものだとあさのすけは常に思っていた。
あの日は焼き場を任せてもらえるというとても嬉しい日だった。
任せてもらえるといっても、まだまだ修行中の身で先輩からたくさん叱咤激励され、言われたことを反復しながら帰宅していた。
もしかしたら浮かれていたのかもしれない。
ふわふわした心持ちだったのかもしれない。
もっとしっかり気をもっていたら、あさのすけは帰りの道中でトラックに轢かれることはなかった、かもしれない。
死後の世界というのはなんとも禍々しいものなんだなと、目が覚めた瞬間思った。
周囲は鉄格子。手には鎖。首にも鎖。
まるで裁きを受ける前の牢獄だ。
そんなにも自分は徳のない人間だったのだろうか。
少なくとも人に指さされる所業はしてないつもりだ。と、自分で言うことじゃないがあさのすけは思った。
これから閻魔の裁き。
だったらどんなに良かったことか。
カーテン開けられ見えたのはたくさんの人間と、これから受けるであろう自分の扱いの現実だった。
いままで見ていた二次創作の小説のヒロインの気持ちが心底わかる。と他人事のように思ったのは、せめてもの現実逃避。
これが今まで生きてきた世界と違うと知ったのは
跳ね上がる自分の価格が1億ベリーと目の前の会場に響いた時だ。
あんなに好きだった漫画が、今自分を絶望に落としている。
きっと知らず知らずに溜まっていた疲労やらストレスが、この夢を見ているんだ。と
嫌な視線に震えながら、自分に言い聞かせる。
ハンマーの音の後目の前に現れた大きな男
見上げた瞬間、触られていないのに上から押しつぶされたような重圧
震えは全身を駆け巡って、目の前の男と目があった瞬間、背中が熱く痛く焼ける匂いがした。
言葉にならない痛みが、自分の現状を現実だと突きつける。
いかに日本が、自分の人生が優しかったのか
あさのすけはこの後の2年間幾度思っただろか。
「久々見た…」
じめっとした嫌な汗と、初めて突きつけられた地獄の瞬間の夢にあさのすけは目を覚ました。
目の前はもう牢屋じゃない。嫌だった薄暗くカビが生えた木の板の天井じゃない。
ふぁっと太陽の香りがするシーツと、綺麗に磨かれた家の天井。ここは一年住まわせてもらってる酒場の女主人の家の一室だった。
首を曲げて窓を見れば月がちょうどの位置で見えるほどの夜。
手を伸ばして窓を開ければ、さわやかな風が汗ばんだ体を心地よく冷やした。
肉付きの良い体は汗をかきやすい。ちょうど良い夜風だし、とあさのすけは羽織を変えて外に出る準備をした。
この夜空を散歩すれば、きっと嫌な気持ちも少しは忘れさせてくれるはず。
あさのすけはそっと窓を開けて、靴を履いた足をかける。
運動神経が平均以下のあさのすけでも歩ける幅の屋根。それをすこし歩くと町の広場に繋がる石畳の階段道に出れる。
店の出入り口から行儀よく外出もいいが、店の人が寝静まる夜中はこうやって、こそっ。とでた方が最低限の物音で外に出れる。
なにより、あさのすけはこの屋根の上から見える夜の町並みと海が好きだった。
「歓迎ムード満載ね」
広場は町の人たちによって装飾が飾られていた。
中央に台座が設置されているのを見ると、きっと白ひげ海賊団が上陸した後祭りでもするつもりだろう。
町の人たちがどれだけ白ひげ海賊を讃えているのか、どれだけ船が来るのを楽しみにしていたのか伝わるようで、あさのすけは思わず笑みがこぼれた。
大きく深呼吸して、振り返る。
高台にある広場から、酒場やヴァルターの武器屋、家の屋根が見下ろせる。
その先にある海。そこにいつもない大きな船が見えた。
上陸にはまだ距離があるが、この距離でも大きく見えると言うことは、ほんとうにとてつもなく巨大な船なのだろう。
船頭は鯨。旗にはヒゲのついたドクロ。
ずっと好きだった海賊団のトレードマーク。
「あっ…。」
ずっと、待ちわびていた。
この町が白ヒゲ海賊の縄張りの1つだと知った瞬間の胸の熱さは忘れない。
助けられたのは、あさのすけも同じ。
3年前、売られた先の海賊船から逃げだせたのは彼らのおかげだった。
彼らに意図があって助けられたわけではない。けど、あさのすけにとって、逃げるきっかけになったのは確かだ。
好きな白ヒゲ海賊団に会いたい。話したい。欲張るなら船に乗りたい。
もう海賊には関わりたくない。あの生活に戻りたくない。静かに暮らしたい。
好きと憧れと過去の傷とトラウマが自分の中をぐるぐるしている。
「どうしたい…私…。」
徐々に港に近づく白ヒゲの船、モビーディック号。それを眺めながら、あさのすけは痛む気がする左の肩をそっと触った。
それを夜空から一匹の青い鳥が見下ろしていた。
あさのすけは調理学校を卒業してすぐに料亭に就職した。
学生時代から下積みさせてもらっていた料亭だった為、どんなに厳しくてもどんなに過酷でも楽しかった。
料亭で料理できるまでの道はとても長い。だからこそ触れられる料理はとても繊細で洗練られていて憧れるものだとあさのすけは常に思っていた。
あの日は焼き場を任せてもらえるというとても嬉しい日だった。
任せてもらえるといっても、まだまだ修行中の身で先輩からたくさん叱咤激励され、言われたことを反復しながら帰宅していた。
もしかしたら浮かれていたのかもしれない。
ふわふわした心持ちだったのかもしれない。
もっとしっかり気をもっていたら、あさのすけは帰りの道中でトラックに轢かれることはなかった、かもしれない。
死後の世界というのはなんとも禍々しいものなんだなと、目が覚めた瞬間思った。
周囲は鉄格子。手には鎖。首にも鎖。
まるで裁きを受ける前の牢獄だ。
そんなにも自分は徳のない人間だったのだろうか。
少なくとも人に指さされる所業はしてないつもりだ。と、自分で言うことじゃないがあさのすけは思った。
これから閻魔の裁き。
だったらどんなに良かったことか。
カーテン開けられ見えたのはたくさんの人間と、これから受けるであろう自分の扱いの現実だった。
いままで見ていた二次創作の小説のヒロインの気持ちが心底わかる。と他人事のように思ったのは、せめてもの現実逃避。
これが今まで生きてきた世界と違うと知ったのは
跳ね上がる自分の価格が1億ベリーと目の前の会場に響いた時だ。
あんなに好きだった漫画が、今自分を絶望に落としている。
きっと知らず知らずに溜まっていた疲労やらストレスが、この夢を見ているんだ。と
嫌な視線に震えながら、自分に言い聞かせる。
ハンマーの音の後目の前に現れた大きな男
見上げた瞬間、触られていないのに上から押しつぶされたような重圧
震えは全身を駆け巡って、目の前の男と目があった瞬間、背中が熱く痛く焼ける匂いがした。
言葉にならない痛みが、自分の現状を現実だと突きつける。
いかに日本が、自分の人生が優しかったのか
あさのすけはこの後の2年間幾度思っただろか。
「久々見た…」
じめっとした嫌な汗と、初めて突きつけられた地獄の瞬間の夢にあさのすけは目を覚ました。
目の前はもう牢屋じゃない。嫌だった薄暗くカビが生えた木の板の天井じゃない。
ふぁっと太陽の香りがするシーツと、綺麗に磨かれた家の天井。ここは一年住まわせてもらってる酒場の女主人の家の一室だった。
首を曲げて窓を見れば月がちょうどの位置で見えるほどの夜。
手を伸ばして窓を開ければ、さわやかな風が汗ばんだ体を心地よく冷やした。
肉付きの良い体は汗をかきやすい。ちょうど良い夜風だし、とあさのすけは羽織を変えて外に出る準備をした。
この夜空を散歩すれば、きっと嫌な気持ちも少しは忘れさせてくれるはず。
あさのすけはそっと窓を開けて、靴を履いた足をかける。
運動神経が平均以下のあさのすけでも歩ける幅の屋根。それをすこし歩くと町の広場に繋がる石畳の階段道に出れる。
店の出入り口から行儀よく外出もいいが、店の人が寝静まる夜中はこうやって、こそっ。とでた方が最低限の物音で外に出れる。
なにより、あさのすけはこの屋根の上から見える夜の町並みと海が好きだった。
「歓迎ムード満載ね」
広場は町の人たちによって装飾が飾られていた。
中央に台座が設置されているのを見ると、きっと白ひげ海賊団が上陸した後祭りでもするつもりだろう。
町の人たちがどれだけ白ひげ海賊を讃えているのか、どれだけ船が来るのを楽しみにしていたのか伝わるようで、あさのすけは思わず笑みがこぼれた。
大きく深呼吸して、振り返る。
高台にある広場から、酒場やヴァルターの武器屋、家の屋根が見下ろせる。
その先にある海。そこにいつもない大きな船が見えた。
上陸にはまだ距離があるが、この距離でも大きく見えると言うことは、ほんとうにとてつもなく巨大な船なのだろう。
船頭は鯨。旗にはヒゲのついたドクロ。
ずっと好きだった海賊団のトレードマーク。
「あっ…。」
ずっと、待ちわびていた。
この町が白ヒゲ海賊の縄張りの1つだと知った瞬間の胸の熱さは忘れない。
助けられたのは、あさのすけも同じ。
3年前、売られた先の海賊船から逃げだせたのは彼らのおかげだった。
彼らに意図があって助けられたわけではない。けど、あさのすけにとって、逃げるきっかけになったのは確かだ。
好きな白ヒゲ海賊団に会いたい。話したい。欲張るなら船に乗りたい。
もう海賊には関わりたくない。あの生活に戻りたくない。静かに暮らしたい。
好きと憧れと過去の傷とトラウマが自分の中をぐるぐるしている。
「どうしたい…私…。」
徐々に港に近づく白ヒゲの船、モビーディック号。それを眺めながら、あさのすけは痛む気がする左の肩をそっと触った。
それを夜空から一匹の青い鳥が見下ろしていた。