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短編

「どこにいるんだい?」
僕は尋ねる。
「ここだ、ここ。窓のそばにいるぞ」
なんだ、そんなところにいたのか。僕は安心する。
なんだか、君が何処かに行ってしまいそうで。不安で仕方がなかった。
「なにをしているの?」
「何にもしてないぞ」
見てわからないのか、と君は笑う。
そりゃそうだ。我ながら変な質問をしたな、と自分でも思う。
ねぇ、君は。確かに、そこに居るんだよね?
「どこへ行くの?」
やはり不安になって、僕は君に尋ねる。
「どこへも行かないぞ!」
心配しすぎなんだ、お前は。そう言いながら、彼は笑う。
こっちはそれどころじゃないの!僕は怒ってみる。
君が、消えてしまいそうで。不安で仕方なくて。
「ははは!全く。面白い人間だよ、お前は」
心配しなくても。
「……ずっと、そばにいるさ」
それから、僕と君は見つめ合う。
そして、らどちらからともなくくちづけをかわす。
なんだか、とても幸せな気分だ。夢なんじゃないか、と思うくらいに。
……あぁ、この時間が、いつまでも続きますように。

「どこにいるの!?」
僕は焦る。君がいない。
一体、どこにいっちゃったの!?
このままだと、君が何処かへ行っちゃうような気がして。一生懸命探す。
「おーい!こっちだ!」
すると、隣の部屋から君が出てくる。
あぁ、そんなところにいたんだ。心配させないでよ!
「ははは。お前はわたしに対して少々過保護だな」
うぐ、言い返せない。
「……でもさ。なんだか、君が何処かへ行っちゃうような気がして……」
君は、少し寂しそうな顔をする。
……ねぇ。なんで君は、そんな顔をするんだい?
なんだかいたたまれなくなって、僕は君にキスをする。
君は抵抗せず、僕にキスを送り返してくれる。
幸せだ。なのに、なんだろう。胸にわだかまりがのこっている。それを誤魔化すように、君に更にキスを送る。
閉ざされている唇を舐める。くすぐったいのか、ふふ、と笑い声が聞こえる。
口、あけて。そう言うと、君は素直に口を開ける。
そして、深いキスをおくる。君は、僕にキスを送り返してくれる。
キスに没頭する。しかし、頭の隅にあるわだかまりは消えない。
なんだかモヤモヤする。君も、それに気づいたのだろう。なんだか不審そうな顔をしている。
「どうしたんだ?」
「……いや……。なんでもないよ」
しかし、君は何をしていたんだい?
「あぁ、手紙を書いていたんだ」
「手紙?なんでまた?」
紙とペンで書いていたらしい。珍しい、と僕は思う。
手紙を書くなんて。なんだか、何年も前の人みたいで、僕は少し笑う。
「む。何も笑うことはないだろう」
「ふふ、ごめんね。なんだか古くさくてさ」
どうやら、君の機嫌を損ねてしまったらしい。机に逆戻りする。
「それ、誰宛なの?」
「ふふ。それは秘密だ」
「えぇ〜。教えてくれたっていいじゃない」
「ふふふ。駄目なものは駄目だ!」
君は、手紙を書くことに専念することにしたらしい。
僕は君の横顔を見つめる。
その横顔が儚くて。また、どこかに消えてしまうのではないか?という思考に取り憑かれた。
「ねぇ。こっちにおいでよ」
君は、何も言わない。
「……すまない。でも、もう行かなくてはならない」
君は、こっちに背を向ける。
「何を言っているの!?」

「話をしようよ!!」

君は、何も言わない。
抱きつきたくて、でも体が動かない事に気づく。

「ねえ!話をしようよ!!」

グラハム!!

グラハムは、何も言わずに振り返る。
グラハムは、泣きながら笑っていた。

「……さようなら、カタギリ」

はっ、と目を覚ます。
目からは勝手に涙が出ていた。
懐かしい人物の夢を見たな、と思う。
グラハム・エーカー。僕の恋人であり、人類の未来を切り拓く為に散った英雄。
彼の遺体は、見つからなかった。
君のことだ、実はまだどこかで飄々と生きているのではないか?などと思ってしまう。
そんなの、希望的観測にすぎない。
そうだ。今日は君のお墓に行ってみよう。中に、骨はないけれど。
ねえ、グラハム。ゆうべ、君の夢を見たよ。
君は、居なくなってしまったけど。いつも、僕の心の中に存在し続けるんだよ。
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