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中編

俺は、気がついたら”そこ”にいた。
俺には、「素質」というものがあるらしい。
……いつも匂うのは、薬品の匂い。
大人たちの手で、体をいじくりまわされる。
ーーそこは、倫理に反した人体実験を行う施設だった。

その施設は、「脳量子波」について研究する施設らしい。
らしい、というのはおなじ被験体の、比較的「おとな」に好かれている人間が、おとなから聞いたらしい。
『ここは、脳量子波を研究する場所。ここにいるこどもは、みんな脳量子波を使える素質があるんだよ』と。

おとなは残酷だ。
かつて、俺には友人と呼べる間柄の人間がいた。
名前は、忘れてしまった。しかし、とても仲のいい間柄だった。
“そいつ”とは、ある実験室で出会った。
実験室で泣いていたところを見つけてしまった。
なんとなく、放っておくて。
そいつに、話しかけてしまった。
「……、おい。どうしたんだ」
「……ぅっ、ぼく、つぎのじっけんで、死んじゃうんじゃないかって、それで……」
大丈夫だ、なんて無責任なことは言えない。
どう返していいのかわからず、沈黙していると。
「……情けない姿を、見せちゃったね。僕は被験体◯ー◯◯◯。君は?」
「……被験体0-427だ」
「……427……。せつなだね!」
無理があるかな、なんて、そいつは笑う。
「せつな……」
「うん、どうかな?」
「……いいと、思う」
「ほんと!?じゃあ、今日から君は刹那だね!」
「……じゃあ、おまえは◯◯、だな」
「……!それ、いいね!」
じゃあ、これから僕たちは友達だね!
そいつは、屈託のない笑顔を俺に向ける。
まぶしい、と思った。
それから、俺の生活は一変した。
以前とくらべて、とても楽しかった。
何をするにもそいつと一緒だった。
無慈悲な実験も、あいつがいる、そう思うだけで耐えられた。
しかし、世界は残酷だった。
ある日から、そいつの姿が見えなくなった。
可能性は、一つしかない。
まさか。いや、そんなばかな。
あいつが、しんだ。
俺は、その事実を受け入れることができなかった。
感情の起伏が激しくない俺だが、その事実にたどり着いた時、泣いてしまった。
……こんな思いをするなら、友達なんて、作らない。
そう、心に決めたのだった。

部屋が移動になった時。そいつと出会った。
被験体0-9086。
そいつは、厳重な警備が敷かれた部屋にいるようだった。
それだけで、そいつは特別なのだ、と理解した。
最初に話しかけてきたのは、あいつの方だった。
「おーい、そこの君!」
男が呼んでいる。
……ここにいるのは、俺しかいない。
「……俺のことか?」
「そうだとも!君、番号は?」
「……0-427だ」
「……0-427……。せつな、だな!」
亡き友と一緒のことを言う。
それだけで泣きそうになる。
「……どうしたんだい?」
「……なんでもない」
「そうか?」
そいつは、屈託のない笑顔を俺に向けた。

俺は、◯◯の件があったから、特定の人物と仲良くする気は無かった。
それは、0-9086も例外では無かった。
しかし、そいつは俺に寄り添ってきた。
なんなんだ。なぜ、俺なんだ。
ある日、そう被験体1-9086に聞いた。
すると、
「運命を感じたのだよ!」
と返された。

そいつは、太陽のように明るかった。
こんな施設にいるのだ。すさんでいる人間ばかりであった。
刹那も、その1人であった。
……しかし、被験体1-9086はそうでは無かった。
被験体1-9086への待遇を見る限り、被験体1-9086は特別なのだろう。
……その分、俺たちよりもっとひどい実験をされているのだろう。
そう考えると、胸が張り裂けそうになった。
……だめだ、1人の人間に肩入れしては。
◯◯のようには、なってはいけない。
俺は、グラハムを拒絶した。
……しかし、被験体1-9086はそんな俺の態度なんて構わず、被験体1-9086は俺に寄り添った。
「……どうしておまえは、そんなに明るいままでいられるんだ?」
疑問をぶつける。
グラハムは、面食らったような顔をした。
が、すぐに笑顔になる。
「……ふふ。私はね、刹那。いつかこの状況がかわる、とおもっているのだよ」
「……それは、おまえの能力と関係があるのか?」
「……どうだろう。半分そうで、半分は直感だな」
私は直感で生きるタイプなのだよ。
なんて笑う。
……そんな笑顔に、どきっとする。
……これは、何なのだろうか。
形容しようにも、俺は”それ”に名前をつけられるほどの知識はなかった。

そんなことがあって少し経つ。
被験体たちには、日付を確認する術がなかった。
今が朝か夜なのか、と言うこともわからなかったし、そもそも朝と夜、という概念がなかった。
ある日のこと。いつも通りいつもの場所で被験体1-9086をまっている。
被験体1-9086は、しばらくしてから現れた。
しかし、様子がおかしい。
……どうかしたのだろうか。
心配になる。
すると、その瞬間に被験体1-9086が咳き込む。
「ごほっ、げほっ!」
すると、口にあてていた手から血が流れ落ちる。
「!!」
血を拭いてやろうとする。も、無慈悲にもガラスがその行為を阻む。
もどかしかった。
「9086、大丈夫か!おい、9086!!」
「……あぁ、大丈夫だよ、刹那。大したことではないさ」
青白い顔で、そう笑ってみせる。
「……心配なんだ、お前が。」
被験体1-9086はびっくりしている。
「……ふふ。ははは!よもや君にそんなことを言われようとは!アプローチをした甲斐があったというものだなあ!」
「……俺は本気だ」
「ああ、わかっているとも!」
グラハムは、よくわからないことを言い出す。
「刹那。キスをしよう」
「……キス?」
「そう、キスだ!唇と唇を合わせ合う行為だよ」
「……俺たちは、触れ合うことができない」
「……ふふ、そんなことを言わないで。ガラス越しでも、やってみないか?」
……キス、という行為に興味があった。
……興味があった、というだけだ。他意はない。
「……わかった」
「!!本当か!」
グラハムはぱあ、と破顔させる。
そして、くちびるがガラスに吸い寄せられる。
ちゅ。そんな音が、聞こえた気がした。

グラハムと会うときは、必ずキスをした。
それは、幸せなひと時だった。

それは、唐突に起こった。
どん、と爆発音が聞こえる。
みんな混乱する。
何が起こった!?
……そこには、今までにみたことのない、ロボットがいた。
この施設の長は、逮捕された。
違法な実験をしている、ことがどこからか漏れたらしい。
こどもは皆、無事に保護された。
太陽が当たらない、薄暗い部屋の中にいたので、初めて浴びる太陽はとても眩しかった。

こどもたちは皆孤児院に引き取られた。
それは、施設にいた時には考えられないような、とても幸せな毎日だった。
刹那とグラハムは、同じ孤児院に引き取られた。
……グラハム。
それは、刹那がつけた名前だった。
グラハムは、その名前をとても大事にしているらしい。
グラハム曰く、大切なひとに貰ったものは、大切にするさ……らしい。
すきなひと。
刹那には、それがなんなのか理解できなかった。
……しかし、グラハムといると、心臓がドキドキして、うまく話せなくなる。
それをグラハムに伝えると、それは”恋”だよ、と答えられる。
……こい。俺には、それがよくわからなかった。
「……恋とはね、刹那くん。その人のことが特別になって、好きになる、ということだよ」
……すき。
それは、グラハムから常日頃言われていた。
俺にとって、グラハムは特別だ。グラハムがいない生活なんて、考えられない。
あぁ、好きって、恋をするって、こういうことなんだなぁ、と実感した。

グラハムは体が弱かった。
俺たちより酷い実験をされていたのだ、当然だろう。
よく、血を吐く。気絶する。
そういった発作が起こるたび、俺は気が気でなかった。
グラハムがしんだら、どうしよう。
……とても、耐えられそうになかった。

グラハムの容体が急変した。
気絶したまま、起きなかった。
いつもなら、遅くても一日でおきる。
……が、今回は三日経っても起きることはなかった。
医者によると、実験の後遺症であらゆる場所がやられ、もう持たない、ということだ。
……うそだ。
グラハムが、死んでしまう。
その事実を、受け入れられなかった。
「……長くて、1ヶ月ですね」
いっかげつ。
それは、あまりにも短かった。

グラハムが目を覚ました。
倒れる前の記憶が無いのだろう。なぜみんなここに?と首を傾げていた。
俺は、おもわずグラハムに抱きつく。
「わわ、刹那?」
「……グラハム……!俺は、お前が一生起きないのか、心配になって、それで……!」
「……ふふ、刹那。……自分でも、先が短いことは理解している。……その分、人生を謳歌しようではないか!」
一日でも長く生きてみせるぞ!

グラハムが言った通り、俺たちは残り少ない人生を謳歌した。
遊園地、などというところに行ってみたり、カフェなんていうところでお茶をしてみたり。
とても、充実した日々だった。

それから、三週間たった。
死期が近い。
刹那は考えていた。
グラハムが死んだら俺も死のう、と。
最近、グラハムの様子がおかしい。
なにか隠し事をしている風だった。
何をしているんだ、と聞いても内緒だ、とはぐらかされるだけたった。

グラハムが、目を覚まさなくなった。
あぁ、いよいよ死んでしまうのだな、と皆理解していた。
グラハムは、その性格故皆に慕われていた。
グラハムが死ぬことで悲しむ人間は大勢いる。
おい、まだ死ぬな、グラハム!!
そう思っていると、グラハムが目を覚ます。
「……せつ、な……」
「なんだ、グラハム」
「……私は、もう、だめなようだよ」
「……そんなことを言うな……!」
俺は泣きそうになる。
「……ふふ。そんなかおを、するな……」
グラハムの冷たい手が俺の頬を撫ぜる
「……刹那。あとで私の部屋のチェストの中にある、青い箱を開けてみてくれ」
「あぁ、わかった」
「……ふふ、やくそくだ、ぞ……」
グラハムは目を閉じる。
「いやだ、いやだ、グラハム!!死ぬな!!!」
ボロボロと涙が溢れる。
「せつ、な。わたしは、きみのことを、」

あいしていたよ。

グラハムの手がぱたり、と落ちる。
……グラハムが死んだ。
その事実を、受け入れることができなかった。

それからというもの。どう生活していいのか、自分でも覚えていない。
グラハムの後を追おう。
みんな寝静まった深夜、キッチンへ向かう。
これで死のう。
ギラリ、と光る。
恐怖は、なかった。
その時ふと、グラハムが言った言葉を思い出す。
……たしか、チェストの青色の箱を開けてほしい、だった。
……何故、今まで忘れていたのだろう。
中身を確かめてからでいいか。
包丁を元の位置へ戻した。

グラハムの部屋。まだ、グラハムの匂いがする。
懐かしい匂いだ。
太陽のような匂い。
……泣きそうになるので、手短に済まそう。
チェストを開く。
グラハムが言っていた通り、そこには青色の箱が鎮座していた。

蓋を開けてみる。
そこには、グラハムと刹那の、思い出の写真がぎっしりと詰まっていた。
グラハムが、生きていた証だ。
一枚一枚、大切に見る。
写真に写るグラハムは、どれも笑顔だった。
そして、一番下に何やら紙がちょこん、とおいてある。
なんだろうか、と思い手に取ると、それは手紙だった。

『刹那へ
これを読んでいるということは、私は死んでしまったのだろう。
……刹那に出会えて、本当に良かったと思っているよ。
刹那がいなかったら、私はどうなっていたのだろう。……考えるだけで、恐ろしい。
正直に言うと、最初は話せれば誰でもいい、と思っていた。
刹那がそこに来るなんて、私にはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられない!
それから、だんだん私たちの距離は縮まっていったね。
どんなに過酷な実験をされても、君がいるから、と耐えられたよ。
そして、施設が瓦解してから。それからの生活は、以前と比べ物にならないくらい楽しかったよ。
刹那が、そばにいたから。
短い人生だったけど、とても充実した人生だった。
……刹那には、生きて欲しい。
私が生きれなかった分。私の代わりに、生きて欲しい。
……刹那くんのこと、ずっと待ってるから。』

涙が止まらなかった。
グラハムのために生きよう。そう、思えた。
そうだ。グラハムは、俺が生きることを望んでいる。
……ここで死ぬわけにはいかない。
グラハムの想いを、踏みにじってしまうから。
……グラハム。向こう側で、俺のことを見ているのだろうか?
俺は生きる。お前のために。
……グラハム。今日も、空が綺麗だ。
お前が愛して止まなかった空。
お前のために、俺は生きるよ。
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