口移しのチョコレート
着いたのは、青空の見えるオープンカフェ。
その景色を一番に占領できてしまう真ん中のテラス席に腰掛けた。
「景色きれいだね!」
「そうだね〜」
メニュー表を開く仕草は一応しておくが、頼むものはもう決めてあった。
有名パティスリーとコラボした、バレンタイン当日限定メニュー。
高校生にはなかなか手の届かない金額であったが、今日は特別な日だからと奮発することにして、値段には目をつぶった。
さっそく店員さんに注文をして、スイーツが届くのを待つ。
「佐江ちゃん。さっきはごめんね。いきなり怒っちゃって…」
「ううん。佐江の方こそ、ゆきりんの気持ちわかってあげられなかった。ごめん」
「佐江ちゃん、モテるから…バレンタイン当日も、みんなにとられちゃうのはわかってた…だから今だけは佐江ちゃんのこと、独占させて?」
「うん、もちろん。佐江の彼女はゆきりんだけだもん」
しばらくして、スイーツが届いた。
チョコレートのタルトやシュークリームなどのお菓子と、ボンボンショコラが並んだプレート。
ドリンクはココア。
「わぁ、おいしそう!」
「いただきます!」
佐江ちゃんはスイーツを前に目を輝かせて、両手を合わせた。
「佐江ちゃん、スイーツにもいただきますっていうタイプ?」
「だって、こんなにもおいしそうなスイーツなんだよ!言わずにはいられないよ!」
「それもそうね。いただきます」
私もそれにならって両手を合わせフォークを手に取る。
タルトを一口、口の中へ運ぶ。
口いっぱいにチョコレートの甘さと苦味がちょうどいいバランスで広がった。
「ん!こんなにおいしいチョコ食べたことない!」
「ほんとに!!これやばい!!」
私たちはあまりのチョコレートのおいしさに舌鼓を打ち、大きな声でリアクションしてしまう。
「…あ」
我に返って辺りを見渡すと、マダムたちからの冷ややかな視線を感じた。
「佐江ちゃん、もうすこし静かにしよっか…」
「うん、そうだね…」
次はシュークリームを手に取って、口に入れる。
クリームの甘味が味わい深く、これまた至極の一品だった。
再び大きな声が出そうになるが、マダムにこれ以上目をつけられたくないので必死に抑える。
佐江ちゃんの方を見ると、おんなじようにがんばってリアクションするのを耐えていた。
それを見て笑いそうになるのを、またこらえる。
佐江ちゃんも同じようにして、もう訳がわからない。
そんな風に笑い合いながら、ココアを飲んだ。
佐江ちゃんに目を向けると、だんだんと目がとろんとしているのがわかった。
私も、頭の中がクラクラとするのを感じる。
私はなぜそうなったか知っている。
正体はこのチョコレートにあるから。
「ねえゆきりん…なんか、体熱くない?」
「そう?気のせいじゃないかな…」
私はもう一度メニュー表を見る。
限定メニューの写真の下、小さい字で『洋酒ブランデー入り』と書かれてある。
最初からこれが狙いだった。
お酒の力を使って、佐江ちゃんとしたいことがあったから。
「佐江ちゃん」
私はボンボンショコラを口に含んで佐江ちゃんの前に立った。
そのまま膝によじ登って、彼女の顔を両手で包む。
「ゆきりん…?」
一瞬だけ空いた口の中に、ボンボンショコラを移した。
そのまま舌が絡まって、歯まで舐め取る。
チョコと私たちの液が、交わって糸になる。
ようやく唇が離れて、佐江ちゃんは息を整えた。
「ちょっとゆきりん…ここ、外…」
「関係ない。いつも通りじゃつまんないでしょ?」
私はもうひとつのボンボンショコラを手に取って、佐江ちゃんの口に入れる。
今度はそれを迎えに行くように、斜めから抱きしめてキスをした。
私たちはまだ付き合いたてのカップル。
いつもは触れるだけのキスしかしていなかった。
もっと深いキスをしてみたい。
でも、そう提案するのは恥ずかしかった。
だから、お酒入りのチョコレートを使えば、まるでディープキスのような口移しができるんじゃないか。
このチョコレートをsnsで見かけた瞬間、そんな邪な考えが生まれてしまったのだ。
「はぁ…ゆきりん、もう、だめだってば…」
佐江ちゃんは潤んだ目で私を見つめる。
それを見ていると、もっとやりたくなる。
私はもう一度、唇を貪った。
きっと、さっきのマダムたちは軽蔑したような視線でこちらを見ているのだろう。
でも、私にはそんなのどうでもよかった。
騒音も聞こえないし、人目も気にしない。
大事なのは、佐江ちゃんと過ごしているこの瞬間、今だけなのだから。
何度も何度も、チョコが口からなくなっても、私たちは口移しを続けた。
まるでただの動物のように。
発情期の猫みたいに、ひたすらに佐江ちゃんを求め続ける。
視線を感じる方が嬉しい。
誰かに見られている方が私はもっと大胆になれるのだ。
佐江ちゃんの手が私の腰を掴もうとして、テーブルの上にあったココアを倒してしまう。
そのままふたりの制服にシミが広がっていったが、まったく気にすることはなかった。
私は、佐江ちゃんしか見えていないから。
私にとって、愛とはそういうもの。
目の前の人しか見えない。
目の前の人しか愛せない。
誰よりも愛おしくて、誰よりもかっこよくてかわいい私の恋人。
そんな彼女をいっぱい困らせたい。
それが私にとっての愛。
「佐江ちゃん、目開けて?閉じてたらもったいないよ」
佐江ちゃんが、閉じていた目をゆっくりと開ける。
その目はさっき以上に熱を帯びていた。
このチョコレートは、お酒という名の毒が入っている。
この毒が私たちを狂わせる。
「佐江ちゃん、このチョコおいしいね」
「うん…でも、もう味わかんない…」
「ふふ、佐江ちゃんかわいい。困った顔も素敵よ」
そう言う佐江ちゃんの唇をまた奪う。
佐江ちゃんの愛を舐め尽くす。
青空の下、私たちは愛し合った。
チョコの味は、もうすっかり私たちの味に変わっていた。
その景色を一番に占領できてしまう真ん中のテラス席に腰掛けた。
「景色きれいだね!」
「そうだね〜」
メニュー表を開く仕草は一応しておくが、頼むものはもう決めてあった。
有名パティスリーとコラボした、バレンタイン当日限定メニュー。
高校生にはなかなか手の届かない金額であったが、今日は特別な日だからと奮発することにして、値段には目をつぶった。
さっそく店員さんに注文をして、スイーツが届くのを待つ。
「佐江ちゃん。さっきはごめんね。いきなり怒っちゃって…」
「ううん。佐江の方こそ、ゆきりんの気持ちわかってあげられなかった。ごめん」
「佐江ちゃん、モテるから…バレンタイン当日も、みんなにとられちゃうのはわかってた…だから今だけは佐江ちゃんのこと、独占させて?」
「うん、もちろん。佐江の彼女はゆきりんだけだもん」
しばらくして、スイーツが届いた。
チョコレートのタルトやシュークリームなどのお菓子と、ボンボンショコラが並んだプレート。
ドリンクはココア。
「わぁ、おいしそう!」
「いただきます!」
佐江ちゃんはスイーツを前に目を輝かせて、両手を合わせた。
「佐江ちゃん、スイーツにもいただきますっていうタイプ?」
「だって、こんなにもおいしそうなスイーツなんだよ!言わずにはいられないよ!」
「それもそうね。いただきます」
私もそれにならって両手を合わせフォークを手に取る。
タルトを一口、口の中へ運ぶ。
口いっぱいにチョコレートの甘さと苦味がちょうどいいバランスで広がった。
「ん!こんなにおいしいチョコ食べたことない!」
「ほんとに!!これやばい!!」
私たちはあまりのチョコレートのおいしさに舌鼓を打ち、大きな声でリアクションしてしまう。
「…あ」
我に返って辺りを見渡すと、マダムたちからの冷ややかな視線を感じた。
「佐江ちゃん、もうすこし静かにしよっか…」
「うん、そうだね…」
次はシュークリームを手に取って、口に入れる。
クリームの甘味が味わい深く、これまた至極の一品だった。
再び大きな声が出そうになるが、マダムにこれ以上目をつけられたくないので必死に抑える。
佐江ちゃんの方を見ると、おんなじようにがんばってリアクションするのを耐えていた。
それを見て笑いそうになるのを、またこらえる。
佐江ちゃんも同じようにして、もう訳がわからない。
そんな風に笑い合いながら、ココアを飲んだ。
佐江ちゃんに目を向けると、だんだんと目がとろんとしているのがわかった。
私も、頭の中がクラクラとするのを感じる。
私はなぜそうなったか知っている。
正体はこのチョコレートにあるから。
「ねえゆきりん…なんか、体熱くない?」
「そう?気のせいじゃないかな…」
私はもう一度メニュー表を見る。
限定メニューの写真の下、小さい字で『洋酒ブランデー入り』と書かれてある。
最初からこれが狙いだった。
お酒の力を使って、佐江ちゃんとしたいことがあったから。
「佐江ちゃん」
私はボンボンショコラを口に含んで佐江ちゃんの前に立った。
そのまま膝によじ登って、彼女の顔を両手で包む。
「ゆきりん…?」
一瞬だけ空いた口の中に、ボンボンショコラを移した。
そのまま舌が絡まって、歯まで舐め取る。
チョコと私たちの液が、交わって糸になる。
ようやく唇が離れて、佐江ちゃんは息を整えた。
「ちょっとゆきりん…ここ、外…」
「関係ない。いつも通りじゃつまんないでしょ?」
私はもうひとつのボンボンショコラを手に取って、佐江ちゃんの口に入れる。
今度はそれを迎えに行くように、斜めから抱きしめてキスをした。
私たちはまだ付き合いたてのカップル。
いつもは触れるだけのキスしかしていなかった。
もっと深いキスをしてみたい。
でも、そう提案するのは恥ずかしかった。
だから、お酒入りのチョコレートを使えば、まるでディープキスのような口移しができるんじゃないか。
このチョコレートをsnsで見かけた瞬間、そんな邪な考えが生まれてしまったのだ。
「はぁ…ゆきりん、もう、だめだってば…」
佐江ちゃんは潤んだ目で私を見つめる。
それを見ていると、もっとやりたくなる。
私はもう一度、唇を貪った。
きっと、さっきのマダムたちは軽蔑したような視線でこちらを見ているのだろう。
でも、私にはそんなのどうでもよかった。
騒音も聞こえないし、人目も気にしない。
大事なのは、佐江ちゃんと過ごしているこの瞬間、今だけなのだから。
何度も何度も、チョコが口からなくなっても、私たちは口移しを続けた。
まるでただの動物のように。
発情期の猫みたいに、ひたすらに佐江ちゃんを求め続ける。
視線を感じる方が嬉しい。
誰かに見られている方が私はもっと大胆になれるのだ。
佐江ちゃんの手が私の腰を掴もうとして、テーブルの上にあったココアを倒してしまう。
そのままふたりの制服にシミが広がっていったが、まったく気にすることはなかった。
私は、佐江ちゃんしか見えていないから。
私にとって、愛とはそういうもの。
目の前の人しか見えない。
目の前の人しか愛せない。
誰よりも愛おしくて、誰よりもかっこよくてかわいい私の恋人。
そんな彼女をいっぱい困らせたい。
それが私にとっての愛。
「佐江ちゃん、目開けて?閉じてたらもったいないよ」
佐江ちゃんが、閉じていた目をゆっくりと開ける。
その目はさっき以上に熱を帯びていた。
このチョコレートは、お酒という名の毒が入っている。
この毒が私たちを狂わせる。
「佐江ちゃん、このチョコおいしいね」
「うん…でも、もう味わかんない…」
「ふふ、佐江ちゃんかわいい。困った顔も素敵よ」
そう言う佐江ちゃんの唇をまた奪う。
佐江ちゃんの愛を舐め尽くす。
青空の下、私たちは愛し合った。
チョコの味は、もうすっかり私たちの味に変わっていた。