口移しのチョコレート

「佐江ちゃん!ここのカフェ、バレンタイン当日限定チョコメニュー売ってるらしいよ!有名なお店とのコラボ商品なんだって!」
一週間前、いつもの下校で、私は佐江ちゃんにスマホの画面を見せていた。
「へ〜、おいしそうじゃん!でも高くない?」
佐江ちゃんは画面のチョコレートを食い入るように見たあと、眉間にしわを寄せた。
「たまにはこんな大人っぽいお店もいいかなって。だめかな?」
私は小さく突き出した唇に、そっと指を当てる。
佐江ちゃんの視線が、自然とそこに引きつくように。
「ゆきりんが言うなら…いいよ!行こっか!」
「やった〜!じゃあ、来週行こうね♪」
楽譜に音符を載せるように柔らかな声を出して喜ぶと、佐江ちゃんの頬はわかりやすく赤くなっていた。

佐江ちゃんはよくモテる。
ボーイッシュな性格に端正な顔立ち、面倒見のいい性格。
これでモテない方が無理がある。
バレンタインチョコを数えきれないくらいもらっているのは、毎年のことだと、風の噂で聞いている。
例によって、今年も大量のチョコをもらう未来は避けられないだろう。
だから、せめてこの時間だけでも、佐江ちゃんを独占したい。
だって、私は佐江ちゃんの彼女なんだから。
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