友達でいられるなら

「それでな、そのとき島田がな…」
「うん…あ」
ぱるるがスマホに目をやり、小さく驚いた。
「終電…行っちゃった」
スマホをこちらに傾けてくれたのでちらりと覗く。
日付は当然のように回っているし、ふだんならば何曲も歌っているくらいの時間が経っていた。
ずいぶんと盛り上がってしまったようだ。
「…どうする?」
ぱるるが困ったように尋ねる。
そんな顔を見てしまったら、帰るなんて選択肢は、もうなかった。
「朝までおる?」
少し挑発的な言い方で返せば、顔を赤くして「うん…」と頷く彼女。
さっきまで止まらなかった会話が、急に途切れてしまって、ふたりだけだった世界に、また広告という名の雑音が流れた。
もうマイクを握る気なんて起きなくて、ただその沈黙に身を任せる。
ソファに体を預けてだらんとしていると、手にぱるるの指がそっと触れた。
驚いて彼女の方を見ると、さっきよりもずっと赤い顔をしていて。
無意識にその指を小さく握り返すと、彼女はさらに指を絡めてきた。
高鳴っている胸の中で、何かの糸がぷつりと切れた音がした。
抱きしめたい、そんな衝動にどうしようもなく駆られてしまう。

今、こうして彼女を抱きしめてしまったら、ぱるるとは友達ではいられなくなるだろう。
何事もなかったように、明日からは別々の道を行かなければいけないのに。
なのに、もう引き返すことができない。
溢れ出す感情のまま、彼女を抱き寄せた。
「由依…」
小さく漏れる声と、どちらの音かわからない胸の鼓動。
友達とか、そんなもの全部どうでもいいと思った。
そっと体を離して、彼女のすっかり赤くなった顔を見つめる。
(ぱるるが好き。ぱるるの特別な人になりたい。)
そう思えば思うほど、未来なんか見えなくなる。
今、このときが幸せであれば、それでいい。
彼女の唇に自分のものを近づける。
彼女もまた、受け入れるように瞳を閉じた。
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