第八話 過去の色
寮を出て、すっかり見慣れた秋葉原の街を見渡す。
夜行バスの予約はすでにしてあるが、その前に行きたいところがあった。
秋葉原のとある劇場。指原の手にあるチケットには『秋元バレエ劇団』と書かれている。
優子ちゃんをはじめとする推し活代のためにしていたがしばらく休んでいたアルバイトをやめた日のこと。
店長に余ってるからもらってほしいと言われて、バレエなんか興味ないのにと思いながらも、しぶしぶもらったチケット。日時は偶然なことにも今日の夕方。
夜行バスが来るまでの時間つぶしに見にやってきた。
本当は優子ちゃんにお別れのあいさつをしたかったけど、優子ちゃんの顔を見たらつらいことも全部思い出してしまいそうで、会うのはやめた。
他のアイドルのライブを見に行ってもよかったけどたまたまチケットをもらったから。
それだけ。まったく期待はしていなかった。
ホールに入り、席に座る。
周りの人は自分とは身分も何もかもが違うように見えて、肩身が狭かった。
受付でもらったプログラムを見ながら、慣れない椅子の座り心地にそわそわとしているうちに、ブザーが鳴り響いて幕が開く。
優雅な音楽に乗せられて、バレエダンサーたちが舞い踊る。
(へえ、すごいな…)
指原は関心して見ていたけれど、このときはまだ、いつも見ているアイドルのライブの方がおもしろいと感じていた。
次の瞬間、その考えを撤回したくなるほど感動的なものが目に入った。
それは天使だった。
白い衣装に身を包み、動作のひとつひとつが美しい。
照明以上に光り輝く彼女は、天使以外の言葉が見当たらないほどの麗しさをもっていた。
それを目にして、指原の心は揺れ動いた。
(すごい…)
いつものように声を出してしまいたい衝動を必死に抑えて、ただただ目の前の天使に翻弄された。
(こんなに感動したの…優子ちゃんのライブを初めて見たとき以来だ!)
あっという間にプログラムは終わり、会場は拍手で包まれる。
すると、アナウンスが鳴った。
「ありがとうございました!では、最後に、こちらの曲をお聞きください!」
『I want you〜』
何度も秋葉原のライブで聞いたあの曲が、なぜかこの場で流れる。
(秋葉原48の曲?なんで…)
舞台に目を移すと、天使のあの子が華麗にダンスを踊っていた。
(か、かわいい!!)
「がんばれー!」
「かわいいー!」
観客が声を出しているようすを見て、もらったプログラムをもう一度見返す。
舞台の最後に声出しOKのダンスパートがあるという記述を見つけた。
続いてあの子の名前を確認すると、そこには『渡辺麻友』と書かれていた。
バレエ特有の気品のある仕草が混じったダンスは、優子ちゃんのパワフルなダンスとは全然違う。
その姿を見ていたら、口から勝手に声が出ていた。
「まゆゆー!!かわいいよー!」
誰よりも大きな声で叫んでしまい、周りから白い目で見られたけど、そんなことはどうでもよかった。
なぜなら、その直前にまゆゆが指原に微笑んでくれたから。
それだけで、今までのつらいことがすべて帳消しになってしまいそうだった。
舞台が終わり、幕が上がる。
お客さんが次々に帰って行くけれど、指原はしばらくその場から動けなかった。
(まゆゆ…かわいかったな…)
バレエなんて興味がなかったのに、いざ行ってみればそこには天使がいた。
パンフレットをまた開いて、まゆゆの写真を見る。
『渡辺麻友』という名前と、天使の微笑み。
それを見て、幕が下りた舞台に視線を戻す。
さっきまでそこにいた天使を思い出して、胸が張り裂けそうだった。
久しぶりにできた推し。
でも、推し活することはできない。
なぜなら、これから指原は夜行バスで福岡に行ってしまうから。
あんなに冷たい親だけど、次の居場所を用意してくれたのだから、行くしかない。
名残惜しかったけど、劇場を出て東京駅に向かった。
夜行バスの予約はすでにしてあるが、その前に行きたいところがあった。
秋葉原のとある劇場。指原の手にあるチケットには『秋元バレエ劇団』と書かれている。
優子ちゃんをはじめとする推し活代のためにしていたがしばらく休んでいたアルバイトをやめた日のこと。
店長に余ってるからもらってほしいと言われて、バレエなんか興味ないのにと思いながらも、しぶしぶもらったチケット。日時は偶然なことにも今日の夕方。
夜行バスが来るまでの時間つぶしに見にやってきた。
本当は優子ちゃんにお別れのあいさつをしたかったけど、優子ちゃんの顔を見たらつらいことも全部思い出してしまいそうで、会うのはやめた。
他のアイドルのライブを見に行ってもよかったけどたまたまチケットをもらったから。
それだけ。まったく期待はしていなかった。
ホールに入り、席に座る。
周りの人は自分とは身分も何もかもが違うように見えて、肩身が狭かった。
受付でもらったプログラムを見ながら、慣れない椅子の座り心地にそわそわとしているうちに、ブザーが鳴り響いて幕が開く。
優雅な音楽に乗せられて、バレエダンサーたちが舞い踊る。
(へえ、すごいな…)
指原は関心して見ていたけれど、このときはまだ、いつも見ているアイドルのライブの方がおもしろいと感じていた。
次の瞬間、その考えを撤回したくなるほど感動的なものが目に入った。
それは天使だった。
白い衣装に身を包み、動作のひとつひとつが美しい。
照明以上に光り輝く彼女は、天使以外の言葉が見当たらないほどの麗しさをもっていた。
それを目にして、指原の心は揺れ動いた。
(すごい…)
いつものように声を出してしまいたい衝動を必死に抑えて、ただただ目の前の天使に翻弄された。
(こんなに感動したの…優子ちゃんのライブを初めて見たとき以来だ!)
あっという間にプログラムは終わり、会場は拍手で包まれる。
すると、アナウンスが鳴った。
「ありがとうございました!では、最後に、こちらの曲をお聞きください!」
『I want you〜』
何度も秋葉原のライブで聞いたあの曲が、なぜかこの場で流れる。
(秋葉原48の曲?なんで…)
舞台に目を移すと、天使のあの子が華麗にダンスを踊っていた。
(か、かわいい!!)
「がんばれー!」
「かわいいー!」
観客が声を出しているようすを見て、もらったプログラムをもう一度見返す。
舞台の最後に声出しOKのダンスパートがあるという記述を見つけた。
続いてあの子の名前を確認すると、そこには『渡辺麻友』と書かれていた。
バレエ特有の気品のある仕草が混じったダンスは、優子ちゃんのパワフルなダンスとは全然違う。
その姿を見ていたら、口から勝手に声が出ていた。
「まゆゆー!!かわいいよー!」
誰よりも大きな声で叫んでしまい、周りから白い目で見られたけど、そんなことはどうでもよかった。
なぜなら、その直前にまゆゆが指原に微笑んでくれたから。
それだけで、今までのつらいことがすべて帳消しになってしまいそうだった。
舞台が終わり、幕が上がる。
お客さんが次々に帰って行くけれど、指原はしばらくその場から動けなかった。
(まゆゆ…かわいかったな…)
バレエなんて興味がなかったのに、いざ行ってみればそこには天使がいた。
パンフレットをまた開いて、まゆゆの写真を見る。
『渡辺麻友』という名前と、天使の微笑み。
それを見て、幕が下りた舞台に視線を戻す。
さっきまでそこにいた天使を思い出して、胸が張り裂けそうだった。
久しぶりにできた推し。
でも、推し活することはできない。
なぜなら、これから指原は夜行バスで福岡に行ってしまうから。
あんなに冷たい親だけど、次の居場所を用意してくれたのだから、行くしかない。
名残惜しかったけど、劇場を出て東京駅に向かった。