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第八話 過去の色

一年A組の出し物はメイド喫茶に決まった。
アイドルも好きだけど、メイド喫茶にもそれなりに通い詰めていた指原の、完全にオタク趣味全開の提案。
しかし意外にも、みんなから賛同を集めてしまい、あっさり決定した。
学級委員と文化祭実行委員の力を合わせて、一ヶ月かけて準備を進めていく。
文化祭本番が近づいてきたある日の放課後。
今日は四人で看板作りをしていた。
しーちゃんや愛ちゃんも協力してくれているけど、部活の都合もあってこの日は不参加。
「じゃ、うちら買い出し行ってくるねー。なんかほしいものあったらラインして」
「はーい、いってらっしゃい」
みゃおと横山は近くのドンキへ備品の買い出しに出かけた。
つまり、今教室には里英ちゃんとふたりきり。
(最近、里英ちゃんの顔見るとドキドキする)
それは少し前に訪れた、指原の心変わり。
里英ちゃんはいじめられていて傷心の指原に、救いの手を差し伸べてくれた女神のような人。
もちろん、そんなの里英ちゃんは知らないけど。
はじめてできた友達と一緒に過ごしていくうちに、彼女に対して抱く気持ちは自然と移り変わっていった。
それを『恋』と自覚するのに、そう時間はかからなかった。
床に敷いた看板の前に座り込み、ふたり並んで絵の具と筆で看板に色を塗っていく。
「この色どのへん塗る?」
「こっち!赤チェックみたいにしたいんだよね」
「いいね〜」
指原が指を差した方向に、里英ちゃんの顔が近づいてくる。
自然と距離が縮まる状況に、指原の心臓は爆発寸前だった。
ポケットに入れたスマホが震えていたけれど、そんなことはどうでもよかった。
でも、思い返せばこのときにスマホを見ておくべきだった。
「里英ちゃん」
無意識に彼女の名前を呼んでいた。
「ん?どしたの、莉乃ちゃん」
里英ちゃんの顔は、指原の目の前。
一歩間違えたら唇がくっついてしまうんじゃないかというほどに。
「好き」
気づいたら、勝手に言葉が口をついた。
言うつもりなんてまったくなかった、その言葉が。
「え…?」
里英ちゃんの顔が、笑顔から困惑に変わる。
「私、好きだよ。里英ちゃんのこと」
こうなったら、思いを伝えよう。
指原は覚悟を決めた。
「指原の恋人になって」
赤くなった里英ちゃんの顔に、指原の顔を近づけて、そのまま唇を奪った。
「何してはるん?」
直後、教室に響いたのは、甲高い京都訛りの声だった。
「横山…!」
「なんでいるの?買い出しは?」
里英ちゃんは慌てて体を離して、問い詰めるように言った。
「さっき連絡したわ。『財布忘れたから取りに戻る』って。読んでへんの?」
急いでポケットにしまったスマホを確認すると、横山からの通知が来ていた。
「みゃおは?」
「先に店で品物探してもらってはる。うちだけ帰ってきたんや」
「…それより」
先ほどよりもトーンを落とした横山の声は、氷のように冷たくて、氷柱のように尖っていた。
「さしこ、里英ちゃんのこと好きなん?」
「うちやって、里英ちゃんのこと好きやのに」
「え…」
里英ちゃんは完全に固まっていた。
まるで状況を理解できていないようだった。
「里英ちゃん。さしこやなくて、うちやったらあかんの?」
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