第八話 過去の色

パソコンに写った『合格』の文字は、指原にとっての未来を意味していた。
指原は自分の部屋で静かに喜んだ。
一応親には報告したけれど、やってくれたのは入学手続きだけで『おめでとう』の一言も言ってくれなかった。
来たる四月、入学式の日。
地方からいろんな子が集まっているから、保護者席の埋まりは悪かったが、指原の親はそもそも入学式の日付を聞いてこなかったから教えなかった。
「今日から一年A組の担任になる、前田敦子です。よろしくお願いします」
担任の前田先生は、クールな人という印象だった。
華やかな校舎に似合うような、かわいい女の子がたくさん教室にいて、指原はなんだか肩身が狭かった。

クラスになじめるか不安だったけれど、意外とすんなり友達はできた。
「ねえ莉乃ちゃん、今日の小テスト自信ある?」
「いや、ないなー。里英ちゃんは?」
「私もない!勉強してないもん」
「うそだ、里英ちゃんの勉強してないは実はこっそり勉強してるって意味だもんね」
北原里英。
指原より一つ前の出席番号で、授業でペアワークを組んだことがきっかけで仲良くなった。
指原と同じく地方からきているらしく、寮暮らしなのも一緒だ。
「里英ちゃん、昨日の夜復習プリント解いてはったで」
「ちょっと横山!バレるでしょ、そんなこと言ったら」
「指原はアイドルの動画見てたよ」
「しーちゃん余計なこと言わないでよ!」
里英ちゃんと同室の横山由依と、指原の同室の大家志津香。
みんな地方からやってきている寮暮らしだから、自称『地方組』。
「またやってるよ」
「仲良いよね〜」
端の席から茶々を入れるのは、通い組のみゃおこと宮崎美穂とらぶたんこと多田愛佳。
大分のときとは比べものにならないくらいの友達ができて、指原の毎日は色鮮やかなものになった。

『i want you〜』
秋葉原の地下のライブハウス。
最前列の席で、ステージ上の推しを見守る。
「優子ちゃん〜!!」
枯れるほどの声を出して、精一杯の楽しさを感じた。
ライブが終わったあとは、握手会へ並ぶのが定番の流れ。
「優子ちゃん!今日もかわいかったよ!」
「おっ、さしはらじゃーん!今日はきたりえ一緒じゃないの?」
「里英ちゃんは委員会の仕事があって…」
「そっかー、次は絶対連れてきてね!」
「はい!」
入学してから現場に通い詰めた指原は、ついに優子ちゃんに認知されてしまった。
秋葉原という土地もあってか、里英ちゃんをはじめ友達のみんなは指原のアイドルオタクの趣味に引かない。
なんなら、指原と一緒に現場までついてきてくれる。
優子ちゃんは里英ちゃんの顔まで覚えてしまった。
(指原、こんなに幸せでいいのかな…)
このときの指原はまだ気づいていなかった。
束の間の幸せは、決して永遠ではないということに。
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