第七話 真っ赤な色

時計の針がカチカチと進んで、刻一刻と時間だけが過ぎていく。
私とさっしーとお姉ちゃん。
三人でいる朝は、ひとりきりでいるときよりもずっと静かだった。
「指原莉乃さんよね。いつも仲良くしてくれてるって、咲良から聞いてるわ。一度話してみたかったの」
「はい、指原です…ありがとうございます」
「ちょっと待ってて。朝ごはん作るから」
お姉ちゃんは冷蔵庫の中を一通り見てキッチンに立つ。
しばらく待って出来上がったのはパンケーキだった。
「さあ、食べて」
「おいしそう!お姉ちゃんのパンケーキ、久しぶりだな」
「すっごい…こんないい朝ごはん食べるのいつぶりだろ…ありがとうございます」
各々パンケーキを食べ始める。
誰も何も言わず、ただただ食べるだけの時間。
その沈黙を破ったのは、お姉ちゃんだった。
「咲良、学校はどう?」
「楽しいよ」
「バレエは?」
「…楽しいよ」
答えるまで、少し間が空いてしまった。
それをごまかすように、慌ててお姉ちゃんに質問し返した。
「お姉ちゃんこそ、学校どうなの?」
「やりがいがあって、楽しいわよ。でも、やっぱりしんどいことも多いかな。こないだの中間テストで、初めて採点をやったのよ。最近の採点って、aiが自動でやってくれるんだけど、結局こっちがチェックしなきゃいけないから、二度手間なのよね」
「ふーん、そうなんだ…」
(そういえば、こないだ返ってきたテストも、aiが丸つけしていたっけ)
テスト用紙を思い返しながら、パンケーキを口に運ぶ。
「咲良はテストどうだった?」
「まあまあかな。平均点くらい。私、いつも普通の点数しかとらないから…」
「咲良は咲良のペースでがんばればいいのよ。指原さんは?一年生のときより点数上がった?」
「ごほっ!」
さっしーはパンケーキを喉に詰まらせ、慌てて水を飲んだ。
「さっしー大丈夫!?」
「ごほっ…うん、大丈夫…」
さっしーは呼吸を整え、お姉ちゃんを一目見て言った。
「えっと…普通くらいですよ」
私はその言葉を聞いて、思わず突っ込んでしまう。
「さっしー、赤点ギリギリだったじゃん。バイトばっかりしてるからでしょ」
「あらあら、バイトはほどほどにね」
お姉ちゃんは笑いながら水を飲んだ。
その目は笑っていなかった。
さっしーはお姉ちゃんに向き合い、口を開く。
「あの…咲良のお姉ちゃんって学校の先生なんですか?」
「そうだよ。言ってなかったっけ?」
「東京に住んでるお姉さんがいるっていうのは知ってたけど…教師は初耳かも」
さっしーは再びパンケーキを口に入れた。
「新任だけど、ちゃんと先生やってるわよ。この春から東京の秋葉原女子学園で国語教師をしているの。」
「げほっ、ごほっ、ぐふぁ!」
お姉ちゃんがその言葉を発した瞬間、さっしーはさっき以上に盛大に喉を詰まらせた。
「ほんとに大丈夫!?」
私は思わずさっしーの背中をさすった。
「げほっ…げほっ…ゔゔん!だ、大丈夫…なんでもない…」
咳払いをして息を吐くさっしーを、お姉ちゃんは冷ややかな視線で見ていた。
「そういえば、咲良の学校って文化祭はいつなの?私のところは二学期の10月のはじめなんだけど」
お姉ちゃんはまるで何事もなかったかのように話を変えた。
「うちも二学期だよ。たぶん、ほとんど日付も同じ」
「何か出し物とかするの?」
「まだ一年生で、今年がはじめてだからなにもわかんない…アイドル同好会で何かできたらなあとは思うけど…」
「そう…指原さんは?去年の文化祭参加したんでしょ?なにか覚えてないの?」
次の瞬間、ナイフとフォークがお皿の上に落ちる音がした。
長い長い沈黙。
ここにいる誰もが口を割ろうとしない。
さらにしばらく経って、ようやくさっしーが震える口を開いた。
「別に、普通の文化祭でしたけど」
「…そう」
時間をかけたわりにはあまりにもシンプルな回答だった。
そして、お姉ちゃんも短く返事をしただけで、そのあとは何もしゃべらなかった。
私もさっしーも、何も言わない。
時計の針が進む音だけが、部屋に鳴り響いた。
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