第六話 花の色

今日、さっしーの家にきたのは、これからのアイドル同好会をどうしていくべきか話すためだ。
「いやー、こないだは唐突だったよね…いきなり三人が現れてさ」
「うん…びっくりした」
奈子、美久、杏奈の三人が突然の入部希望を宣言した先週の同好会の活動。
私がアイドル同好会に入ってそろそろ二ヶ月ほど経つ。
アイドル同好会は、さっしーと私がアイドル談義をするだけの、細々とした部活だった。
だから私たちふたりだけの時間が減るのは少し寂しい。
「とりあえず、来週の活動は自己紹介的なやつにする?私の名前は指原莉乃です。アイドル同好会の部長で、推しはまゆゆです。まゆゆは秋元バレエ劇団の期待のエースで、好きな食べものはパンケーキ、好きなゲームはときめきメモリアルgirl's side second season…」
「それ、まゆゆの自己紹介になってるから」
口を開けばまゆゆの話しかしないさっしーは置いておいて、ひとまず真面目に今後の活動内容を考えることにした。
今初めて部活ぽいことをしているような気持ちになっている。
「たしかに、自己紹介は大事。三人のこと、私も知りたいし」
「咲良、あの三人と同じクラスなんだよね?なんか知らないの?」
「知らない。側から見ててわかるのは、なこみくはかわいい系で杏奈はおもしろい系ってことくらい。」
「アバウトな情報だな…」
「だって私、学校でさっしー以外友達いないから」
他の人が聞いていたら引くかもしれない言葉を、私はあまりにも淡々と、なんの躊躇もなく言っていた。
「へへ…そっか…」
「何にやけてんの。変なの」
さっしーの顔はなんだか嬉しそうで、ちょっとだけ気持ち悪い。
でも、自分で言ってびっくりしたのは、『学校で』と言ったこと。
少し前の私なら、普通に『さっしー以外友達いないから』と言うであろう言葉に、『学校』と付け足したのは、考えるまでもなくはるっぴのせいだ。
福岡に来て、二人目の友達。
でも、もう友達とはいえないようなことを、私はしてしまった。
そして、遠ざかってしまった私たちの距離。
こないだの秋元先生の言葉が、脳裏をよぎる。
『お前は劇団のエースだ。他のことにうつつを抜かしている暇はない。劇団のことだけ考えろ。お前は、舞台の上で輝く美しい花でないといけないんだ』
(はるっぴは劇団のエース…他のことにうつつを抜かしている暇はない…)
「咲良どした?ぼーっとしてるぞ」
さっしーが私の顔に向かって手を振る。
意識があるのか確認したつもりなんだろうか。
「ううん。なんでもない。自己紹介が終わったら…来週の平日の公演に、みんなを連れて行くのはどう?」
「それ名案!実際のまゆゆを見たらなこみく村重の三人も絶対メロメロになるって!これからどんどん部員増えていったら、布教活動もできちゃう!!指原がひとりで動画あげなくてもバズる!!」
さっしーは大興奮しながら、まゆゆのことや部活のことを熱く語っていた。
「くしゅんっ」
それに対して、一日中肌寒い私は今日何度目かわからないくしゃみを、またしてしまう。
「咲良、今日ずっとくしゃみしてるよね。風邪か〜?」
さっしーが冷やかすように言う。
くしゃみが止まらない理由なんて考えなくてもわかる。
土砂降りの中傘も刺さずに走ったからに決まっている。
「なんでもないよ…」
「咲良」
ごまかすように発した言葉は、さっしーの低い声にぴしゃりと突っぱねられた。
「まだはるっぴのこと、避けてんの?」
ああ、やっぱりさっしーにはなんでもお見通しだ。
「会えるわけないよ…」
さっしーに全部相談したいけど言葉にするのもつらい。
私は震える手でさっしーの手を掴む。
「さっしーはさ…もし、愛しちゃいけない人を好きになったら、どうする?結ばれはしない人を好きになったら…どうする?」
「咲良…」
さっしーは何も言わなかった。
わかっている。
さっしーに相談したところで、解決するようなことではない。
はるっぴと結ばれることにはならない。
さっしーを困らせるだけ。
それがわかっているから、こんな抽象的なことしか言えないし、そのせいで余計困らせてしまっている。
恐る恐るさっしーの顔を見るけれど、彼女はただただ暗い顔をしていた。
お互い口を開かず、沈黙が流れる。
そのまま、部屋の中には時計の針が進む音だけが響いた。
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