第五話 遠のく色
テストが終わっても、当たり前のようにレッスンの日はやってくる。
しかも、六月からはDクラスのレッスン。
「宮脇さん、足上がってないよ!もっとしっかり」
先生も変わって、指導内容も厳しくなった。
といっても、Dクラスは初級レベルだから、これくらいで音を上げていたらはるっぴに追いつくのなんてとてもできやしないのだが。
「宮脇さん、Fクラスの先生が絶賛してたから期待してたけど、こんなものなの?たしかに始めて一カ月でこの上達ぷりは早いけど、バレエ自体を楽しめてないよ。もっと大切なこと、見失ってるんじゃない?」
「…はい、すいません」
先生にはっきり言われて、胸が傷つく。
『さくちゃんは本当に自由に動くね。楽しそう』
はるっぴは、いつも私のことを『楽しそうに踊る』と褒めてくれていた。
(私…今、バレエを楽しめてないのかな?)
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、レッスンの時間は過ぎていった。
レッスンを終えた私は、まっすぐ更衣室に戻り、着替えて廊下を歩いていた。
テストが終わってからも、相変わらず自主練には行けてない。
もうテスト期間だからの言い訳はできない。
別に誰かに話すわけでもないけれど、自分のやっていることが悪いことではないとごまかしたくて、必死に言い訳を探していた。
いつもはるっぴと自主練していた空き部屋の前で、足を止めた。
最近はここを素通りすることも増えたけれど、今日はなんとなく立ち止まってしまった。
いつもは誰もいなくて静かな空き部屋から、話し声がする。
それがどうしようもなく気になって、わずかに開いた扉の隙間を覗き込んで、聞き耳を立てた。
空き部屋にいたのは、はるっぴと、彼女よりは背が高いが決して大柄というわけでもない、どちらかというと横に大きい体型の男の人だった。
「兒玉。最近注意力が散漫している」
「はい…すいません、秋元先生」
(秋元先生って…もしかして、秋元康!?)
秋元康。
A.Y.バレエレッスンスタジオの創設者であり、秋元バレエ劇団の生みの親。
劇団のホームページに顔が載っていたのを思い出した。
「もしかして、他に大切なものでもできたのか?」
「いえ、そんなことは…」
はるっぴは顔を俯かせた。
「お前は劇団のエースだ。他のことにうつつを抜かしている暇はない。劇団のことだけ考えろ。お前は、舞台の上で輝く美しい花でないといけないんだ」
「はい。秋元先生」
はるっぴは秋元先生に対して深くお辞儀をしていた。
はるっぴはやっぱり触れてはいけない美しい花だった。
だけど触れずにいられない。
棘が指に刺さる。
(私の恋は…タブーなんだ)
目の前が真っ赤に染まったような衝動に駆られ、私はスタジオを飛び出した。
外はまた大雨だった。
濡れることなんてどうでもよかった。
ただただ、今は博多の街を走ることしかできなかった。
しかも、六月からはDクラスのレッスン。
「宮脇さん、足上がってないよ!もっとしっかり」
先生も変わって、指導内容も厳しくなった。
といっても、Dクラスは初級レベルだから、これくらいで音を上げていたらはるっぴに追いつくのなんてとてもできやしないのだが。
「宮脇さん、Fクラスの先生が絶賛してたから期待してたけど、こんなものなの?たしかに始めて一カ月でこの上達ぷりは早いけど、バレエ自体を楽しめてないよ。もっと大切なこと、見失ってるんじゃない?」
「…はい、すいません」
先生にはっきり言われて、胸が傷つく。
『さくちゃんは本当に自由に動くね。楽しそう』
はるっぴは、いつも私のことを『楽しそうに踊る』と褒めてくれていた。
(私…今、バレエを楽しめてないのかな?)
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、レッスンの時間は過ぎていった。
レッスンを終えた私は、まっすぐ更衣室に戻り、着替えて廊下を歩いていた。
テストが終わってからも、相変わらず自主練には行けてない。
もうテスト期間だからの言い訳はできない。
別に誰かに話すわけでもないけれど、自分のやっていることが悪いことではないとごまかしたくて、必死に言い訳を探していた。
いつもはるっぴと自主練していた空き部屋の前で、足を止めた。
最近はここを素通りすることも増えたけれど、今日はなんとなく立ち止まってしまった。
いつもは誰もいなくて静かな空き部屋から、話し声がする。
それがどうしようもなく気になって、わずかに開いた扉の隙間を覗き込んで、聞き耳を立てた。
空き部屋にいたのは、はるっぴと、彼女よりは背が高いが決して大柄というわけでもない、どちらかというと横に大きい体型の男の人だった。
「兒玉。最近注意力が散漫している」
「はい…すいません、秋元先生」
(秋元先生って…もしかして、秋元康!?)
秋元康。
A.Y.バレエレッスンスタジオの創設者であり、秋元バレエ劇団の生みの親。
劇団のホームページに顔が載っていたのを思い出した。
「もしかして、他に大切なものでもできたのか?」
「いえ、そんなことは…」
はるっぴは顔を俯かせた。
「お前は劇団のエースだ。他のことにうつつを抜かしている暇はない。劇団のことだけ考えろ。お前は、舞台の上で輝く美しい花でないといけないんだ」
「はい。秋元先生」
はるっぴは秋元先生に対して深くお辞儀をしていた。
はるっぴはやっぱり触れてはいけない美しい花だった。
だけど触れずにいられない。
棘が指に刺さる。
(私の恋は…タブーなんだ)
目の前が真っ赤に染まったような衝動に駆られ、私はスタジオを飛び出した。
外はまた大雨だった。
濡れることなんてどうでもよかった。
ただただ、今は博多の街を走ることしかできなかった。