第五話 遠のく色
「ありがとうございましたー」
夜8時半。
指原はいつものようにコンビニでレジを打っていた。
(あと30分で今日のシフト終わりか…)
今の時間はお客さんも少ない。
特にすることもなく、だんだんと疲れが出てきた指原は、ただひたすらにぼーっとしていた。
(いやー、きのうはびっくりしたな…まさかアイドル同好会に新入部員が現れるとは…)
(でも…咲良とふたりきりじゃなくなったのは残念だな)
(咲良…ほんとに大丈夫なのかな。はるっぴといろいろあったみたいだけど…)
(指原は心配だよ。だって、指原は咲良のことが…)
「すいません、これお願いします」
「あっ、ごめんなさい!いらっしゃいませ!!」
カウンターに飲み物が置かれ、慌ててお客さんの顔を見る。
「まゆゆ!?」
「お疲れ様です、指原さん」
目の前にいたのは、天使だった。
「まゆゆなんでここに?お嬢様はコンビニなんかこないでしょ?」
「そんなことないですよ。レッスンの帰り道に喉が渇いてしまったので。それより、指原さん」
「何、まゆゆ?」
「お疲れかもしれないので断ってもらってもいいのですけど…よかったら、バイトが終わったら、この前のカフェで少しだけお茶しませんか?」
「えっ、ほんとに!?指原いくらでも付き合います!!まゆゆと過ごすだけで疲れなんか吹っ飛ぶから!」
「よかった。バイト、いつ終わりますか?」
「あと30分で終わる!先にカフェ行ってて!」
指原は興奮しながら飲み物をレジに通す。
「わかりました。じゃあ、お先に待ってます」
まゆゆが財布から小銭を出しながらそう言った。
(まゆゆって小銭もってるんだ…)
衝撃的な事実に頭を震わせながらも、お会計をしてまゆゆの背中を見送った。
バイトも終わり、指原は急いでカフェに駆け込んだ。
「指原さん、お疲れ様です!」
制服姿のまゆゆは、すでにロイヤルミルクティーを飲んでいた。
(ロイヤルミルクティーだなんて…さっすがまゆゆ、飲むものもお嬢様なんだな)
「まゆゆ、ありがとう。誘ってくれて…指原、このあと家帰るだけだからさ。嬉しい」
「こちらこそ、偶然指原さんに会えて嬉しかったです。何か飲みますか?」
「じゃあ、アイスコーヒーかな。いつも通りだけど」
店員さんを呼んで、注文をしたあと、まゆゆに向き直る。
レッスン後で少し乱れた髪と、HKT女学院の上品な制服がどこかミスマッチで、それなのにまゆゆの可憐さが輝かしいほど伝わってきて、指原はもはや溶けそうだった。
「あ、そうだ!まゆゆに渡したいものがあって」
思い出したようにかばんからあるものを取り出す。
「はい!ときめきメモリアルgirl's side second season!」
「わぁ!ありがとうございます!」
まゆゆは目を輝かせながらカセットを受け取った。
「待ち伏せしたときに渡そうかなって思ってたんだけど、最近なかなか会えなかったからさ。次会えたときに渡そうって、ずっとかばんに入れてたんだよね」
「嬉しいです!私のこと考えてくれてたんですねっ」
まゆゆはカセットを胸に抱えて、天使の微笑みを見せた。
(うっ…しぬ…かわいすぎる…これは抗がん剤治療によさそうだ…)
「まあ、せっかくだからおうちでそれやって楽しんでよ。次会ったら、ときメモ語りしよ」
「はい!たくさんお話しましょうね!」
まゆゆの笑顔を見て寿命を縮めていると、ちょうどいいタイミングでコーヒーが運ばれてきた。
少し苦いけれどおいしいコーヒーを一口飲んで、ほっと一息ついた。
と、言ってもアイスコーヒーなのだが。
「まゆゆってお嬢様なのに、意外と親しみやすいよね。ゲームもしてるし、こんなふうに夜遅くまで遊んだりとかさ。お嬢様って、もっと、バレエするんだから遊ぶな!とか親から言われたりするイメージだから」
「そんなに両親が厳しくないんです。そもそもバレエだって私が始めたいって言い出したので。若いんだから、いろんなことを知って視野を広げろって言われているんです」
「そっか〜。いい親御さんだね」
まゆゆの人のよさは、きっと両親譲りなのだろう。
自由を担保されているから、劇団のエースという重圧にも、笑顔で耐えられているのだ。
心の底からバレエを楽しんで踊る。
そんなまゆゆが私は大好きだ。
(まゆゆってやっぱり、最高の推しだな)
一瞬、咲良の暗い顔が頭をよぎる。
咲良は、きっとはるっぴのことが好き。
何回も公演に通っているのだがら、はるっぴの演技だって見ている。
彼女は完璧主義だ。
枯れない花になるために、磨きをかけ続ける努力をしているのが、見ていて伝わる。
たぶんだけど、はるっぴはまゆゆに比べて自由がないんだと思う。
だから、咲良は悩んでる。
(咲良には、幸せになってほしい…けど、指原は…)
むしゃくしゃして、まゆゆにバレないようにそっとストローを噛む。
すると、まゆゆがカップを置いてこちらへ真剣なまなざしを向けた。
「指原さん。」
「ど、どうしたの?まゆゆ」
「何か、悩み事とかありますか?」
「えっ!?な、ないよ」
「本当ですか…?」
まゆゆの子犬のような上目遣いに、指原は折れる以外の選択肢を選ぶことはできなかった。
「指原…っていうか、友達が悩んじゃってるんだよね。あんまりくわしく話すと、友達が嫌な思いするかもしれないから言えないけど…身分違いの恋をしてるらしくて。でも、指原はその子のことが大切だから幸せになってほしいんだけど…うーん、なんていえばいいんだろ…」
まゆゆの手が、指原の手にそっと添えられる。
「指原さんは、お友達想いなんですね。指原さんがそばにいてくれれば、きっとお友達の恋もうまくいきますよ」
「まゆゆ…指原、役に立つかな」
「役に立つとか、立たないとかじゃないです。指原さんの存在が、誰かの支えになるんですよ」
「褒めすぎだってば…」
「そんなことないですよ。指原さんはとっても素敵な人です!」
「まゆゆったら…どこまでいい子なの…」
(こんな時間がずっと続けばいいのに…)
そう願わずにはいられなかった。
夜8時半。
指原はいつものようにコンビニでレジを打っていた。
(あと30分で今日のシフト終わりか…)
今の時間はお客さんも少ない。
特にすることもなく、だんだんと疲れが出てきた指原は、ただひたすらにぼーっとしていた。
(いやー、きのうはびっくりしたな…まさかアイドル同好会に新入部員が現れるとは…)
(でも…咲良とふたりきりじゃなくなったのは残念だな)
(咲良…ほんとに大丈夫なのかな。はるっぴといろいろあったみたいだけど…)
(指原は心配だよ。だって、指原は咲良のことが…)
「すいません、これお願いします」
「あっ、ごめんなさい!いらっしゃいませ!!」
カウンターに飲み物が置かれ、慌ててお客さんの顔を見る。
「まゆゆ!?」
「お疲れ様です、指原さん」
目の前にいたのは、天使だった。
「まゆゆなんでここに?お嬢様はコンビニなんかこないでしょ?」
「そんなことないですよ。レッスンの帰り道に喉が渇いてしまったので。それより、指原さん」
「何、まゆゆ?」
「お疲れかもしれないので断ってもらってもいいのですけど…よかったら、バイトが終わったら、この前のカフェで少しだけお茶しませんか?」
「えっ、ほんとに!?指原いくらでも付き合います!!まゆゆと過ごすだけで疲れなんか吹っ飛ぶから!」
「よかった。バイト、いつ終わりますか?」
「あと30分で終わる!先にカフェ行ってて!」
指原は興奮しながら飲み物をレジに通す。
「わかりました。じゃあ、お先に待ってます」
まゆゆが財布から小銭を出しながらそう言った。
(まゆゆって小銭もってるんだ…)
衝撃的な事実に頭を震わせながらも、お会計をしてまゆゆの背中を見送った。
バイトも終わり、指原は急いでカフェに駆け込んだ。
「指原さん、お疲れ様です!」
制服姿のまゆゆは、すでにロイヤルミルクティーを飲んでいた。
(ロイヤルミルクティーだなんて…さっすがまゆゆ、飲むものもお嬢様なんだな)
「まゆゆ、ありがとう。誘ってくれて…指原、このあと家帰るだけだからさ。嬉しい」
「こちらこそ、偶然指原さんに会えて嬉しかったです。何か飲みますか?」
「じゃあ、アイスコーヒーかな。いつも通りだけど」
店員さんを呼んで、注文をしたあと、まゆゆに向き直る。
レッスン後で少し乱れた髪と、HKT女学院の上品な制服がどこかミスマッチで、それなのにまゆゆの可憐さが輝かしいほど伝わってきて、指原はもはや溶けそうだった。
「あ、そうだ!まゆゆに渡したいものがあって」
思い出したようにかばんからあるものを取り出す。
「はい!ときめきメモリアルgirl's side second season!」
「わぁ!ありがとうございます!」
まゆゆは目を輝かせながらカセットを受け取った。
「待ち伏せしたときに渡そうかなって思ってたんだけど、最近なかなか会えなかったからさ。次会えたときに渡そうって、ずっとかばんに入れてたんだよね」
「嬉しいです!私のこと考えてくれてたんですねっ」
まゆゆはカセットを胸に抱えて、天使の微笑みを見せた。
(うっ…しぬ…かわいすぎる…これは抗がん剤治療によさそうだ…)
「まあ、せっかくだからおうちでそれやって楽しんでよ。次会ったら、ときメモ語りしよ」
「はい!たくさんお話しましょうね!」
まゆゆの笑顔を見て寿命を縮めていると、ちょうどいいタイミングでコーヒーが運ばれてきた。
少し苦いけれどおいしいコーヒーを一口飲んで、ほっと一息ついた。
と、言ってもアイスコーヒーなのだが。
「まゆゆってお嬢様なのに、意外と親しみやすいよね。ゲームもしてるし、こんなふうに夜遅くまで遊んだりとかさ。お嬢様って、もっと、バレエするんだから遊ぶな!とか親から言われたりするイメージだから」
「そんなに両親が厳しくないんです。そもそもバレエだって私が始めたいって言い出したので。若いんだから、いろんなことを知って視野を広げろって言われているんです」
「そっか〜。いい親御さんだね」
まゆゆの人のよさは、きっと両親譲りなのだろう。
自由を担保されているから、劇団のエースという重圧にも、笑顔で耐えられているのだ。
心の底からバレエを楽しんで踊る。
そんなまゆゆが私は大好きだ。
(まゆゆってやっぱり、最高の推しだな)
一瞬、咲良の暗い顔が頭をよぎる。
咲良は、きっとはるっぴのことが好き。
何回も公演に通っているのだがら、はるっぴの演技だって見ている。
彼女は完璧主義だ。
枯れない花になるために、磨きをかけ続ける努力をしているのが、見ていて伝わる。
たぶんだけど、はるっぴはまゆゆに比べて自由がないんだと思う。
だから、咲良は悩んでる。
(咲良には、幸せになってほしい…けど、指原は…)
むしゃくしゃして、まゆゆにバレないようにそっとストローを噛む。
すると、まゆゆがカップを置いてこちらへ真剣なまなざしを向けた。
「指原さん。」
「ど、どうしたの?まゆゆ」
「何か、悩み事とかありますか?」
「えっ!?な、ないよ」
「本当ですか…?」
まゆゆの子犬のような上目遣いに、指原は折れる以外の選択肢を選ぶことはできなかった。
「指原…っていうか、友達が悩んじゃってるんだよね。あんまりくわしく話すと、友達が嫌な思いするかもしれないから言えないけど…身分違いの恋をしてるらしくて。でも、指原はその子のことが大切だから幸せになってほしいんだけど…うーん、なんていえばいいんだろ…」
まゆゆの手が、指原の手にそっと添えられる。
「指原さんは、お友達想いなんですね。指原さんがそばにいてくれれば、きっとお友達の恋もうまくいきますよ」
「まゆゆ…指原、役に立つかな」
「役に立つとか、立たないとかじゃないです。指原さんの存在が、誰かの支えになるんですよ」
「褒めすぎだってば…」
「そんなことないですよ。指原さんはとっても素敵な人です!」
「まゆゆったら…どこまでいい子なの…」
(こんな時間がずっと続けばいいのに…)
そう願わずにはいられなかった。