第五話 遠のく色

六月。
中間テストも終わって、いよいよ梅雨に入った。
私の心も完全に雨模様だ。
あれから、レッスンは行くけれど、自主練には顔を出せなかった。
テスト期間だからと自分に言い聞かせていたが、本当ははるっぴに合わせる顔がないから。
(私…ほんとにどうしちゃったんだろう)
テスト勉強もなかなか手につかなくて、モヤモヤした毎日を過ごしていた。
今日は、テスト明けはじめての部活。
放課後、さっしーのクラスにお邪魔する。
夕暮れの誰もいない教室で、さっしーは紙パックのジュースを飲んでいた。
「やっほー、咲良!テストお疲れ様〜」
こちらに気づいたさっしーは元気よく手を振る。
私はそれを見て、少し笑いながらさっしーの後ろの席に座った。
「さっしーもおつかれ。結果どうだった?」
「補習ギリギリ回避!!セーフ!!やったー!嬉しいー!!」
さっしーはいすに座ったまま、体をこちらに向けて、41点や45点といった赤点ギリギリの点数のついた答案を見せてくる。
「その結果でそんなに喜んでちゃだめだと思うんだけど…」
「そういう咲良こそどうなのよ?」
「平均点くらいかな…まあ、普通だよね」
「指原より全然いいんだから喜びなよ」
「んー、まあ確かに、勉強してもあんまり集中できなかったから、そのわりにはよかったのかも…」
テスト中は全然集中できなかったし、下手したら補習も覚悟していたので、よかったといえばよかったのかもしれない。
「さっしーは、どうせ前日の夜までバイトしてたんでしょ?」
「まあね。なんなら、テスト当日もしてましたよ」
「テスト期間中のバイトは校則違反じゃなかった?」
「うっ…勘弁してくださいよ咲良さん。指原にも生活ってもんがあるんすよ」
「それはわかってるけど…」
「だいたい咲良だってバレエのレッスン行ってたじゃん」
「行ってたけど…さっしーと違って帰ってきたらちゃんと勉強してたし、行かない日はずっと家で勉強するようにしてたし。それに自主練にも行ってないし…」
「指原と違ってっていうの余計じゃない?っていうか自主練行ってないの?なんで?」
「それは…テスト期間だから…レッスンだけして帰ろうと思って…」
「ほんとに??」
「え、えっと…」
さっしーに詰め寄られ、冷や汗をかく。
「咲良、なんかあった?先週からずっと暗い顔してるよね?聞かれたくないかもしれないから触れないようにしてたけどさ…」
「な、なんでもないよ…」
「嘘!咲良がなんでもないっていうときは、なんでもあるんだよ。それくらい指原にもわかる。指原、咲良と友達になってからまだ二ヶ月くらいしか経ってないけどさ。それでも、指原にとって咲良は唯一の親友なんだよ。だから、なんかあったら相談してほしい」
「さっしー…」
さっしーの強いまなざしを見て、私は隠すことをやめた。
「引かないで聞いてくれる…?」
「え?う、うん…」
私の深刻な声色に、さっしーの表情も固くなる。
「実は…こないだの自主練で、バランスを崩してはるっぴを押し倒しちゃって。そのときの顔があまりにも色っぽくて、思わずキスしちゃった。それ以上もしようとして…さすがに止められたんだけど。はっとして、逃げちゃって…そのまま会えてない」
恐る恐るさっしーの顔を見る。
少し暗い顔をしていた。
「ごめん、引いたよね。そもそも、私とはるっぴ、身分違いすぎるし…私なんか、はるっぴにふさわしくないんだ。」
「い、いや、そんなことないと思うよ。咲良は素敵な女の子だよ。身分なんか関係ない。まゆゆは指原みたいな平民にも優しくしてくれてるじゃん」
「まゆゆは天使だから…」
「天使だけど、私の推しだし!」
さっしーは胸を張ってそう言った。
私の相談に乗ったのだから、次はさっしーの恋バナを聞いてみたいと思った私はこんな質問をした。
「さっしーはさ…好きな人とかいる?」
「えっ!?なにいきなり!?いないよ!!」
さっきの暗い表情とは打って変わって、さっしーの顔が赤くなる。
「絶対いるでしょ、そのリアクション。まゆゆとか?」
「まゆゆは推しだから!好きな人じゃない!強いて言うなら友達かな」
その言葉は、嘘ではないような気がした。
「そう?じゃあ他の人とか?でも、さっしーって私以外に友達いたっけ…」
てっきり突っ込まれると思ったのだが、さっしーの顔を見ると、その頬は真っ赤に染まっていた。
(もしかして、本当に他に好きな人がいるのかな?バイト先の人とか?)
頭を悩ませていると、教室の扉が大きな音を立てて開いた。
「「「アイドル同好会に入部させてください!」」」
入ってきたのは、私と同じクラスの矢吹奈子、田中美久、村重杏奈の三人。
奈子「奈子たち、まゆゆのファンになって!」
美久「この学校に、まゆゆの強オタがいるって聞いたので!」
村重「この『まゆゆオタ』ってアカウント、指原先輩ですよね!?万バズしてましたよ!」
突然の騒音に、私たちは目を丸くした。
杏奈のスマホに映るのは、声出し&撮影OKパートで、話題の楽曲をかわいらしく踊るまゆゆの姿。
ちらりと映り込むはるっぴに思わずドキっとしてしまったが、幸いなことに誰も気づいてなかった。
「君たち…よくここにたどり着いたね…ほんとにまゆゆのこと好きなの?公演行く覚悟ある??応援できるか?声出せるか??」
「「「もちろんです!!!」」」
「そ、そんなマジにならなくてもいいから…そのパートはアイドルみたいだけど、ほとんどバレエ鑑賞だから、落ち着いて見れるよ。安心して」
さっしーが調子に乗り出してみんなを煽るもんだから、私は三人をなだめるのに精一杯だった。
「じゃ、決まり!入部決定!来週からみんなも参加ね!」
「「「はい!ありがとうございます!」」」
こうして三人は部室から出ていった。
(なんだか…騒がしかったな…)
この瞬間だけは、はるっぴのことを忘れられたのだった。
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