第四話 近づく色
「じゃあ、アラベスク、練習しようか」
この技は、初心者向けではあるが、足を後ろに高く上げる動きだ。
超初心者コースであるFクラスでも、少しだけ練習するが、いくら先生に上達が早いと言われても、苦戦する技だった。
「私が見本見せるけん、見とってね」
はるっぴはバーに手を置いて、片足を上げる。
背筋が伸びていて、腰は落とさず、足はつま先がぴんと張って高く上がっている。
(きれい…)
「膝を伸ばして、腰を落とさないように。体全体で一本の線になるようなイメージ」
説明もわかりやすい。
将来は世界的なバレリーナになるのだろうけれど、先生も向いていそうだ。
「それじゃあ、さくちゃん、やってみよっか」
「え、あ、うん!」
すっかり見惚れていたせいで、はるっぴへの反応が少し遅れてしまった。
バーに手を置いて、ゆっくりと足を上げる。
しかし、なかなか高くへは上がらない。
「さくちゃん、ちょっとごめんね」
「ひゃ!?」
はるっぴは後ろに回り込んで、私の腰に手を置いた。
あまりの衝撃に声が出てしまう。
「腰、落ちてるよ。こうやって、背中を伸ばして引き上げるんだけど…」
はるっぴの声が耳にかかる。
彼女の息が首筋を伝う。
背中に彼女の胸が触れる。
(近い…)
心臓の音がうるさすぎて、でも後ろからも鼓動が聞こえた気がした。
鏡に映る自分の顔が赤くて、それを見たくなくてぎゅっと目を閉じた。
「うん、いい感じ。さくちゃん、すごくきれい」
緊張で足が震える。
「さくちゃん?大丈夫?」
はるっぴが心配そうに聞くけれど、その声すらも私を動揺させた。
「だいじょ…きゃ!」
体が大きくふらついて、そのままバランスを崩してしまう。
はるっぴが支えてくれたけど、タイミングが遅かったのか、ふたりで床に倒れ込んでしまった。
「ご、ごめん!」
慌てて立ちあがろうとしたが、目の前にあるはるっぴの顔から目が離せない。
お互いの胸が密着する。
ペースが上がっていく鼓動は完全に混ざり合っていて、もうどちらの音なのかまったくわからない。
甘いシャンプーとほんの少しの汗のにおいが、私の鼻腔をくすぐる。
はるっぴの艶っぽい唇。
それに視線がくぎづけになった。
「咲良…」
絞り出すような声で、下の名前を呼ばれる。
(今、その呼び方はずるいよ…)
「遥…」
私も、それに応えて名前を呼んだ。
見つめ合って、距離がだんだんと縮まっていく。
やがて引き寄せられるように、唇を近づけた。
重なった唇の味は、甘くて頭がぼーっとした。
永遠に感じられるほど長い時間が過ぎて、息が苦しくなって、ようやくお互いの唇を離した。
途切れ途切れの息が、私の顔にかかる。
私の理性は、もう限界に近かった。
足が絡んで、遥の太ももの間に私の膝が滑り込み、一番奥まで当たる。
「んっ…」
遥の口から、小さく漏れ出た声。
それを聞いて、私の中で張り詰めていた糸が切れる音がした。
わずかに身を起こして、彼女を見下ろす。
少し潤んだ瞳と、火照った頬。
首筋に伝う汗と、小さな呼吸。
すべてが私の本能を震え上がらせる。
瞬間、まるで獣になったかのように、今まで知らなかった感情のスイッチが入った。
意外にも豊満な彼女の胸の膨らみに、手を伸ばしたところでーー。
「それ以上は…だめ」
はるっぴの震える手が、私の手首を掴んだ。
彼女の顔をよく見ると、そこには一筋の涙が伝っていた。
その涙を見て、私は青ざめる。
「ご、ごめん!」
私は慌てて彼女から離れた。
はるっぴはまだ、息を切らして床に寝ているままだ。
「ほんとにごめんね、はるっぴ…」
どうすればいいかわからなくて、いたたまれなくなった私は、その場から走り去った。
更衣室に駆けつけ、ロッカーの前に座り込んだ。
「私…最低だ…」
現実に引き戻されて、自分がやったことの重みが全身にのしかかった。
急いで服を着替えて、バレエスタジオを出た。
この技は、初心者向けではあるが、足を後ろに高く上げる動きだ。
超初心者コースであるFクラスでも、少しだけ練習するが、いくら先生に上達が早いと言われても、苦戦する技だった。
「私が見本見せるけん、見とってね」
はるっぴはバーに手を置いて、片足を上げる。
背筋が伸びていて、腰は落とさず、足はつま先がぴんと張って高く上がっている。
(きれい…)
「膝を伸ばして、腰を落とさないように。体全体で一本の線になるようなイメージ」
説明もわかりやすい。
将来は世界的なバレリーナになるのだろうけれど、先生も向いていそうだ。
「それじゃあ、さくちゃん、やってみよっか」
「え、あ、うん!」
すっかり見惚れていたせいで、はるっぴへの反応が少し遅れてしまった。
バーに手を置いて、ゆっくりと足を上げる。
しかし、なかなか高くへは上がらない。
「さくちゃん、ちょっとごめんね」
「ひゃ!?」
はるっぴは後ろに回り込んで、私の腰に手を置いた。
あまりの衝撃に声が出てしまう。
「腰、落ちてるよ。こうやって、背中を伸ばして引き上げるんだけど…」
はるっぴの声が耳にかかる。
彼女の息が首筋を伝う。
背中に彼女の胸が触れる。
(近い…)
心臓の音がうるさすぎて、でも後ろからも鼓動が聞こえた気がした。
鏡に映る自分の顔が赤くて、それを見たくなくてぎゅっと目を閉じた。
「うん、いい感じ。さくちゃん、すごくきれい」
緊張で足が震える。
「さくちゃん?大丈夫?」
はるっぴが心配そうに聞くけれど、その声すらも私を動揺させた。
「だいじょ…きゃ!」
体が大きくふらついて、そのままバランスを崩してしまう。
はるっぴが支えてくれたけど、タイミングが遅かったのか、ふたりで床に倒れ込んでしまった。
「ご、ごめん!」
慌てて立ちあがろうとしたが、目の前にあるはるっぴの顔から目が離せない。
お互いの胸が密着する。
ペースが上がっていく鼓動は完全に混ざり合っていて、もうどちらの音なのかまったくわからない。
甘いシャンプーとほんの少しの汗のにおいが、私の鼻腔をくすぐる。
はるっぴの艶っぽい唇。
それに視線がくぎづけになった。
「咲良…」
絞り出すような声で、下の名前を呼ばれる。
(今、その呼び方はずるいよ…)
「遥…」
私も、それに応えて名前を呼んだ。
見つめ合って、距離がだんだんと縮まっていく。
やがて引き寄せられるように、唇を近づけた。
重なった唇の味は、甘くて頭がぼーっとした。
永遠に感じられるほど長い時間が過ぎて、息が苦しくなって、ようやくお互いの唇を離した。
途切れ途切れの息が、私の顔にかかる。
私の理性は、もう限界に近かった。
足が絡んで、遥の太ももの間に私の膝が滑り込み、一番奥まで当たる。
「んっ…」
遥の口から、小さく漏れ出た声。
それを聞いて、私の中で張り詰めていた糸が切れる音がした。
わずかに身を起こして、彼女を見下ろす。
少し潤んだ瞳と、火照った頬。
首筋に伝う汗と、小さな呼吸。
すべてが私の本能を震え上がらせる。
瞬間、まるで獣になったかのように、今まで知らなかった感情のスイッチが入った。
意外にも豊満な彼女の胸の膨らみに、手を伸ばしたところでーー。
「それ以上は…だめ」
はるっぴの震える手が、私の手首を掴んだ。
彼女の顔をよく見ると、そこには一筋の涙が伝っていた。
その涙を見て、私は青ざめる。
「ご、ごめん!」
私は慌てて彼女から離れた。
はるっぴはまだ、息を切らして床に寝ているままだ。
「ほんとにごめんね、はるっぴ…」
どうすればいいかわからなくて、いたたまれなくなった私は、その場から走り去った。
更衣室に駆けつけ、ロッカーの前に座り込んだ。
「私…最低だ…」
現実に引き戻されて、自分がやったことの重みが全身にのしかかった。
急いで服を着替えて、バレエスタジオを出た。