第四話 近づく色
秋葉原女子学園。
五月も四週目に入り、もうすぐ中間テスト一週間前になるが、違う科目の先生に国語の時間を譲ってほしいと言われたので、授業がなくなってしまった。
どうせ雑談ばかりしていて、授業計画が狂ってしまったのだろう。
新任の私より、年配の先生の方がこういう現象も起こりやすい。
(せっかくだから、今のうちにいつも残業してやってる仕事を終わらせて今日は早く帰ろう)
そう思い職員室で仕事をしていると、突然扉が開いた。
やってきたのは保健室の先生。
「柏木先生!北原さんが倒れました!」
「え!?」
慌てて保健室に向かうと、担任をもっている2年B組の生徒である北原里英が、ベッドの上で眠っていた。
「何かあったんですか?」
「体育の授業中に突然倒れたみたいで。おそらく貧血かと」
「そうですか…心配ですね…」
しばらくして、保健室の先生は自分の仕事へと戻った。
私も職員室に帰ろうとしたが、ひとりにするのはなんだかかわいそうで、その場から離れられずにいた。
眠る姿を見守っていると、彼女の眉がわずかに動いて、冷や汗をかいているのがわかった。
(うなされてる…?変な夢でも見てるのかな)
「りのちゃん…」
そっと、北原さんの口から漏れた言葉。
『りのちゃん』
どこにでもいるありきたりな女の子の名前。
けれど、私はその名前を聞いてどうしようもない胸騒ぎに襲われた。
(りのちゃんって…まさか…)
思考を巡らせようとした瞬間、ガラガラと、保健室の扉が大きな音を立てて開いた。
「里英ちゃん、大丈夫!?」
中に入ってきたのは、北原さんと仲のいいクラスメイト、大家志津香、多田愛佳、宮崎美穂の三人だった。
「大丈夫よ。軽い貧血だって。まだ寝かせておいた方がいいと思うけど」
「ならよかった…急に目の前で倒れるんだから、びっくり」
多田さんが肩の荷を下ろしたように安心した表情を見せた。
「もしかしたら無理してたのかもね。勉強も運動も優秀だし、学級委員としていろいろやってくれてるし。担任として、負担がかからないようにしないといけないな…」
「うちらも協力できることあったらやらないとね!」
宮崎さんが元気よく言って、大家さんと多田さんが頷いた。
「そういえば、さっき北原さんが寝言で『りのちゃん』って言ってたんだけど」
その名前を出した瞬間、三人のさっきまで明るかった表情が消えた。
「なんだか、すごく苦しそうな顔をしてうなされてたから…みんな、何か知ってる?」
「いやー、知らない知らない!ね〜、みゃお?」
「うんうん、昔のことだもん。いろいろあったからね〜」
「お、おい、昔のこととか言ったらだめっしょ」
「あ、やべ」
大家さんと宮崎さんは慌ててごまかす。
私は最後の砦を頼る気分で、多田さんに目を向けた。
「知らなくていいこともあるよ」
多田さんは伏し目がちにそう言った。
「じゃ、うちら体育の授業抜け出してきたから、そろそろ戻るね!」
「あ、うん。ちゃんと授業は受けるのよ」
「わかってる!またね、ゆきりん先生!」
そうして、三人はバタバタと保健室から消えていった。
(はぐらかされちゃったな…)
「はあ。私も仕事戻ろ」
北原さんが元気になるよう祈りながら、私は職員室へと引き返した。
五月も四週目に入り、もうすぐ中間テスト一週間前になるが、違う科目の先生に国語の時間を譲ってほしいと言われたので、授業がなくなってしまった。
どうせ雑談ばかりしていて、授業計画が狂ってしまったのだろう。
新任の私より、年配の先生の方がこういう現象も起こりやすい。
(せっかくだから、今のうちにいつも残業してやってる仕事を終わらせて今日は早く帰ろう)
そう思い職員室で仕事をしていると、突然扉が開いた。
やってきたのは保健室の先生。
「柏木先生!北原さんが倒れました!」
「え!?」
慌てて保健室に向かうと、担任をもっている2年B組の生徒である北原里英が、ベッドの上で眠っていた。
「何かあったんですか?」
「体育の授業中に突然倒れたみたいで。おそらく貧血かと」
「そうですか…心配ですね…」
しばらくして、保健室の先生は自分の仕事へと戻った。
私も職員室に帰ろうとしたが、ひとりにするのはなんだかかわいそうで、その場から離れられずにいた。
眠る姿を見守っていると、彼女の眉がわずかに動いて、冷や汗をかいているのがわかった。
(うなされてる…?変な夢でも見てるのかな)
「りのちゃん…」
そっと、北原さんの口から漏れた言葉。
『りのちゃん』
どこにでもいるありきたりな女の子の名前。
けれど、私はその名前を聞いてどうしようもない胸騒ぎに襲われた。
(りのちゃんって…まさか…)
思考を巡らせようとした瞬間、ガラガラと、保健室の扉が大きな音を立てて開いた。
「里英ちゃん、大丈夫!?」
中に入ってきたのは、北原さんと仲のいいクラスメイト、大家志津香、多田愛佳、宮崎美穂の三人だった。
「大丈夫よ。軽い貧血だって。まだ寝かせておいた方がいいと思うけど」
「ならよかった…急に目の前で倒れるんだから、びっくり」
多田さんが肩の荷を下ろしたように安心した表情を見せた。
「もしかしたら無理してたのかもね。勉強も運動も優秀だし、学級委員としていろいろやってくれてるし。担任として、負担がかからないようにしないといけないな…」
「うちらも協力できることあったらやらないとね!」
宮崎さんが元気よく言って、大家さんと多田さんが頷いた。
「そういえば、さっき北原さんが寝言で『りのちゃん』って言ってたんだけど」
その名前を出した瞬間、三人のさっきまで明るかった表情が消えた。
「なんだか、すごく苦しそうな顔をしてうなされてたから…みんな、何か知ってる?」
「いやー、知らない知らない!ね〜、みゃお?」
「うんうん、昔のことだもん。いろいろあったからね〜」
「お、おい、昔のこととか言ったらだめっしょ」
「あ、やべ」
大家さんと宮崎さんは慌ててごまかす。
私は最後の砦を頼る気分で、多田さんに目を向けた。
「知らなくていいこともあるよ」
多田さんは伏し目がちにそう言った。
「じゃ、うちら体育の授業抜け出してきたから、そろそろ戻るね!」
「あ、うん。ちゃんと授業は受けるのよ」
「わかってる!またね、ゆきりん先生!」
そうして、三人はバタバタと保健室から消えていった。
(はぐらかされちゃったな…)
「はあ。私も仕事戻ろ」
北原さんが元気になるよう祈りながら、私は職員室へと引き返した。