番外編
ハッピーバレンタイン
三途の川のほとりで奪衣婆 は一人溜息をついていた。今日は二月十四日。ここ冥府でもバレンタインイベントを満喫するカップルで溢れ返っていた。本来ならば今ここに閻魔大王がいた筈なのだが、いくら待てども来ない。これはまた忘れられたなと思うも、もしかしたらもう少し待てば来るかもしれない。そう思い待ち続ける事一時間。閻魔大王の姿は未だ全く見えない。スマートフォンを取り出し、連絡が来ていないか確認するも特になし。
「もしかして今頃大勢の女に囲まれてたりして。だから行くにも行けず困っているんだわ!うん、きっとそうよ!」
ならば今すぐに閻魔大王の元へ行き、助け出さなければ。そう思うと同時に奪衣婆は立ち上がり、閻魔庁目指して走って行った。
閻魔庁へと着き、取り敢えず仕事場へと向かってみる。しかし、そこはもぬけの殻で誰もいなかった。となれば自室にでもいるのか。そう思っていると後ろから声をかけられる。
「奪衣婆さん、こんな所でどうしたんですか?」
そこには十王候補の一人である五官王 が立っていた。優しげに微笑んでいるつもりなのだろうが、目の下の隈のせいで純粋な笑みに見えずどこか恐ろしく見える。
「え、えっと、大王様探してるんです」
「ああ、それならさっき東屋の方で見掛けましたよ」
「ありがとうございます!行ってみます!」
お辞儀をし、早歩きで東屋の方へと向かう。そこで女に囲まれているに違いない。
「今助けに行きますから」
回廊を駆け抜けていき、東屋のある方へと着く。しかしそこには女などどこにもおらず、閻魔大王が一人ぼうっと虚空を見つめ続けていた。
「大王様」
いつも通りの元気な声で呼ぶと、閻魔大王は一瞬びくりと肩を跳ねさせて驚くも、直ぐに奪衣婆だと気付くと柔和な笑みを浮かべた。
「奪衣婆、どうしたんだい?」
「どうしたんだい、じゃありません!約束ほっぽいて何してるんですか」
「………………!す、すまない、すっかり忘れていた」
「そうじゃないかと思ってました。はあ、まあいいや。これ大王様の為に一生懸命作ったので、受け取ってください」
紙袋から綺麗な外装の少し大きめな箱を取り出すと、閻魔大王へと差し出す。
嬉しそうな面持ちで閻魔大王は受け取ると、早速箱を開け始める。そこにはチョコレートケーキがあり、閻魔大王は頬を緩めて嬉しそうに笑った。
「ありがとう、奪衣婆。早速食べよう」
「どうぞ召し上がれ」
箱の中に入っていたプラスチック製のフォークを取り出し、一口分取ると一気に口へと入れる。あまりの美味しさに一通り咀嚼し終え飲み込むと、また一口と食べていく。その様子を奪衣婆は嬉しそうな表情で見ていた。
半分くらいまで食べた所で閻魔大王は一旦フォークを置く。
「凄く美味しいよ、ありがとう。所で急にケーキなんて作ってきてどうしたんだい?今日なんかの記念日だったっけ」
その言葉に今日がバレンタインだという事を知らないなと奪衣婆は気付く。
「大王様、今日は二月十四日ですよ」
「うん、そうだね」
まだピンと来ていない閻魔大王に「バレンタインです」と告げる。するとハッとした表情になり、奪衣婆に改めてケーキのお礼を言う。
「あの、大王様。そのフォークちょっと貸してください」
「はい」
フォークを受け取り、ケーキを一口大に取ると閻魔大王の口元へと運ぶ。
「はい、大王様。あーん」
「え、ちょ、ちょっと奪衣婆。こんな誰が見てるか分からない場所でそういうのはちょっと……」
「見られても困る事なんてないですよね?」
「それはそうだけど」
「なら食べてください。あーん」
二度三度後ろを確認すると閻魔大王は口を開く。すると直ぐに口の中に甘い味が広がる。ゆっくり味を楽しむように咀嚼していると、奪衣婆が近付いてきた。
「だ、奪衣婆?」
「今キスしたら甘い味なんだろうなあって思ったんです」
「き、キス、するのかい?」
「はい!良いですよね?」
視線を彷徨わせたあと閻魔大王は首を縦に振った。それを合図に奪衣婆は閻魔大王へと啄むように何度も何度もキスを落とす。一通り楽しんだ後、閻魔大王の唇に着いていたチョコレートを舐めとってやる。突然唇を舐められ、閻魔大王はびくりと肩を震わせた。
悪戯っぽく笑いながら閻魔大王から離れる。よく見ると閻魔大王の顔は耳まで真っ赤になっていた。
「大王様、次の約束忘れたら私の言う事何でも聞いてくださいね」
「ああ」
そう返事をしながら頷くと、奪衣婆は嬉しそうに思い切り閻魔大王へと抱き着いた。
「大王様大好きです」
「わ、私もだ……」
その後残ったケーキを奪衣婆と半分こしながら仲良く食べるのだった。
三途の川のほとりで
「もしかして今頃大勢の女に囲まれてたりして。だから行くにも行けず困っているんだわ!うん、きっとそうよ!」
ならば今すぐに閻魔大王の元へ行き、助け出さなければ。そう思うと同時に奪衣婆は立ち上がり、閻魔庁目指して走って行った。
閻魔庁へと着き、取り敢えず仕事場へと向かってみる。しかし、そこはもぬけの殻で誰もいなかった。となれば自室にでもいるのか。そう思っていると後ろから声をかけられる。
「奪衣婆さん、こんな所でどうしたんですか?」
そこには十王候補の一人である
「え、えっと、大王様探してるんです」
「ああ、それならさっき東屋の方で見掛けましたよ」
「ありがとうございます!行ってみます!」
お辞儀をし、早歩きで東屋の方へと向かう。そこで女に囲まれているに違いない。
「今助けに行きますから」
回廊を駆け抜けていき、東屋のある方へと着く。しかしそこには女などどこにもおらず、閻魔大王が一人ぼうっと虚空を見つめ続けていた。
「大王様」
いつも通りの元気な声で呼ぶと、閻魔大王は一瞬びくりと肩を跳ねさせて驚くも、直ぐに奪衣婆だと気付くと柔和な笑みを浮かべた。
「奪衣婆、どうしたんだい?」
「どうしたんだい、じゃありません!約束ほっぽいて何してるんですか」
「………………!す、すまない、すっかり忘れていた」
「そうじゃないかと思ってました。はあ、まあいいや。これ大王様の為に一生懸命作ったので、受け取ってください」
紙袋から綺麗な外装の少し大きめな箱を取り出すと、閻魔大王へと差し出す。
嬉しそうな面持ちで閻魔大王は受け取ると、早速箱を開け始める。そこにはチョコレートケーキがあり、閻魔大王は頬を緩めて嬉しそうに笑った。
「ありがとう、奪衣婆。早速食べよう」
「どうぞ召し上がれ」
箱の中に入っていたプラスチック製のフォークを取り出し、一口分取ると一気に口へと入れる。あまりの美味しさに一通り咀嚼し終え飲み込むと、また一口と食べていく。その様子を奪衣婆は嬉しそうな表情で見ていた。
半分くらいまで食べた所で閻魔大王は一旦フォークを置く。
「凄く美味しいよ、ありがとう。所で急にケーキなんて作ってきてどうしたんだい?今日なんかの記念日だったっけ」
その言葉に今日がバレンタインだという事を知らないなと奪衣婆は気付く。
「大王様、今日は二月十四日ですよ」
「うん、そうだね」
まだピンと来ていない閻魔大王に「バレンタインです」と告げる。するとハッとした表情になり、奪衣婆に改めてケーキのお礼を言う。
「あの、大王様。そのフォークちょっと貸してください」
「はい」
フォークを受け取り、ケーキを一口大に取ると閻魔大王の口元へと運ぶ。
「はい、大王様。あーん」
「え、ちょ、ちょっと奪衣婆。こんな誰が見てるか分からない場所でそういうのはちょっと……」
「見られても困る事なんてないですよね?」
「それはそうだけど」
「なら食べてください。あーん」
二度三度後ろを確認すると閻魔大王は口を開く。すると直ぐに口の中に甘い味が広がる。ゆっくり味を楽しむように咀嚼していると、奪衣婆が近付いてきた。
「だ、奪衣婆?」
「今キスしたら甘い味なんだろうなあって思ったんです」
「き、キス、するのかい?」
「はい!良いですよね?」
視線を彷徨わせたあと閻魔大王は首を縦に振った。それを合図に奪衣婆は閻魔大王へと啄むように何度も何度もキスを落とす。一通り楽しんだ後、閻魔大王の唇に着いていたチョコレートを舐めとってやる。突然唇を舐められ、閻魔大王はびくりと肩を震わせた。
悪戯っぽく笑いながら閻魔大王から離れる。よく見ると閻魔大王の顔は耳まで真っ赤になっていた。
「大王様、次の約束忘れたら私の言う事何でも聞いてくださいね」
「ああ」
そう返事をしながら頷くと、奪衣婆は嬉しそうに思い切り閻魔大王へと抱き着いた。
「大王様大好きです」
「わ、私もだ……」
その後残ったケーキを奪衣婆と半分こしながら仲良く食べるのだった。