番外編

夜半に芽生えるものもある




「腹減った……」

 腹の虫が大合唱を奏で始めて早30分、五官王ごかんおうは眠れないでいた。時計を見れば深夜1時。いつもなら既に夢の中へと旅立っているはずのこの時間に、たかだか腹が減って眠れないなどという馬鹿げた理由で起きている事に腹を立てていた。
 それもこれも晩御飯の時に、両隣からおかずを持っていかれてしまったのが原因だ。

『あれ?五官王、その肉食べないんですか?ならください!』
『えっ、ごかんくんいらないの?!ならおれにもちょうだい!』

 そう言われメインのおかずであった生姜焼きを、制止する前に宋帝王そうていおうと閻魔王に奪われてしまった。そんな訳でメインのおかず無しにご飯が進む筈もなく、満たされないまま食事を終え今に至る。

「今から何か食うか……いやどうする……」

 一瞬迷ったが、このまま眠れないでいるよりかは、何か食べて眠った方が良いような気がしてきた。
 そうと決まれば勢い良く起き上がり、そのまま部屋から出る。隣の部屋から何やら叫び声が聞こえてきたような気がするが、そこは気にしないでおく。





 厨房へ入ってすぐ右にある棚の中に、自由に食べていいカップラーメンがある。それを食べようかと思い棚の戸を開けると、そこには最後の1つとなっていたカップラーメンが鎮座していた。
 最後の1つとなると食べていいものか考えてしまうが、今は腹が減って仕方がないので遠慮せず食べる選択肢をとる。

「あれ、お湯ないのか」

 面倒だなと思いつつ、やかんに水を入れコンロに火をつける。
 お湯が湧くまでの間暇になってしまい、つい先程聞こえてきた閻魔王の断末魔に近い悲鳴について考えてしまった。

「焼け死ぬってすげえ苦しいんだろうな…」

 刺されて死ぬのも痛かったけど、急所を刺されればそれで終わりだしな。焼け死ぬって自分がこと切れるまでずっと痛みが襲ってくるから、きっと想像以上の痛みや苦しみ、恐怖があるんだろう。
 そう思っていると突然目の前に黒い影が現れ、コンロの火が消された。
 驚いたがよく見てみると、いつも閻魔王の側近くに控えている小野篁おののたかむらだった。

「お湯とっくに湧いてますよ。火事でも起こす気ですか?」
「うわっ、びっくりした……篁さんか……」
「何やら熟考されていたご様子ですが、火を扱っている時はしっかり見ていないと駄目ですよ」
「はい……すみません」

 お湯の湧いたやかんを持ち上げ、カップラーメンへと熱湯を注ぐ。時間を確認して待ち時間どうするかと考えていたところで、何故篁がここにいるのか疑問に思う。声をかけようかと思っていると、棚の方から嘆き声が聞こえてきた。

「あああ……私の楽しみが……どこにも無い……五官様、よもやそのラーメン、最後のひとつ……」
「え、ええ、まあ」
「そうですか……ならば私は戻ります……さようなら……よよよ」

 分かりやすく肩を落とす篁に思わず笑ってしまう。
 このままだと自分と同じように腹が減って寝付けなくなるかもしれない。それに1人で食べるより、誰かと食べた方が美味しいに決まっている。そう思った五官王は篁を呼び止め、一緒に食べないかと提案をした。

「よろしいのですか……おっと、ごほん……それは余りに恐れ多いと言うもの……いやしかしご好意を無下にするのも失礼な事……嗚呼、この篁一体どうすれば」
「いらないなら俺一人で食べますけど」
「いらないなど一言も言っていないではないですか!嗚呼〜酷い〜なんて酷いの〜酷い人〜」

 謎の詩を詠み始めた篁をよそに器を用意する。するとその動きを制止されてしまった。

「五官様、そういった準備は全て下のものにさせるのが宜しいかと。私が準備致しますのであちらに座ってお待ちください」
「いや、いいっ―─」
「駄目です。ほら早くあちらに座っていてください」

 背中を押されあっという間に厨房の隅にある椅子へと座らせられてしまう。所在なさげにしていると、すぐに小さなテーブルに蓋の開けられたカップラーメンとお箸2膳、取り分け用の器が置かれた。

「ところで五官様は卵やチーズなど入れる派ですか?ああ、それともマヨネーズ派ですか?」

 マヨネーズと聞いて一瞬秦広王が過ぎる。あいつなら麺が見えなくなる程掛けそうだな、と考えていたら食べる前から胸焼けがしてきた。

「無難に卵で」
「かしこまりました」
「篁さんは何か入れたりするんですか?」
「そうですね……たまにネギや卵を入れてみるだけで、普段は何も入れません。そう言えば先程から何故敬語で話されるのですか?私のような下の者に敬語は必要ありませんよ」
「そう言われても……」

 ── 篁さん俺よりすげえ年上だし……

 と言おうとしてやめる。流石に年齢を出すのは失礼だし、それを言ってまた変な詩を詠み始めたら面倒くさい。

「私が五官様より年上という事を気にしてなさるのなら、気にする事はありません。ここでは年齢は関係ありませんので」

 小野篁、もしかしたら超能力が使えるのかもしれない。と一瞬変な事を考えたが、年齢に壁を感じてしまい敬語になってしまうのは、誰が考えても行き着く答えだろう。
 そう考えていると目の前に殻から出された生卵の入っている器がそっと置かれた。

「そうは言っても……」
「……うーん、しかし、まあ……いきなり敬語を辞めろというのも無理な話ですよね。少しずつで良いのでくだけた言葉で話してみてください。ところで、そろそろ食べないと折角の美味しい麺が伸びてしまいますよ」
「頑張ってみます……あれ、篁さん座らないで食べるんですか?」
「五官様の許可無く座れませんから」

 そこまで気にしなくて良いのにと思いながらも、篁を座るよう促す。
 目の前に座った篁は顔の左半分を覆っている髪を耳に引っ掛けた。初めて見る篁の素顔を思わずまじまじと見てしまう。

「どうかいたしましたか?」
「あっ、いえ、別に何も無いです」
「……そうですか。てっきり私の顔がイケメン過ぎて思わず凝視してしまったのかと思いました」
「自分で言いますか……」
「私の顔がいいのは私自身1番分かっていますから」
「はは……」

 ある意味凄いなと思いつつ、取り分け用の器に半分麺とスープを入れる。
 準備は整った。お箸を取り麺を啜る。しかし思っていたより熱く顔をしかめてしまう。

「大丈夫ですか?」
「熱すぎた……」

 ふっと笑いながらいつの間に用意したのか、目の前に水を置かれた。それを一気に飲み干し口の中の熱を発散させる。少しマシになったような気がして息を吐く。
 その光景を面白げに見ていた篁に「もう一杯いりますか?」と聞かれるが、大丈夫とだけ答える。熱さが分かったら後はもう、口に入れる量を調節すればいける気がする。そう思い、少量の麺を取り啜る。先程は熱すぎて分からなかったスープの味を染み込ませた麺の味が感じられた。インスタント特有の癖になる俗っぽい味が堪らない。脳が震える、そんな気がした。
 もう一口食べようとした所で、篁が食べないでこちらをじっと見つめている事に気付いた。

「食べないんですか?」
「本当は今すぐ食べたい所ですが、五官様の前で食べるだなんてそんな恐れ多いこと、この篁に出来るはずもなく……」

 よよよ、と顔を覆う篁に面倒くさい人だと思う反面、面白い人だなと思ってしまう。

「いや食べればいいじゃないですか……一緒に食べましょうよ」
「しかしそのような恐れ多い以下略」
「ぷっ……以下略って……食べないならそれ俺が食べますよ」
「食べないとは言っていません。嗚呼、酷いお方……よよよ、よ。ではいただきます」

 また何か言い始めるのかと思いきや、そのまま流れるように食べ始める。麺を啜れないのか少しずつ口に含むように食べ、丁寧に咀嚼をした後飲み込んだ。
 ふう、と息をつくと篁は笑みを浮かべこちらを見た。

「ひと仕事終えた後のご飯は格別に美味しいですね。五官様のお陰で食いっぱぐれを防げたこと感謝致します」
「えっ、篁さんもしかして何も食べてなかったんですか?!」
「ええ、色々と雑務をしていた所、晩御飯を食べ損ねてしまいました。そういえば晩御飯の時閻魔様が大変失礼致しました……あの後注意したので、もう勝手に取る事は無いとは思いますが……なにせ閻魔様のこと、再犯の可能性がなきにしもあらず……」
「あいつなら確かに……てか、そんな気にしてないので大丈夫ですよ。ほら、食べましょうよ」

 そう言い食べるのを促す。それもそうですねと言いまた食べ始める篁と同じように、自分も食べるのを再開する。
 半分ほど食べたところで疑問に思った事を言うか悩んでいると、箸が止まった事を不思議に思った篁が尋ねてきた。

「何か気になることでもありましたか?どんなお話でも聞きますよ」
「いや、凄いどうでもいい事なので……」
「些細なことでも気になると眠れなくなるもの。ささ、この篁めに聞かせてくださいな」
「なら……篁さんって一体いつどこで寝てるんですか?」

 もっと変な質問が飛んでくると予想していたのか、少しつまらなそうな表情をされる。反応が素直過ぎて腹を立たせることすら無意味に感じた。

「私がどこで眠っているか聞き出して、もしや寝込みを襲おうとそういう魂胆ですか……嗚呼、なんと恐ろしい……既に亡き者ですが、更に私を亡き者にしようと画策していたとは……なんと、なんと恐ろしい……よよよ」
「何言ってるんですか……そんなつもりないですよ」

 両手で顔を覆い泣く真似をする篁に、やっぱり言わなければ良かったと思っていると、突然すっと姿勢を正し口を開いた。

「冗談はさておき、今は閻魔様の寝室に布団を敷かせてもらいそこで眠っています」
「へえ、そうなんですか……ずっと床で寝てて大丈夫ですか?」
「この若い姿でなら問題ありません。それに300年程床で眠っていれば慣れるってものです」
「ん?300年……?」
「ええ、細かく数えたらもう少し経っているかもしれませんが、大体それ位床で眠っています」
「凄いな……ん?待てよ……てことは、あいつ結構昔の人だったのか……知らなかった……」

 300年って一体何時代だ?昭和よりもっと前か?などと考えていたら、箸が止まっていたらしく食べるよう促される。
 その後暫く無言で食べていた篁は一旦箸を置き、水を1口飲んでからこちらを見て微笑んだ。

「いつも1人で食べているので今日はとても楽しいです」
「いつも……?もしかして篁さん、毎晩ここで食べてたんですか?」
「ええ、実はそうなんです。閻魔様が眠られたあと、ここでひっそりと食べるのが密やかな楽しみでして……」

 へえ、と言いながら生卵を割り麺と馴染ませる。黄身が絡まった麺を啜れば先程とは違い、まろやかな味が口内に広がる。黄身と麺の相性が良過ぎて思わず顔がほころんだ。

「凄く美味しそうに食べられるのですね。それに五官様は冷まさず、そのまま口へと入れてしまわれる。常人ならば熱く感じるものすら、五官様にかかればそのようなことは無い、と。いやあ、これは凄い」
「冷まして食べてたら美味しさ半減するじゃないですか」

 それから何も凄くないですよと付け加え、また冷まさず麺を啜る。
 この冷ましていない熱々のものを口に入れた時に感じるなんとも言えない幸福感。今この瞬間自分は食べ物を食べていると実感できるリアリティ。同時に襲ってくる様々な思考を超えて感じる食への喜び。

 それらを上手く言葉へ変換させて篁へと伝えたかったが、自分の語彙力では思うような言葉が出てこず、結局は「そのままが美味しい」という一言で済ませるしかなく、もどかしさでいっぱいになる。

 そんな時だった。今まで冷ましてから食べていた篁が、冷ますことなくそのまま口へと入れたのは。

「あちち……真似してそのままいってみたのですが、私には無理でした」
「無理に真似しなくても……」
「先程五官様が冷ましたら美味しさが半減すると仰ったので、本当にそうなのかと確かめた次第です。しかし……」

 うーんと首を傾げる篁と同じよう、自分も首を傾ける。どうしたのかと思っているとまた変な事を言い出した。

「五官様ならば地獄にある熱湯をそのまま口に入れても問題なさそうですね」
「なんでそうなるんですか……普通に焼けただれますって」
「大丈夫ですよ」
「あっ、そうだ。それなら今度地獄に連れてってください」
「それは駄目です」
「少しくらいなら」
「危ないので駄目です」

 きっぱりと言う篁にこれ以上何を言っても無駄だと悟り、大人しく目の前にある麺を啜った。

「そんなに地獄が気になるのならどんな感じかお教えしましょうか?」
「行ったことあるんですか」
「はい、あれはまだ私が生きていた頃の話です。なんとあの大王が人を裁くことに悩まれていた時期がありました。その時に現世から得の高い僧侶、満米まんべいを連れて来て有難いお話をしていただいた事がありました。その後満米が地獄を見たいと言い出したので、大王と共に阿鼻地獄へと行きました。阿鼻地獄は2000年かけて逆さまに落下して行く場所なのですが、流石大王。どこ●もドアのような扉を潜るとすぐそこには阿鼻地獄が広がっていました。そこには毛穴から猛火と悪臭を放つ銅の犬や、竜や大蛇が毒や火を放ち空からは虫が雨のように降ってきて正に地獄の果てを実感出来るような場所でした」

 虫が雨のように落ちてくるのを想像して思わず気持ち悪くなる。食べている時に虫の話は良くない。

「虫、そんなに沢山いるんですか?」
「はい、それはもううじゃうじゃと」
「……行きたくないですね」
「もしや五官様、虫が苦手ですか?」
「この世で1番苦手かもしんないです」
「ではもうこの話はやめましょう。せっかくのラーメンが不味くなってしまいます」

 残り少なくなった麺を食べるも、虫が頭から離れてくれずなかなか箸が進まない。何か違う話題がないか探していると、篁が口を開いた。

「五官様、それ位になったらそろそろお米入れたくなってきませんか?」
「え?ま、まあ……」
「なら暫しお待ちを。今取ってきます」

 そう言うやいなや篁は立ち上がり、少し足早に冷蔵庫へと向かう。
 篁はシメまで食べるタイプなのかと思っていると、すぐに戻ってきた。

「お待たせしました。こちら取っておいた冷や飯2人分です」
「よく2人分残しておきましたね」
「いつもこれ1人で食べていますので……」
「篁さんって見た目によらず結構食べるんですね」
「おや、少食にでも見えますか?」
「はい」
「これでも体は20代なので、しっかり食べないとすぐお腹空くんですよ」

 そうなんだ、と思いながら渡された冷や飯をスープの中へと入れる。馴染ませるよう混ぜていると、お箸だと食べづらいだろうとスプーンを渡された。こういう気の利く所がこの人のいい所だよな、と改めて思う。

 目の前の篁は冷や飯を入れると、その中へ更に卵とチーズを入れた。少し入れ過ぎのような気もしたが、それが篁の丁度いい量なのだろう。他人の良いと思いやっている事を否定してはならないと思っていると、「五官様もやります?」と聞かれた。しかし今日はそのままの味を楽しみたい気分だったので断りを入れる。
 チーズを溶かす為か突然すっと立ち上がり、電子レンジの方へと向かった。

「五官様のものも温め直しますか?」
「あー……そうしようかな」
「分かりました。では今器を出しますのでお待ちください」

 篁は電子レンジの上に持っていた器を一旦起き、棚から新しい器を出すとこちらへと戻ってきた。

「そのまま温めるのは難しいので、こちらに一旦入れさせていただきますね」
「あっ、それ位自分でや――」
「先程も言いましたでしょう?こういう事は下のものにやらせておけば良いんです。それにうっかり器を落として割ってしまい、指を怪我されたりしたらどうするんですか。私が五官王に叱られるんですよ。それだけは本当に本当に嫌なので、お願いですから何もしないでいてください」
「わ、分かりました……」

 怒られた事があるのか必死に止めてきた。
 自分の前では怒ったことが一切無い父上の怖い顔を想像してみるも、普段の温厚な姿しか想像出来ず首を傾げてしまう。
 そんなに怖いなら1度くらい見てみたいなと思っている最中も、篁は手を休めることなくカップから器へと中身を入れ替えていた。

「篁さん、父上が怒っている姿ってどんな感じなんですか?」

 なんとなく気になったので尋ねてみると、電子レンジへ向かう途中の篁の動きが止まった。

「…………私の口からはとても言えません」
「裁判している時よりも凄い感じですか?」
「……はい……そのような感じです」
「えっと……なんか……嫌なこと思い出させてしまってすみません」
「良いのです……元はと言えば調子に乗った私が悪かったのですから……」

 一体何をしたのか気になったが、これ以上嫌な記憶を思い出させるのも可哀想だと思い口を閉じる。
 こちらに視線を向けもう何も聞いてこない事を感じ取った篁は、ほっと肩を落とし2人分の器を電子レンジへと入れた。

 静かな部屋に響き渡る電子レンジの音を聞きながら、今晩は篁と色んな話が出来て楽しかったなと考える。普段閻魔王に付きっきりでゆっくり話せたこともなかったし、篁がどういった人なのかなんとなく分かったような気がした。
 チン、と温め終わった音が聞こえ、電子レンジ前で控えていた篁が2つの器を同時に持とうとして「熱っ」と声を上げた。

「大丈夫ですか?」
「はい、なんとか」

 着物の袖をミトン替わりに使い、先に五官王の器を持ってくる。

「熱いので気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
「こういう時、袖の長い着物だと便利なんですよね」
「確かに、俺の着てるパジャマじゃ袖が足りないな」

 そう言い笑い合っていると、突然厨房の入口から声が聞こえてきた。そこには寝間着を着崩し、ふくれっ面をした閻魔王がいた。

「たかむらくん!やっとみつけた!」
「え、閻魔様!?随分と早く起きられましたね……」
「トイレ行ってもどってきたらたかむらくんどこにもいなくて、さがしてたのに、たかむらくんは、ごかんくんとおいしいもの食べてたなんてずるい!」

 ずるいずるいと連呼する閻魔王に「閻魔様は晩御飯の時に美味しいもの食べてたでしょう」と宥める篁。夜ぐらい休ませてやれよと思い、篁に助け舟を出した。

「おい、閻魔。篁さんは晩御飯食べてないんだから、何もずるい事はないだろう」
「じゃあごかんくんは、ばんごはん食べたのに、どうして食べてるの?」
「お前のせいでしっかり食べられなかったからに決まってるだろう。とにかく、もう遅いんだから寝坊魔のお前は戻って寝ろ」
「たかむらくんももどる?」
「篁さんはまだ無理だ。お前一人で戻れ」

 一人で戻れ、その言葉がショックだったのか今にも泣き出しそうになる。これは面倒くさいのを更に面倒にしてしまった気がするぞと思っていると、今まで黙っていた篁が口を開いた。

「まあまあ、そこら辺で勘弁してやってください。閻魔様、勝手にいなくなってしまい、すみませんでした」
「たかむらくんが、いっしょにもどってくれるまで、ここにいていいんだったら、いいよ」
「眠くないんですか?」
「ぜんぜんねむくない」

 あ、これは嘘だなと思ったが何も言わずに黙って見ていると、また入口の方から声がした。

「あれ、五官王に閻魔王、それに篁さんまでいる。何してるんですか?」
「宋帝王こそ何しに来たんだ?」
「質問を質問で返すのはどうかと思うんですが……まあいいや。ちょっと喉が渇いたから来ただけです。そういう五官王は夜食ですか……食いしん坊なんですね」

 お前のせいだよと言いたかったが、ぐっと堪える。ここで怒った所で何もいい事なんてない。
 閻魔王のようにここに残るのかと思っていたが、意外にも水を飲んだら「早く寝た方がいいですよ、おやすみ」と言い残して戻って行った。その間相当眠かったのか、篁の足元で閻魔王は眠りに落ちていた。

「五官様、我々も早いところ食べて戻りましょうか」
「それもそうですね。あ、後でそいつ運ぶの手伝いますよ」
「それは――」
「恐れ多いとか思わないで良いですから。篁さん一人で運ぶの大変でしょう。俺重いもの持つのには自信があるんで!」
「閻魔様は物ではないのですが……」
「そういやそうでした」

 思わず笑っていると、つられてしまったのか篁も笑い始める。笑いながら「私が笑った事はここだけの秘密という事にしておいてください」と言われ、分かりましたと答える。こいつに知られたら面倒だもんな。そう思いながら冷めてしまったシメのご飯を口に入れる。

 冷めていても美味しいと感じるのは、美味しさを分かち合っているからかもしれない。それに、篁との距離も少しだけ縮まった気がする。そんな事を考えていたら、じんわりと暖かいものを感じられた。
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