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夢見た王子様


東京から誰もいなくなる夢を見た。突如開催される理不尽なげぇむ。見たことないくらい綺麗な王子様。………いや、王子様じゃない。彼は確か…。

「………ハッ!」
部屋中鳴り響く着信音で意識が覚醒した。またかと思い、隣で寝ていた彼が電話をとるのを恨みがましい目で見つめる。どうやら緊急の手術が入り、呼び出されたらしい。
「…また呼び出し?」
「まぁね。ちょっと行ってくるから寝てて」
 悪いね、なんて言っちゃって、思ってねーだろお前。

 彼と出会ったのは一年と半年前。隕石落下による未曾有の大災害に巻き込まれ、入院していた時だった。廊下で偶々すれ違っただけの私を呼び止め、
「ねぇ、オレ達、もしかして何処かで会ったことがある?」
と彼は言った。
 こんな、如何にも怪しい問いかけを無視しなかった理由は一つ。彼の顔があまりに好みだったからだ。
 遂に現れた私の王子様!と電撃が走った。所謂一目惚れである。
「…そうかもしれませんね」
 私、明後日退院予定なんです。奇遇だね、オレもだ。なんて会話して、連絡先まで交換した。あの時、確かに運命を感じていたのだ。
 私達は退院してすぐ交際を始め、半年後結婚するに至った。

 …しかし、結婚してから気づいてしまった。私と彼は圧倒的に相性が悪いという事に。チシヤはかなりの個人主義で、新婚だというのに最低限しか私と関わろうとしない。寝室も分けようとしていたので、それだけは断固反対した。しかも、死にかけた事で、忘れかけていた情熱のようなものを思い出したらしく、結婚後の彼は仕事に没頭していた。付き合ってた頃は何だかんだ私を優先してくれることも多かったのに。
 最近は寝る時くらいしか一緒の時間を過ごせない。それも二言三言会話しただけでさっさと寝てしまうのでフラストレーションが溜まるのである、色々と。
 私も大分夢見るタイプな自覚はある。入院中チシヤと同室だった縁で友人となったニラギに愚痴った時も、
「重いんだよ。こうなることは分かり切ってただろうが」
と一蹴されてしまった。
 いつも優しくて尽くしてくれる王子様タイプが好きな私にとって、チシヤは理想からかけ離れている。顔以外は。
「顔は好みなんだよなぁ。顔は」
 そう独り言を呟きながら、初めて会った時のことを再び思い出す。あの時、顔が好みだったのは一番だが、確かに「この人しかいない!」という感覚を覚えたはずだ。「何処かで会ったことがある?」という問いかけには今でも確実にYESと答えられる。
「でも、あんなイケメン一度会ったら忘れるわけないと思うんだけどな…」
 ダラダラ考え事をしながら晩御飯の支度を進める。今日はご馳走だ。手作りのケーキまで用意した。有給取って仕事休んでまでこんなに頑張っているのは、今日が私達の結婚記念日だからだ。
「もう用意できてしまったぞ…」
 チシヤは夜中出かけた後、結局帰ってこなかった。どうやらそのまま出勤したらしい。
 彼が人の命を救う尊い仕事をしているのは理解している。そんな彼を誇らしいと思う気持ちもなくはない。だが、今日くらい隣にいてほしいと思うのは我儘だろうか。

 ガチャ。玄関のドアが開く音がした。現在夜8時。普段の彼からしたらお早いお帰りである。
「お帰り。どしたの、早かったじゃん」
「ただいま。今日は夜中以外、緊急の仕事が入らなかったからね」
 ケーキとか花束とか、記念日ならではのものでも買ってきてくれてないか少し期待したが、彼は仕事用の鞄以外何も持っていなかった。
「今日どうしたの。豪華だね、ご飯」
「…結婚記念日だから。頑張ってみた」
「へぇ、すごいじゃん」
 やはりチシヤは今日のことを覚えてなかったらしい。普段の記憶力どこいったんだよ。
 消沈して席に着く。2人で手を合わせて淡々とご飯を食べ進めた。
「初めて会った時の事、覚えてる?」
 急にチシヤから問いかけられる。
「…うん。病院で、チシヤが新手のナンパしてきた…」
「そうだね。でも、オレ達はもっと前に会ってる筈なんだ」
「何それ。前世の記憶的な?」
「どうだろう。病院の廊下ですれ違った時、確かに感じたんだ。君がオレにとって、とても大切な存在だって」
 なんだか真面目な風にチシヤが話しを進めてる。大切な存在だなんて、そんな事初めて言われたので面食らってしまった。
「ホントどしたのよ。普段そんな事言わないじゃん」
「…オレ達は明日死ぬかもわからない。大事な事は伝えておかなきゃって思ってね。いかんせんオレは愛の言葉なんて今までの人生で経験してこなかったから、イマイチ要領が掴めないけど」
 そう言って彼は近くに置いていた鞄を漁る。そうして取り出したのは一本のバラだった。
「はいこれ、あげる」
「…なんでバラ?」
「帰り道にある花屋で一本だけ売れ残ってた。…気になってね」
 なんじゃそりゃ!と文句の一つも言いたくなったが、
「愛してるよ」
 なんて真面目な顔で先手を打たれてそれどころじゃなくなってしまった。
「…私も愛してる」
 ずるいよ。そんな素晴らしいご尊顔引っ提げて「愛してる」なんて。
 兎に角、今は撤退するけど、明日また落ち着いたら文句言ってやろう。そういう事は毎日伝えろ。そしたら多少の事はこっちも我慢してやる…。というか、何でも許してやりたくなるだろう、私の王子様にそんな事言われたら。
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