Solsticio  ―夏至―

 泉を回り込んで丘の麓まで行くと、巨大な洞窟が現れた。前はしゃがみ込まないと中が覗けなかったはずの穴が、今では大人一人が悠々と入れる大きさにまで成長しているのだ。洞窟の中もよく見通せるようになっていた。穴の中は隧道のように広く奥行きがあり、ところどころ蔦が垂れ下がっている。そして、二種類の石を組んだ壁だったはずの最奥部が、今は開いている。
 その奥に、黒々とした深淵が口を開けていた。
 その深淵の中はリオの目を持ってしても奥を見通すことができなかった。全てを飲み込まんとするかのごとく、ただ暗闇のみ。それ以外は一切存在しないかのようだ。
 見ているだけでも生気が吸い取られていくようだ。リオは己が冷や汗をかいていることに気づき、深淵から目を逸らす。代わりに懐から赤い守り石を取り出すと、その手前の、地面の石が丁度台のように迫り上がっている場所に、石を置いた。
 石の奥の赤色が、徐々に強まっていく。洞窟の内側に、赤い光が反射して満ちていく。
 やがて光は収束すると人の形になり、長く豊かな髪を持つ少女──もう一人のシャナ・・・・・・・・が現れた。
 その瞳は茫洋としていて、シャナの溌剌とした紅とは違い、擦り減った石のように濁って冷たい。ゆっくりとこちらを向いた顔の中に、リオはしかし、渾然としつつも意思があるのを認めた。それは夢の中で出会った狼の瞳、そのものだった。狼でもあった方のシャナもそれを分かっているのか、リオに向ける視線は言葉にせずとも穏やかな雰囲気を纏っていた。
 シャナが徐に歩み寄り、口を開きかける。それを、狼のシャナが手を上げて制止した。驚く竜のシャナの背後に、狼のシャナが視線を向ける。
 その時、不意に月が翳った。
 しかし、雲がかかったのではない。今夜は快晴だ。
 月光が弱まり、赤く染まっていく。月の表面がだんだんと、赤銅色に翳っていく。そうして赤い月食が完全に月を覆い、辺りが赤く染まり切った時。
 闇が動いた。
 もう一人のシャナは、黙って片手を上げ、奥の闇を指さした。
 遠くから、何者かが近づく音が聞こえる。
 洞窟の奥から。
 墓所の、入り口の、その中から。
「時間よ」
 狼が告げた。
 墓の主が、姿を現す。
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