Mensaje  ―伝言―

 細い月明かりに照らされて修道院を去る道中、これまでの出会いを思い返す。
 知己の手紙が届いたのも、子供たちが狼の居場所を教えてくれたのも、運が良かったと言えばそれまでだ。だが、どうしても運だけでは説明のつかない、不思議な力が働いている気がする。そもそも、当初の目的である集会で古老たちに会えていたら、この修道院に居続けることはなかっただろう。
 これまでの出会いも調査も、偶然がなければ何一つ成立しなかった。狼に導かれてここまで来たと思っていたが、それだってリオには窺い知りようもない。
 それにしても、未だ疑問は残る。
 狼の伝えたかった事がなんだったのか、結局わからずじまいだ。なぜリオに自分を見つけさせようとしたのか。見つけて欲しいだけなら、リオでなくとも、それこそ地元の慣習に詳しい町の住民でもよかったのではないか。
 それに、なぜ赤い石の慣習だけ生き残ったのだろう。理由など考えても詮無いだろうが、残ったからには何か、理由があるはずだと、リオは考えていた。忘れたくてもできない、どうしようもなく目に入ってしまうような理由が。他の全ては忘れ去られ、残っていないのに、なぜ赤い石だけが残ったのか。生き残ったものと、残らなかったものの差異は、どこにあるのか。
 ふと、昼間の子供との何気ない会話が蘇る。
 石って、石だけじゃなくて苔も産むんだ。
 はっとして、リオは懐に手をやった。
 そうだ。
 石は石を産む。
 生命力の残滓は、死のある場所にだけ宿るのではない。強烈な生命力の証拠は、生命の誕生の場にも同様に宿る。
 旧友からの手紙を見返す。期限はあと三日。鍵は最初から提示されていた。それがどこにあるか、リオは知っている。いや、最初から持っていたのだ。
 そうか。そういう意味だったのか。
 今、狼の伝えたかったことが、ようやくわかった。
「連れて行け、か」
 リオは呟いて、夜空を見上げた。満月まで――夏至祭りまで、あと三日。
 再び、彼女に会いに行く時が来たようだ。
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