Camino Secreto ―秘密の道―
「石って、石だけじゃなくて苔も産むんだね」
リオと一緒に一心に苔を検めていた巻き毛の子供が不意に、感心したように呟いた。
「石が石を産む?」
考えに沈んでいたリオは我に返った。
「父ちゃん言ってたよ、石の中から違う石が出てくることがあるんだって。石はその石を長い間大事に抱えてて、赤ちゃんを産むんだって」
「ああ」
石の中から鉱石が出てくる。宝石や、有用な鉱石は往々にして違う材質の岩の中に埋まっているものだ。そのことを言っているらしい。石が石や苔を産む、か。可愛らしい考え方だ。
少し気が軽くなり、笑って立ち上がる。と、目の前がぐらりと傾いだ。そういえばずっと空腹のままだった。昼食を取るつもりが、張子の色塗りやら石組みの模様やらですっかり忘れていた。この石像を詳しく調べる前に、腹ごしらえをしないといけない。
こめかみを抑えてそんなことを考えていると、その様子を見た子供たちは何を思いついたのかポケットをがさごそと探りだした。
「兄ちゃん腹減ってない? これ食べていいよ」
そう言うとにんじん色をしたぼさぼさ髪の子供が半切れのパンをポケットから出し、リオへと差し出した。
「あ、ありがとう」
朝から何も食べていなかったとはいえ、子供から施しを受けるとは……。もらったパンを口の中に入れながら、リオは昨日礼拝堂の扉口で見たパンを食べる竜の彫刻のことを思い出していた。竜もこんな気持ちだったのかもしれないな……。
僅かとはいえ栄養を得られたことで、多少は頭が回るようになってきた。石像のことも、あまり考えすぎてもしょうがないとだんだん思えてきている。
「この狼の像は、ずっとここにあるの?」
雑談のつもりで、リオは子供に尋ねた。
「わかんない。僕らが生まれる前の大水で、土手の土が流されてこれが出てきたんだって」
「これ、守り神様なんだよ。母ちゃんが言ってた」
巻き毛のほうの子供が、口をはさんだ。リオはパンをちぎる手を止める。
「君のお母さんが?」
夢の中で手のひらに感じた、ひんやりとした硬い感触が蘇る。巻き毛の男の子は勢いよく頷いた。
「うん。今はもうないけどね、この狼さんは本当は口に」
「……赤い石を咥えていた」
リオが呟くと、子供が大きく目を見開いた。
「兄ちゃん、やっぱすごいね! そんなことまで知ってるんだ」
リオは曖昧に微笑むしかできなかった。夢で見た通りであれば、そう だろうと思っただけだ。夢で見た狼は、リオの手に赤い石を吐き出した後、そのまま石となった。今見ている石像は、夢で見た狼とまったく同じ姿勢だった。赤い石を吐き出した姿勢、石となったそのままの姿。
先程の夢と現実が繋がったことに、何よりリオ自身が一番慄いていた。
「この狼は……どんな守り神だったんだろうね」
子供に聞いても詮無いことだとはわかっていたが、訊かずにはいられなかった。
「さあ。母ちゃんたちはお墓を守ってるんだって言ってるけど」
「赤い石食べてたなら、そうなんじゃない?」
にんじん色の髪の子供が口をはさんだ。
「どうして?」
「だって、お葬式の時は赤いパン食べるでしょ」
「そういや、表通りのじいちゃんの葬式の時、アカモモジャムのパン食ったもんな。丸くてかったいやつ。あれ焼きすぎだよ」
「婆ちゃんに聞いたけど、昔はみんなで食べるんじゃなくて、お供え物だったらしーよ。だから狼さんが食べてるんじゃない?」
「そうなの? 兄ちゃん」
リオは答えず、手に持ったパンの欠片を無言で見つめていた。それはそうだ。町の祭儀の慣習など、よそ者が知る由もない。知らなくて当然だ。
だが、この子供たちは知っていた。赤く固いパンを食べる慣習が、葬儀に伴うものだと。この町に住んでいるから、知っていたのだ。それが疑問を挟む余地のない常識だと。外から来た者であるリオは繋げられなかった。
しかし今、その二つは繋がった。そうして、その繋がりは今、新たな糸口を開こうとしている。
リオと一緒に一心に苔を検めていた巻き毛の子供が不意に、感心したように呟いた。
「石が石を産む?」
考えに沈んでいたリオは我に返った。
「父ちゃん言ってたよ、石の中から違う石が出てくることがあるんだって。石はその石を長い間大事に抱えてて、赤ちゃんを産むんだって」
「ああ」
石の中から鉱石が出てくる。宝石や、有用な鉱石は往々にして違う材質の岩の中に埋まっているものだ。そのことを言っているらしい。石が石や苔を産む、か。可愛らしい考え方だ。
少し気が軽くなり、笑って立ち上がる。と、目の前がぐらりと傾いだ。そういえばずっと空腹のままだった。昼食を取るつもりが、張子の色塗りやら石組みの模様やらですっかり忘れていた。この石像を詳しく調べる前に、腹ごしらえをしないといけない。
こめかみを抑えてそんなことを考えていると、その様子を見た子供たちは何を思いついたのかポケットをがさごそと探りだした。
「兄ちゃん腹減ってない? これ食べていいよ」
そう言うとにんじん色をしたぼさぼさ髪の子供が半切れのパンをポケットから出し、リオへと差し出した。
「あ、ありがとう」
朝から何も食べていなかったとはいえ、子供から施しを受けるとは……。もらったパンを口の中に入れながら、リオは昨日礼拝堂の扉口で見たパンを食べる竜の彫刻のことを思い出していた。竜もこんな気持ちだったのかもしれないな……。
僅かとはいえ栄養を得られたことで、多少は頭が回るようになってきた。石像のことも、あまり考えすぎてもしょうがないとだんだん思えてきている。
「この狼の像は、ずっとここにあるの?」
雑談のつもりで、リオは子供に尋ねた。
「わかんない。僕らが生まれる前の大水で、土手の土が流されてこれが出てきたんだって」
「これ、守り神様なんだよ。母ちゃんが言ってた」
巻き毛のほうの子供が、口をはさんだ。リオはパンをちぎる手を止める。
「君のお母さんが?」
夢の中で手のひらに感じた、ひんやりとした硬い感触が蘇る。巻き毛の男の子は勢いよく頷いた。
「うん。今はもうないけどね、この狼さんは本当は口に」
「……赤い石を咥えていた」
リオが呟くと、子供が大きく目を見開いた。
「兄ちゃん、やっぱすごいね! そんなことまで知ってるんだ」
リオは曖昧に微笑むしかできなかった。夢で見た通りであれば、
先程の夢と現実が繋がったことに、何よりリオ自身が一番慄いていた。
「この狼は……どんな守り神だったんだろうね」
子供に聞いても詮無いことだとはわかっていたが、訊かずにはいられなかった。
「さあ。母ちゃんたちはお墓を守ってるんだって言ってるけど」
「赤い石食べてたなら、そうなんじゃない?」
にんじん色の髪の子供が口をはさんだ。
「どうして?」
「だって、お葬式の時は赤いパン食べるでしょ」
「そういや、表通りのじいちゃんの葬式の時、アカモモジャムのパン食ったもんな。丸くてかったいやつ。あれ焼きすぎだよ」
「婆ちゃんに聞いたけど、昔はみんなで食べるんじゃなくて、お供え物だったらしーよ。だから狼さんが食べてるんじゃない?」
「そうなの? 兄ちゃん」
リオは答えず、手に持ったパンの欠片を無言で見つめていた。それはそうだ。町の祭儀の慣習など、よそ者が知る由もない。知らなくて当然だ。
だが、この子供たちは知っていた。赤く固いパンを食べる慣習が、葬儀に伴うものだと。この町に住んでいるから、知っていたのだ。それが疑問を挟む余地のない常識だと。外から来た者であるリオは繋げられなかった。
しかし今、その二つは繋がった。そうして、その繋がりは今、新たな糸口を開こうとしている。
