Bosque de Maldición  ―迷いの森―

 リオは飛び起きた。全身に冷や汗をかいている。心臓のあたりが氷を差し込まれたように冷たい。手を動かそうとして、懐に入れたままの手帳と魔除け石が当たった。腕が痺れている。寝る支度もせず、寝台に乗せた腕を枕にしたまま、うつ伏せに眠り込んでしまったのだ。
 起き上がって周りを見渡してみたが、狼などどこにもいない。客が誰もおらず貸切同然になっている宿場の大部屋の、いつも通りのがらんとした暗闇が広がっているのみだ。新月が近いのか、下弦の月が頼りなげに差し込んでいる。
(夢か……。しかしやたら真に迫った夢だったな)
 狼にのしかかられた時の重量感や、目の前で唸っていた冷たい息遣いが生々しく思い出せる。そして何より、あの細く物悲しい遠吠えが、耳の中に今もまだ残っている。あの声は当分忘れないだろう。
 ひょっとしてあの狼は最初の日、森の中で出会った狼だろうか。きっとそうだという気がする。リオは確かに、あの狼に会ったことがあるという確信があった。だとしたらなぜ夢に出てきたのだろう。何かを伝えたかったのだろうか? 一体何を? なぜ今? 考えてもわからないことだらけだ。
 疲れた体を再び寝台に横たえると、程なく睡魔が襲ってきた。
 今度はあの狼が夢に出てくることはなかった。
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