Resros  ―遺物―

 一週間ほど毎日森に通い続けると、金の髪の娘はまた来たのかというように呆れた顔を見せるようになり、最初の頃のように厳しい顔はしなくなった。最初の数日はまだ気配を感じることがあった獣も、いつしかぱったり見なくなった。警戒を解いたのだろうか。
「ほんと、よく飽きないわね」
 娘は豊かな髪を背中に払うと、ため息をついた。近頃は彼女の方から近寄ってきて話し掛けることも段々と増えてきた。
「飽きるわけがないさ。普通手入れのない森は、下生えのない暗い森になってしまうものなんだ。でもこの森は色んな種類の植物がせめぎ合ってて、この場所みたいな空き地もある。トコヨリンドウやリュウセイランなんかの魔生草本も群生してる。なかなか見られない場所だよ。飽きるなんて勿体無い」
「よく言うわ。誰も近寄らない森に住んでるなんて、気味が悪いと思わないの?」
 上から降ってくる彼女の声には少し責め立てるような響きもあったが、それが呆れと諦めの言葉であることは、リオにも既にわかっていた。
「いいや。君は悪いひとじゃないからね」
 リオは顔を上げずに言った。
「どうしてわかるのよ」
「俺のことを黙って見ているだけだし、忠告もしてくれたじゃないか」
「忠告を聞かなかったのはどこの誰かしら」
「はは、それはそうだ」
 リオが申し訳なさそうに笑うと、彼女は余計に気を悪くしたようだった。
「本当に、調子のいい人。怒りもしなければ怖がりもしないで」
 彼女は顔を背けると、肩を下げて息を吐いた。
「あなたといると気が抜けちゃうわ」
「ずっと気を張っているのは体に悪い」
「黙って。あなたは世話を焼きすぎ」
 リオは思わず声を上げて笑った。言い方が故郷の弟にそっくりだったのだ。
「ごめん、弟の面倒を見る癖が出て、つい」
 苦笑して謝ったものの、一瞬、返事が返ってこなかった。しばらくして、先ほどよりやや小さな声が返ってきた。
「そう、弟がいたのね」
 意外そうな声音だった。だがより意外だったのは、それに続いた彼女の言葉だった。それは水面に落ちた木の葉のように微かで、だが確かに震えていた。
「わたしにも昔、大好きだった家族がいたわ」
 娘はぽつりと呟いた。髪の毛が木漏れ日を反射して地面に金の影を落としている。
 静かな午後だった。初夏の日差しが森の中で分散して、そよ風が心地いい。
 リオは手を止め、彼女の横顔を見つめた。
「でも、みんな死んじゃった」
 触れたことにも気づけないひとひらの木漏れ日のように、小さな声だった。
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