Piedra y Pan  ―石とパン―

 この小さな町にも小さいながら自警団があり、城門の近くには警備隊の詰め所がある。リオに形式上ながらも黄金森への通行許可をくれたのは町の警備隊長で、彼に麦酒を飲ませて聞き出したところでは、昔話について知りたいなら修道院へ行くのが早いという話だった。
「この町のしきたりやら何やら、知ってるのは年寄り連なんでね、やっぱりね。頭はちょっくらお堅てえが。街で共同管理んなってるもんは大体、お祭りの道具なんかもあそこで保管してますよ。ちょうどいい、来週の夏至祭りの準備もあそこの庭でやってるんで、良ければ見に行ってくだせえや」
「お忙しいでしょうに、ありがとうございます。具体的には、どんな催しを?」
 警備隊長はうーむとあごひげをしごいて麦酒のジョッキを掴んだ。
「行事の目玉はやっぱり、悪い竜と戦ってお姫さんを救い出す英雄の劇ですかいね。ほら、獣の腹から食われた娘を助け出して、代わりに石を詰めちまう類いの昔話なんかがあるでしょう、あれの竜版ってとこでさね。花火をどーんと散らしてど派手にやるもんで……。まあこういったことも修道院で聞いてみるのが早えでしょうな」
 話しながら、警備隊長は横を通って畑仕事に出ていく住民たち一人一人に挨拶を返していく。話の合間に野暮用で彼と話し込んでいく者も少なくなかった。この小腹の突き出た小男は、見た目によらず住民たちに広く顔が売れているらしかった。
 リオは、森での出来事や金髪の娘の存在には触れず、彼に頼みたいことだけをかいつまんで説明した。果たして話が信用されたかは分からないが、隊長は、兄さんも豪気だなぁと笑いながら快諾してくれた。彼の人気の秘訣はここにあるのだろう。
 彼はこの町に住んで長いが、生まれはここではないそうで、余所者のリオにも何かと親身になって話を聞いてくれた。最も、この町の住民の多くは、余所者に対して概ね好意的なのだが。
「兄さんもつまらん年寄りの話聞くのに飽きたら、またここへ来て旅の話を聞かせてくだせえや。麦酒と祭りくらいしか娯楽のねえこの町じゃ、よその風物詩はまたと拝めん話の種ですからね」
「まさか。俺の話なんかなくたって、この街の人たちは日々を楽しむことにかけては俺が今まで見てきた中でも飛び抜けてますよ」
「なぁに、ほんの紹介状の発行手数料でさ」
「それを言われたら断れないなあ」
 警備隊長はがははっと大きく笑った。
「ところで兄さん、あんたなんだってそんなこたぁ調べてるんですかい? 金の森ボスケデオロへ行きたいって言ってきた時も、随分と熱心そうだったが……」
「ふふ、実はね……ちょっと竜退治に行こうかと思っていまして」
 リオがちょっと冗談めいて片目を瞑ってみせると、警備隊長は「そりゃあいいや」と豪快に笑い、リオの背中を叩いて噎せ返らせた。酒を飲んで快活になるのはこの町の人の気質なのだった。
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