Bosque de Oro ―黄金森―
町の傍、人々が『黄金森 』と呼ぶ小さな森。町の住民で近寄る者はいないが、知らぬ者もまたいない。
何人かの町民に話を聞いて回ったが、黄金森に住む金髪の娘のことを知る人は誰もいなかった。それどころか街の人たちは口を揃えて、あそこに人が住んでいるはずがないと言うのだった。
森の中は手入れも入らず鬱蒼とはしていたが、適度に低木の茂みや陽射しの差し込む空き地の点在する、明るい森だった。こういう場所は好ましい。生えている草木の種類が豊富で、生態系も複雑ないい森だ。リオはつい嬉しくなって、獣道をかき分けて奥へ奥へと進んだ。道に迷う危険があると聞いていたので、定期的に木の棒で地面に線を引き、曲がり角では枝に端切れの紐を結びつけた。
あの後、リオは森への通行を許可してもらおうと宿屋や自警団などに話を聞いた。わかったことといえば、そもそも許可も何もないのだった。所有主もいなければ管理人もいない。頼みの役場は畑の刈り入れ作業で閉じていた。そんなわけで、許可証と書かれた形式ばかりの薄紙一枚だけを携えて、その日の午後には町はずれの森へと足を踏み入れていたのだった。
陽だまりの差す獣道が分かれ道を過ぎてしばらく経った頃、道の角に立っている太い木の根本に何かを見つけた。獣の引っ掻き傷のようだ。縄張を示すマーキングだろうか。
確かめようとリオがしゃがみ込んだ時、下生えの奥に何かの視線を感じた。何らかの獣であることは明白だった。
(しまった)
後悔すれども遅く。その気配は茂みの奥からじっと、こちらの動静を窺っているのが気配でわかった。幸いすぐに襲ってくる様子ではないらしい。最初から攻撃する気なら、既にリオの命はなかっただろう。だが、どうにもその視線が野生動物らしくない。意思、あるいは知性があると言うべきか。音を立てないよう気をつけて立ち上がる。
リオはそのままゆっくりと後ずさり、相手が追いかけてこないことがわかるまで距離を空けると、そっと分かれ道まで戻り、反対の道へと入った。安全なところまで来ると、リオは一人胸を撫で下ろした。
(危ないところだった。迂闊だったな、こんなに広い獣道があるというのに)
胸元がひんやりと刺すように冷たい。町の人々が陽気だから、森に危険な生物はいないものと勝手に思い込んでいた。
木に残っていた傷痕は、狼の爪痕にそっくりだった。
何人かの町民に話を聞いて回ったが、黄金森に住む金髪の娘のことを知る人は誰もいなかった。それどころか街の人たちは口を揃えて、あそこに人が住んでいるはずがないと言うのだった。
森の中は手入れも入らず鬱蒼とはしていたが、適度に低木の茂みや陽射しの差し込む空き地の点在する、明るい森だった。こういう場所は好ましい。生えている草木の種類が豊富で、生態系も複雑ないい森だ。リオはつい嬉しくなって、獣道をかき分けて奥へ奥へと進んだ。道に迷う危険があると聞いていたので、定期的に木の棒で地面に線を引き、曲がり角では枝に端切れの紐を結びつけた。
あの後、リオは森への通行を許可してもらおうと宿屋や自警団などに話を聞いた。わかったことといえば、そもそも許可も何もないのだった。所有主もいなければ管理人もいない。頼みの役場は畑の刈り入れ作業で閉じていた。そんなわけで、許可証と書かれた形式ばかりの薄紙一枚だけを携えて、その日の午後には町はずれの森へと足を踏み入れていたのだった。
陽だまりの差す獣道が分かれ道を過ぎてしばらく経った頃、道の角に立っている太い木の根本に何かを見つけた。獣の引っ掻き傷のようだ。縄張を示すマーキングだろうか。
確かめようとリオがしゃがみ込んだ時、下生えの奥に何かの視線を感じた。何らかの獣であることは明白だった。
(しまった)
後悔すれども遅く。その気配は茂みの奥からじっと、こちらの動静を窺っているのが気配でわかった。幸いすぐに襲ってくる様子ではないらしい。最初から攻撃する気なら、既にリオの命はなかっただろう。だが、どうにもその視線が野生動物らしくない。意思、あるいは知性があると言うべきか。音を立てないよう気をつけて立ち上がる。
リオはそのままゆっくりと後ずさり、相手が追いかけてこないことがわかるまで距離を空けると、そっと分かれ道まで戻り、反対の道へと入った。安全なところまで来ると、リオは一人胸を撫で下ろした。
(危ないところだった。迂闊だったな、こんなに広い獣道があるというのに)
胸元がひんやりと刺すように冷たい。町の人々が陽気だから、森に危険な生物はいないものと勝手に思い込んでいた。
木に残っていた傷痕は、狼の爪痕にそっくりだった。
