Cerveza  ―麦酒―

黄金森ボスケデオロに行きたいって? 兄ちゃん、あんた面白いこと言うな」
 酒場で出会った赤毛の男は不思議そうな顔で麦酒のジョッキをあおった。
「商売ってほどじゃないけど、薬草集めみたいなことをしてるんだ。金測地とか、お偉いさんの私領地とかじゃなければ是非行ってみたいんだけど」
 男は一瞬渋い顔をしたが、リオの持前の人の好さゆえか、それとも酒の為せる業か、赤毛はだんだんと喋りだした。
「別に入っちゃいけない訳じゃねえがな、兄ちゃん。町のもんはたいていあそこに行きたがらねえ。あそこは聖域みてえなもんなんだ。あの丘は大昔の王様の墓だって言われててな」
「入ると迷っちまう魔性の森なんだぜ。どんなにほうろうかんかく・・・・・・・・のいいやつでも、いつの間にかどこから来たのか分からなくなっちまうってな」
 大きな音を立てて椅子を引き、隣の席にいた男が割り込んできた。だいぶ酔っているのか顔は赤く染まり、ろれつが回っていない。
「今でも、でっけえ竜がその王様の眠りを守ってて、不用意に立ち入るもんを食っちまうってんだ。その竜の鱗は硬くて、剣も貫けねえ、槍も矢も弾き返しちまう。だけどな」
 赤ら顔の男は顔を近づけ、低い声で囁いた。
「その竜の巣穴にはえらく綺麗なお姫様が囚われててな、うまくそのお姫様を助け出せりゃあ、一生かかっても使い切れねえ大金が手に入るって話だぜ。兄ちゃんもその気があるなら、いっこく・・・・千金を狙って森に行くのもいいかもなあ」
「おい、変な噂吹き込むな、酔っ払い。竜の巣穴なんてなかっただろ」
 赤毛が赤ら顔の肩を掴んで引き離した。反り返った拍子に、赤ら顔の頭から帽子がずり落ちた。
「行ったことがあるんですか?」
 リオが尋ねると、赤毛の男は溜息をついた。
「大昔な。まだ俺とこいつがガキだった頃だ。面白半分にあの森を探検してみたが、木やら下草やらが茂りすぎてて道もねえし、道しるべをつけようにも木を傷つけたら大人たちに怒られるしでな。迷うばっかりだったよ。一度だけ丘のふもとの泉まで辿り着いたが、ごつごつした岩があるだけだった。たぶん、あの岩かなんかを竜と勘違いした奴がいたんじゃないか」
 赤毛はそう言いながらリオのジョッキにビールを注いだ。
「ま、そんな迷信じみた話は忘れてくれ。せっかくこのオロの町に来てもらったんだ、酒の味だけは保証するぜ。たんと飲んでくれや」
「その点についちゃ大賛成だ。なんせとれらて・・・・だからな」
 赤ら顔も回らない舌で大きく笑った。夜が更け酒が回るうちに、いつしかリオも森のことなど忘れていた。
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