Camino Secreto  ―秘密の道―

 集団を抜け出して二人の子供の後について行くと、そこは墓地の片隅だった。先ほどまでリオがいた小屋のちょうど真後ろの位置にあたる。
「兄ちゃん、こっちこっち。こっそりな」
 男の子が手招きしたところの地面は敷地の端に向かってやや傾斜しており、道のようになっている。その道は土手下へと続いていて、地面の露出した部分から石組みが覗いている。上に建っている小屋の基礎というにはやや広すぎる。どちらかといえば道の石垣か。場所によっては子供の背丈ほどもあり、土に埋もれている部分も少なくない。大人が通るにはやや手狭な抜け道を、腰をかがめながらついて行く。
 石組みには、サンゲソウがびっしりと張り付いていた。なるほど確かに、先程リオが描いていた模様にそっくりだ。つまり、金の森の洞窟――いや、墳墓とまったく同じ苔の張り付き方をしているということだ。そんなことがあり得るだろうか。しかし子供たちはそこでは立ち止まらず、もっと奥へと進んでいく。
「ほら、ここだよここ。この石んとこ、そっくりでしょ?」
 にんじん色の髪をした男の子が、石垣の一画を指す。
 土手のやや窪んだ箇所に、半分土に埋もれた石像があった。
 耳と前脚が欠け、何の動物かも判然としなかったが、リオはそれが何であるかがはっきりと分かった。リオは実際にその目で見、触れさえしたのだから。
 石像は、先程リオが夢で見た狼と、夢の中でそれが石と化した姿と全く同じだった。
 リオは手が震えそうになるのを抑え、そっと石に触った。石組みとそこに生えたサンゲソウに埋もれた石像の姿は、緑色と灰色の模様の毛布をかけられて眠っているようだった。これは確かに、石組みの模様も印象に残ることだろう。
「その苔さー、剥がしても剥がしてもおんなじ模様に生えてくんの。面白いよね」
 もう一人の、巻き毛の男の子が声を弾ませた。どうやら子供達にとっては遊びの対象らしい。
「お前それお墓に住んでる悪霊の呪いじゃね?」
「うわっやめろよお前、違うって」
 緊張が薄れ、自然と笑みが溢れる。子供たちの言い合う声を背中に聞きながら、リオは石像と石組みに生えた苔に向き合った。
 石像とその周りの石組みをいくつか触った後、試みに苔を剥がしてみる。剥がしたサンゲソウに特に変わったところはなかった。そもそも、古代生命の残滓の指標として扱われる植物が広くこの名で呼ばれるというだけで、苔だけでなく草本類や果ては蔦や木までもがサンゲソウの範囲に含まれており、植物自体に特別な力や効能はない。それは石も同じことだ。石像を見ただけで何かが分かるほど、リオは像の様式などに詳しいわけではない。
 しかし、苔を剥がした後の岩を触ってみた時、ふと違和感を覚えた。いや、違和感というのは正確ではない。懐かしさというべきだ。もう一度、苔の生えていない方の石を触ってみる。手触りが違う。
 苔をいくつか触ったりひっくり返してみて、腑に落ちた。
 なるほど、苔の模様の謎はそういうわけか。
 サンゲソウの生えている石と生えていない石は、材質が明確に違うのだ。生育環境が特殊なサンゲソウには、育成に適した材質とそうでない材質が明瞭に分かれているのだろう。
 森の墳墓と町の垣根、両者に共通しているのは苔そのものではなく、石の組み合わせ方。どちらも二種類の石を組み合わせて作られており、組み合わせ方の様式が共通しているということだ。つまり、金の森の墳墓と、この墓地の門を作った者は、同じだということになる。
 そこまで意外な気はしなかった。竜の棲家だった場所と、祭祀を行う場所の建築様式が同じというのは、理解しやすい。しかし、まだ腑に落ちないことがある。
 狼の像はなぜここにあるのだろう? 彼は一体何者なんだ?
 この町に来てからというもの、この狼はずっと謎を増幅させる存在だった。しかしわからないことが増えていけばいくほど、この狼に導かれている気がしてならない。渦巻く水底の魚をなんとか覗こうとしている気分だ。
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