Trigal  ―麦畑―

 幾つかの丘陵を越え、油断すれば足を取られそうな森を抜けて、気づけば周り一面の麦畑だった。旅人は目をしばたたき、それから細めて収穫の近い麦穂の海を眺めた。
 背後に青く遠い山から吹きつける風が一面の黄金に、波打つ模様を描いていく。波はどこまでも金色に連なり、地の涯てで空とつながっているのだろうと思われた。そうしてまた風は空へと還って行くのだ。もしも旅の終着点を自分で決めるとしたら、きっとそんな場所だ。
 そんなとりとめもないことを考えながら、麦畑の風紋を見るともなく眺めている。旅人の名前はリオと言った。彼の故郷にも畑はあったが、山あいで狭く、土地は貧しかった。
 不意に強い突風がリオの髪と服を巻き上げた。麦穂たちが一斉にざあざあと騒ぎ出す。それはまるで、リオを誘っているかのようだった。
「連れて行ってくれるのか?」
 誰にともなく呟くと、風はそれに答えるようにひときわ強く吹いてから、来た時と同じようにまたどこへともなく去っていった。リオは一人笑って、また黄金の海の中を渡り始めた。
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