このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

宵々町奇譚



 いきなり怒鳴りつけられて僕は慌てて窓から身を離して、持っていたカメラを背中に隠した。
 怖いオジサンが出てきて、モミジ先輩も加枝留くんも吃驚びっくりして身を固くしている。
「あ、あの、中の様子が気になって、ちょっと覗いてみただけですっ」
 火に油っぽいから、写真撮ったことは黙っとこ。
「不法侵入だぞ!」
 どうやらこのアパートの持ち主らしい。
「ちょっと何でそんな怒ってるのっ?」
 モミジ先輩は青ざめたまま僕に耳打ちをした。
「知りませんよっ、とにかく謝りましょう!」
 僕も小声でモミジ先輩にそう告げるとオジサンに謝ろうと頭を下げようとした。
 すると、僕らの周囲がパッと黄色い明かりで照らされた。
「何やってんだ?」
 聞きなれた声がして僕らはひかりす方を見た。
 明かりの正体は自転車のフロントライトで、丁度、夜のパトロール中のマモル先輩だった。
「犬飼先輩っ!」
 救世主きゅうせいしゅのような登場に、モミジ先輩がいつも以上の黄色い声を上げた。
 警察官の登場とあって、オジサンはちっと舌打したうちをしていた。
「無人のアパートが気になって中の様子をちょっと見ていたら大家おおやさんが来て……」
 第三者の、しかも警察官の先輩が現れたことで僕はホッとしながら事情を説明した。
「そりゃお前たちが悪いぞ。だから寄り道せずに早く帰れって言ったろ」
「う……」
 モミジ先輩は悔しそうだったが反論できず、言葉に詰まっていた。
「すみませんでした」
 僕らはマモル先輩にうながされて、オジサンにアパートで悪さをしたりするつもりはなかったことを伝えて謝った。
 警察官を前に、オジサンもそれ以上は僕らを責められず、渋々しぶしぶ許してくれた。
 
 そして僕らは、そのままマモル先輩にみちびかれるようにその場を後にした。
 内心ないしん、僕はオジサンにカメラの存在を気付かれなかったことに安堵あんどしていた。
 取り上げられたら怪奇新聞の記事が書けなくなっちゃうとこだった。
「しっかし、お前ら一体、あんなところで何やってたんだ?」
 自転車を押しながら僕らに合わせて歩くマモル先輩は、あき れたような口調でたずねてきた。
「無人アパートで心霊写真を撮ろうと思ったんです」
「心霊写真?」
「僕らオカルト同好会ってのに入ってるんです。それで新聞を書いてて……」
「まったく……たまたま俺があそこに居合いあわせたから良かったものの……もう馬鹿な真似まねはやめろよ?」
 マモル先輩は見送りは十分じゅうぶんと判断出来る区域くいきまで僕らを送り届けると、そう言い残して颯爽さっそうと自転車をいで去っていった。
「フン! 何よ! 子供あつかいしちゃって!」
 モミジ先輩はマモル先輩の背中に向かってあっかんべーをしていた。
「それより、ごめんね? 加枝留くん。折角せっかくの入部初日しょにちでこんな目にわせちゃって……」
 何だか申し訳なく感じて、僕は新入部員の加枝留くんに謝った。
「別にいいですよ。スリルがあって面白かったですし」
 加枝留くんは相変わらず眠たそうな眼をしているが、口元はうっすらと笑んでいるように見えて穏やかな表情だった。
「す、スリル……?」
 確かに、白鳥拓海を目撃して立ち入り禁止エリアに入ってみたり、無人アパートの管理者のオジサンに怒られたりと、割と濃い時間を過ごしたような気がするけど……。
「青ガエル、アンタ結構いい度胸どきょうしてるじゃない。合格よ!」
 モミジ先輩は偉そうに腕組みして言った。
一体、何の合格ですか……入部試験なんてもうけてませんが。
「じゃ、明日早速さっそく朝一あさいちに写真部に顔を出して今日の写真の現像をお願いして、午後の休憩時間と放課後の時間を使って新聞作成の打ち合わせをしましょう!」
 僕は部長らしく、明日の計画を部員の二人に話して解散を宣言した。
「分かりました。では猫宮くん、鹿島先輩、また明日、よろしくお願いします」
「ふふん! 打倒だとう、ミス研よ!」
 加枝留くんとモミジ先輩はそう言ってそれぞれの帰路きろへと解散した。


9/21ページ
スキ