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宵々町奇譚



 マモル先輩とも別れてしばらく歩くと、僕らは最近建ったばかりの巨大ショッピングモール、『イコンモール』に到着した。
 商店街が並ぶ小さな田舎町の宵々町に、こんな巨大なショッピングモールが建つなんて最初は驚いたものだ。
 でも、お陰で宵々町の商店街は大打撃を受け、以前より少し活気かっきがなくなったように感じて、商店街の賑やかな雰囲気が大好きだった僕は何だか寂しくて複雑な気持ちだ。
 とはいえ、今は新入部員の加枝留くんの歓迎パーティーを楽しもう!

「では、我らオカルト同好会の新たな仲間、雨森加枝留くんを歓迎して、カンパーイ!」
 僕ら三人はフードコートでジュースとポテト、タコ焼きに唐揚、スイーツをテーブルに並べて乾杯をした。
「ありがとうございます。なんか今日入ったばっかりなのにこんな歓迎してもらって……」
「いいのいいの、心霊写真撮る前の時間潰しも兼ねてるし」
 モミジ先輩はポテトを摘みながら言った。
「え、この後、心霊写真撮るんですか?」
「そうだよ。次の怪奇新聞は無人アパートの心霊写真なんだ。だから暗くなるまでちょっと時間があるんだ」
「へー。面白そうですね」
 加枝留くんは相変わらず眠たそうな無表情だけど、わず かに口元が笑んでいるように見えた。
 一見無表情に見える加枝留くんだけど、案外単純に感情が読み取れるような気がする。
 基本、純粋で良い子なんだと思う。
「そうだ、自己紹介がまだだったね。僕がオカルト同好会の部長の猫宮小判で、こちらが僕らの一つ上の先輩で……」
「宵々町一の美少女、鹿島椛よ! よろしく! えっと、青ガエルくん!」
 モミジ先輩……早速あだ名を付けた。
 でも雨森加枝留くんに青の文字は一つもないんですけど……?
「猫宮くんに鹿島先輩ですね。てっきり鹿島先輩が部長だと思ってました」
 うん、そう言うと思った……。

 それから暫く、三人で美味しいものをつまんでいると、ふいにモミジ先輩が何かを見付け、指差した。
「ねえ、やだっ、ちょっと、アレ。見てよ」
「はい?」
 いきなり何なんだろう?
 僕と加枝留くんは取りあえずモミジ先輩の指さす方へと振り向いた。
「人気俳優の白鳥拓海しらとりたくみじゃない?」
「えっ? まっさかー。」
 背の高い男がサングラスと共に、深々と帽子を被り、数人の男を引き連れて、スーツ姿の中年男性に何処かへ案内されているのが見えた。
 サングラスして帽子で顔を隠しているようだけど、鼻筋や口元、輪郭から、端正な顔立ちなのが容易に想像できる。
 背も高くてスタイルも抜群。
 間違いなく、人気絶頂のイケメン俳優・白鳥拓海っぽい。
 白鳥拓海……略してシラタクとも呼ばれてる国民的映画スターだ。
 もう全然スターのオーラが隠しきれてないっ!
 でも何でそんな大スターが、宵々町のショッピングモールなんかに?
「キャー! やっぱりそうよ! シラタクに間違いないわ! アタシ大ファンなの! 握手して貰わなくっちゃ!」
 モミジ先輩は興奮のあまり立ち上がって白鳥拓海の向かった方へと後をつけていく。
「ちょっと先輩! マズイですよ! 芸能人のプライベートに踏み込むのはっ」
 僕は止めに入るべく慌ててモミジ先輩を追った。
 加枝留くんも勿論、僕の後に付いてきた。

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