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宵々町奇譚



 この日、昼休憩の食堂で僕らオカルト同好会は昼食を共にしていた。

「さあ、今日は宵々町七不思議の一つ、自縛霊の声が聞こえるという『呪いのトンネル』の調査に行くわよっ!」

 あのイコンモールの事件を詳細に書いた前回の怪奇新聞は大反響で、僕らはミステリー研究会に一泡吹かせることに成功した。
 味をしめたモミジ先輩は更に凄い記事を書こうと日々躍起になっている。

 因みに窮地でマモル先輩に告白をしたモミジ先輩だったけど、警察に保護された時には既にケロッとしてて無かったことになっている。
 というより、あの時の自分の言動は覚えてないらしい。
 まあそれだけパニックだったってことかな。
 当のマモル先輩はしっかり覚えてるらしく、幻の告白に若干の寂しさを感じているとか、いないとか……。

 まあ、いつかあの二人、進展するんじゃないかなーとは思うけど。


 加枝留くんは僕のめいでオカルト同好会の優秀な副部長になった。
 肩書きだけの僕なんかより、よっぽどしっかりしているニャ。

「怪奇新聞を掲示した場所に小さなポストを設置して匿名で感想やお便り、怖い話や調査してほしい奇妙な噂話などを募るのはどうでしょう? 間接的な読者参加型にすることで、より興味や注目を集めることが出来ると思うんです」
「な、なるほどニャ~」
「いいじゃない、ソレ!」
「ええ。記事も分割にして、一つは最後の隅にさっき言った読者のお便りや感想、怪奇話の噂の情報を載せるコーナーにするんです。そしてあとの三つは僕らがそれぞれ名前付きで担当の記事を書くんです。そうして僕らが一人一人個性を出すことで親しみを持ってもらえれば、部にも気軽に入りやすくなるんじゃないかと思うんです」
「な、なるほどニャ~」
「ナイスアイデアだわ、青ガエル!」
 今まで何で思いつかなかったんだろうってくらい加枝留くんはポンポンと素晴らしいアイデアを出していく。
「まずは部への承認が目標ですからね。念の為、稲荷くんにもオカルト同好会への勧誘をしたのですが……見事に断られました」
「ハン、でしょうね。アイツが真面目に部活動なんてする訳ないわよ。アイツは金でしか動かない銭ゲバよ、銭ゲバ」
 モミジ先輩は皮肉を込めてフンと鼻で笑った。
 うーん……僕としても残念だ。
 そう言えば、桔音くん、この前の戦いで自分をデーモンそのものだと言ってたけど、アレどういう意味なのかな?
 何にせよ、謎が多い人だなぁ……。


 すると噂の桔音くんが食堂へやって来た。
「おい、糞オカマ野郎。とっととしろ」
 桔音くんはからのお皿が乗ったトレイを持ちながら高慢な態度で食堂のオバちゃんに食事を皿に注ぐよう命令している。
 ていうか、あのオバちゃん、やっぱりオカマなんだ。
 筋肉質なガッチリ体型、肩まで伸ばした不自然なウィッグ、そしてプツプツのお髭が生えてるし……うん、間違いなくあっち系の人ニャ。
「きーーーっ! 糞って何よ、糞って! 嫌な子ねっ! アタシの名前は工藤ア・ン・ジェ・リ・カ・よっ! 『クドゥー』って呼んで頂戴っ!」
 すると桔音くんは突然いつもの笑みを消し、じっと鋭い目でアンジェリカさんを見た。
「……お前、『此処』の人間じゃないな?」
 桔音くんの言葉と鋭い眼光に射抜かれたようにアンジェリカさんは一瞬止まったように見えた。
 でも僕らが声を掛けるとスグにいつもの陽気なアンジェリカさんに戻っていた。
「あらやっだ、小判きゅんに加枝留きゅん、貴方達、小動物のようにキュートだからオマケしちゃう!」
 アンジェリカさんはトレイを返しに来た僕と加枝留くんにデザートのプリンをオマケしてくれた。
 ふと見ると、もう桔音くんの姿はそこにはなく、窓際で一人優雅に食事をしていた。


 さて、腹も満たされたことだし、残りの休憩時間で写真部の日暮先輩に会いに行って、昨日撮った旧校舎のトイレの心霊写真が撮れてるか確認に行こーっと!

 僕らが食堂を後にしようとした、その時だった。

「あのー……オカルト同好会に入部したいんですけどぉー……」
 背後からおっとりとした女子生徒の声がして、僕らは振り返った。
「にゅ、入部希望っ?」
 僕らは喜びに沸いた目で、そこにいた長い黒髪のうつむいた女子生徒を見た。
「て、うかぁー……」
 そう言って少女は口元に笑みを浮かべながらゆっくりと顔を上げた。
「私の名前……まだそこに在籍してる?」
 そこに立っていたのは黒髪の美少女、卯月美魅さんだった。
「卯月さん! 戻って来たんだ!」
 あの事件以来、卯月さんとは会えずじまいだったんだよね……。
 事情聴取やらドタバタしてて連絡先交換するの忘れてたし、すごく気になってたんだ。
 また会えてよかった!
「ええ、もう逃げる必要もなくなったし……この宵々町が大好きなの……」
「良かった……勿論、卯月さんの入部は大歓迎だよ! ねっ、加枝留くんっ!」
 僕はそう言って加枝留くんを見た。
 すると、どういう訳か。
加枝留くんは卯月さんを見て頬を赤らめていた。
「は、はい。僕、副部長の雨森加枝留です、どうぞよろしくお願いします……」
 あれ? もしかして加枝留くん、卯月さんに一目惚れ……?
うーん、複雑……。 だって僕だって卯月さんのこと……いやいや、そうじゃない。
 『部活内恋愛禁止』! うん、そうだ、そうしよう。これは部長命令なのだっ!

「よっしゃーっ! 早くも新入部員ゲットよ! これで部員の数ではミス研にリードしたわね! 打倒・ミステリー研究会よ!」
 勝ち誇ったように、モミジ先輩は拳と右後ろ足を上げたポーズで活気付いた。


 ますますパワーアップしたオカルト同好会……これからまた楽しくなりそうだニャ。
                                 



【宵々町奇譚—オカルト同好会編― 黒魔術と新興宗教・終】
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