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宵々町奇譚



 学校に到着すると、早速、下駄箱付近の一階の廊下でいつもの聞きなれた女性の声が響いてきた。
「ふん! 何よ! この宵々町一の美少女を差し置いて! ヘ―ンだ! 今に見てらっしゃい!」
 まるで小学生の言い合いのようだけど、ここは確かに高校の中です。
 この声の主は僕の一個上の先輩で幼馴染みでもある鹿島かしまもみじ先輩です。
 耳より少し長い明るい茶色のオカッパ頭……あれ何て言ってたかな?
 ミディアムボブ? だったかな?
 そんな髪型で、制服のスカートはパンツが見えない程度の短さだ。
 そんな短いスカート穿いてるにも関わらず、喧嘩相手の男子生徒三人組と別れて怒りのままにズカズカと大股おおまたで歩いてくる先輩は、女子力がちょっと低い気がする。


「どうしたんですか? モミジ先輩……」
 いつものことだと分かっているけど、一応、声を掛ける。
「どうしたもこうしたもないわよコバン!」
 人の怒りの形相を見るのは、本日で二度目だ。
 最近の人はちょっとキレやすいのかなぁ……もう少し心にゆとりを持とうよ、なんて。
「あのミスけんのヤツら、超ムカつくわ!」
 ミス研というのは、ミステリー研究会のことで、僕らのライバルに当たるクラブなのだ。
 そして、言い忘れてたけど、僕らは『オカルト同好会』というクラブで活動しています。
 部長は一応、僕で、部員はモミジ先輩の二人だけ。
 何故、僕が部長なのかというと、少し話が長くなりますが、聞いてください。


 以前、僕のクラスに卯月うづき美魅みみさんというおっとりとした長い黒髪の女子生徒がいた。
 その人は霊感が強いらしく、所謂いわゆるそっち系の世界の人で、彼女は一人でオカルト同好会を立ち上げた。
 そして何故か、自分で言うのもなんだけど、人の良さそうな僕に白羽しらはの矢を立てたらしく、勧誘かんゆうしに来たのである。
 因みに、それまで僕はクラスメートでありながら、彼女と会話すらしたことが無かった。
「猫宮くん……お願いがあるの。オカルト同好会に入ってくれない?」
「はい?」
 いきなり僕の席の前で女神さまのように指組みのポーズでたたずむ卯月さん。
「勇気を出してクラブを立ち上げてみたのは良いけれど、まだ私しかいなくて……」
「え、でも僕、オカルトとか全然うといんですけど……」
「いいの……部員が集まる間だけでもいいから……人助けだと思って……お願い……ね?」
 キラキラとした可憐な瞳で懇願こんがんされたら大抵の男はちるだろう。
「はあ……」
 僕は卯月さんの頼みを断れず、つい返事をしてしまった。
 すると卯月さんは感極かんきわまったように、普段からおっとりとした目を一段と輝かせ、僕の両手を取って包み込んだ。
「ありがとう、猫宮くん……これから一緒に頑張りましょうね」


 しかし、その三日後、彼女は何も告げず、夜逃げで姿をくらました。


 いやいやいや……事情はね、あると思うんですよ、色々。
 別に、彼女のこと、恨んでたりするわけじゃないんです。
 でも、まあ、所謂、アレです、言いだしっぺが真っ先に逃げるっていう、そんなよくある話で。
 結局、卯月さんが立ち上げたクラブを、残された僕が引き受ける羽目になった。

 それから数日後、僕の幼馴染であるモミジ先輩が、僕の様子を見に来て、『面白そう』という理由だけで同好会に入った。
 本来なら先輩の方が部長になるべきだと思うんだけど、生憎あいにくモミジ先輩はそういう面倒なことはしたがらない性格で、結局、僕が部長を引き受けることになったのだ。

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