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宵々町奇譚



「お前達! こんなことして許されると思うなよっ? 俺は警察だぞ! お前達の悪行をこの目で見たからなっ!」
 礼拝堂に辿り着くとマモル先輩の声が聞こえてきた。
 僕は来た時と同様、木箱の裏に身を潜めて様子を窺った。
 先輩達は中央で槍をもった数人の信徒達に囲まれて絶体絶命のピンチを迎えているところだった。
 マモル先輩はモミジ先輩を守りながら、警棒一本を構えてる。
 拳銃は最初に捕らえられた時に既に奪われてるみたい。
「フッ……無駄な足掻あがきを。警察だろうと関係ないさ。見た者は口封じに消すだけだ。会長への生贄として捧げるがな」
 そう言ったのは白鳥拓海。
「うぅう……シラタク……大ファンだったのにぃ~っ! ポスターも写真集もDVDも持ってたのにぃ~っ! ひどいじゃなーーーいっ あんまりだわーーーっ! わ~~んっ!」
 モミジ先輩は半泣き状態だが、割といつも通りというか、元気そうで僕は思わずホッとしてしまった。
 いやいや、そうじゃなくて、早く助けなきゃ!
 ……でも、どうやって?
 桔音くんのような不思議な力は持ち合わせていないし、そんな一般人の僕が一体どうやってあの信者達を止めれば……?
 僕が考えあぐねていると、ふいに何者かに肩を掴まれた。
「ニャッ!」
 僕は突然のことに驚き、短い悲鳴を上げてしまった。
 すると、僕の肩を掴んだ人物は、今度は僕の口を塞いだ。
「しっ! 静かに。私よ、猫宮くん……」
 僕と同様に木箱へ身を潜め小声で話すその人物は、信徒と同様に黒いローブに身を包んだ『卯月美魅さん』だった。
「う、卯月さんっ? 何でここにっ?」
 我らオカルト同好会を創った張本人でありながら、いなくなっちゃった人~っ!
 こんなところでまさかの再会ーっ!
「私の両親が燉一教の信者だったの……。最初はただの宗教だと思ってたから。でも異常な教団だってことに気付いて一度、脱退しようとして失敗したのよね……」
 卯月さんの話によると、夜逃げ覚悟で彼らから逃げようとしたけど捕まっちゃって、今は燉一教の監視下の元で生活してるんだって。
 そういう経緯があったから、だからあの時、突然、姿を消したんだね。
 言いだしっぺが逃げたとか思っててすみませんでしたっ!
「猫宮くん……私のオカルト同好会を引き継いでくれてるのね……嬉しいわ……!」
 卯月さんはあの頃と同じように僕の手を取り、うっとりとした顔で言った。
 いやいやいや、今それどころじゃないからっ!
「あ、あの、今、あそこで捕まってる人、僕の先輩達なんですっ、何とかなりませんかっ?」
 僕は内部に詳しいであろう卯月さんに助けを求めた。
「そうねぇ……私も燉一教を潰そうと色々調べて虎視眈々こしたんたんと機会を狙っていたのよね……」
 すると卯月さんは自分の着ているローブを剥いで、それを僕に着せながら言った。
「ここにいる信者達は、森会長の魔力に心酔してるの。その会長の力が失われたら、きっと目を覚ますと思うわ」
「僕の知り合いの魔術師が今、上でその会長と戦ってます」
「あと一つ、貴方に出来ることがあるわ。あの銅像をぶっ壊して火台の炎を消すのよ……!」
「えぇっ? ぶっ壊すってどうやってっ」
 僕なんかの力じゃビクともしそうにないデッカイ銅像なんですけどっ!
「猫宮くん……あなたオカルトの世界を舐めてるでしょ……? 現実的なことや物理的なことを考えないで。大事なのは『信じる心』よ!」
「信じる心……?」
 し、信じるも何も……。
 正直、僕はオカルト同好会の部長でありながら、本当はオカルトなんて全く信じていなかった……。
 でも、もうこれだけあり得ないことが起こってるんだから、もう何でも来いだ。
「分かりました。僕は何をしたらいいんですか?」
 僕は覚悟をきめて卯月さんの指示に従うことにした。
「あの俳優……白鳥なんたらとかいう男が預かってる長剣があるでしょ……?」
 白鳥なんたらって……卯月さん、シラタクに興味ないみたい。
 僕は卯月さんの言葉で白鳥拓海の手元を確認して頷いた。
 さっき女の子を生贄に殺したあの剣だ。
「それを奪ってあの火台の中に放り込むの。あの剣はデーモンと会長を繋ぐ『契約のあかし』なの。あの長剣が無くなれば、契約は破棄されたも同然。 デーモンは炎ともども去るはずだわ」
 卯月さんはそう説明した。
「分かりました。何とか隙を見てあの長剣を奪います」
 とは言ったものの上手くできるかどうか……何せ僕は文化系。
 せめて何か強力なサポートが欲しいニャ。
「……卯月さんってそう言えば霊感が強いんでしたよね? 何か霊力みたいなものは使えないんですか?」
 僕は卯月さんに『女版・桔音くん』みたいなものを期待した。
 しかし、現実はそう甘くはなかった。
「何言ってるの? 猫宮くん……。私は霊感が強いだけで、ただ『それだけ』よ……。」
 ……ですよね、失礼いたしました。
 僕は卯月さんから着せてもらったローブ姿で、誰にも気付かれないようにスッと木箱から立ち上がると、堂々と中央へと向かって歩いた。
 心臓はすごくバクバクと鳴ってる。
 フードを深々と被って顔を隠し、信徒達の中へと混じり、白鳥拓海の方へとゆっくりと近づいて行く。
 その間にも、先輩達は窮地に追い込まれていた。
 信徒の槍隊は切っ先を向けジリジリと二人との距離を縮めていく。
「くっくっく……生贄として死ねーっ!」
 白鳥拓海が槍隊に指示を出した。
いよいよ駄目かと諦めたモミジ先輩は泣き出しながらマモル先輩に突然横から抱きついた。
「わーーーん! もう駄目だわーーっ! 犬飼先輩、好きーーーーーっ!」
「お、おい、いきなり何だっ?」
 突然抱きつかれた上に告白までされたマモル先輩は動揺した。
「だってどうせ死んじゃうんだもんーーーーっ!」
 そして槍は無情にも二人の若い男女を突き刺す……ことはなかった。

 僕が白鳥拓海にタックルをかますことに成功したからだ。
「ぐあっ!」
 衝撃で白鳥拓海は地面に倒れこみ、カランカランと剣を落とした。
 僕も一緒になって転んじゃったけど、スグに起き上がって剣を目で追う。
 信徒は皆、突然の出来事に驚き、僕と白鳥拓海に気を取られた。
 その一瞬を付いて今度はマモル先輩の反撃が始まった。
 銃を奪った相手に飛び掛かり、銃を奪い返したのだ。
「動くな! お前ら全員逮捕する!」
 思えば失態続きだったけど、ようやく気を取り直したみたいに警察官らしく銃を構えて牽制するマモル先輩。
 逃げ惑う人々や、尚も僕らを捕まえようとする人の間を搔い潜り、僕は白鳥拓海の落とした剣を必死に拾い上げると、槍投げのように思いっきり高く投げつけ、火台の中へと放り込んだ。
 すると火台の炎はこれまでになく膨大に燃え上がったかと思うと、それから青く色を変えて徐々に消えて行った。
 そして、銅像からは黒い靄が天に向かって伸び、これも同様に消えて行った。
 まるで抜け殻になったかのように銅像から次々と、ひびが入り、ボロボロと崩れ落ちていくのを見て、僕は悪魔が去って行ったんだと思った。


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