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宵々町奇譚



 逃げた先は全ての階から見渡せる一階のショッピングモールの中央広場だった。
 僕は桔音くんにお礼を言うのも忘れてパニックになっていた。
「ど、どうしよう! 先輩達が捕まっちゃった! きっと殺されちゃう! 早く助けに行かなくちゃ!」
「それに危険なカルト教団・燉一教は潰さないといけません」
 僕と加枝留くんの言葉に桔音くんはわざとらしく眉を下げ面倒くさそうな顔をした。

 そこへ、突如、ショッピングモールの天井からよくゲームに出てくるようなフェニックスみたいな大きな火の鳥が現れ、僕らのいる一階まで勢いよく降下してきた。
「うわぁっ!」
 着地と同時にその衝撃でブワッと火の鳥自身が纏う熱の熱さが、熱風となって僕らを襲い、僕は驚きに声を上げてしまった。
 火の鳥はやがて姿を変え、その正体を現した。
「ネズミは一匹足りとも逃がさんぞ」
 そこに立っていたのはまさかのサム・スギルだった。
「あ、あ、あの人、変身も出来るのーっ?」
 しかも、ワープしてきたよねっ? 絶対!
 桔音くんに会ってから非現実的なことにも慣れてきた僕だけど、平凡だった僕の日常からかけ離れた色んな事が起きすぎて、最早ついていけなくなってきた……。
「鬱陶しい老いぼれだ」
 桔音くんは動じた様子もなくいつものサラッとした余裕の笑みで雪合戦でもするようにボンボンと両掌から大きな火の玉をサム・スギルにぶつけて行った。
 何の挨拶もなくいきなり先制攻撃する桔音くん。
 この人、本当凄いよなぁ……良くも悪くも、やることなすこと迷いがない。
 当然、サム・スギルも応戦する。
 炎と炎がぶつかり合う魔法合戦だ。
「す、凄すぎる……」
 大迫力のマジックショーを間近で見せられている感じ。
 危なくて彼らに近付けず僕と加枝留くんは後ずさりをした。
 いや、でも、ここショッピングモールの中だし、あんまり派手に戦うと……って言わんこっちゃない。
 店内の装飾も売り物も柵もソファーも壁も窓も次々ぶっ壊されていく。
 サム・スギルは時折、火の鳥になって空中を飛びまわり、桔音くんは容赦なく火の玉を連続で投げつけ、時々火吹きで長い火炎放射を繰り出して、逃げる火の鳥の動きを追って撃ち落とそうとしている。
「くっ……これほど自在に操り、強い魔力を持つ者がこんなところにいたとはな」
 サム・スギルは火炎放射をかわすと火の鳥から再び人間へと姿を変え二階の柵の手すりに着地し、桔音くんを上から見下ろした。
「だが、幾ら子供とは言え、闇の世界を知る君なら私が世界でも上位高等な魔術師として君臨していることはよく知っているだろう。更に私はデーモンとの『契約』により力を増幅させている。小童ごときが私に勝とうなどと……」
 サム・スギルの言葉を最後まで聞かず桔音くんは瞳孔ごと塗りつぶしたような赤い悪魔のような目でニタリと笑った。
「契約したから何だ? 僕は『デーモン』そのものだ」
 えっ……? 今、なんて言いました?
 突如、桔音くんの足もとから赤い魔法陣が浮かび上がり黒い炎のような靄が噴き出した。
 あわわわ……何かますます危険なことになってきた予感が……っ!
 これ以上、ここにいて巻き込まれる訳にはいかない。
 僕は今、自分達のすべきことを思い出した。
「加枝留くんは此処から逃げて警察を呼んできて! 僕はもう一度降りて先輩達を助けに行くから!」 
「は、はい! 分かりました。猫宮くん、気を付けて……」
「う、うん!」
 僕と加枝留くんは、桔音くんとサム・スギルが今なお壮絶な魔法バトルでボンボンやり合っている中を、被弾しないようにくぐりながらそれぞれの役目を果たすべく先を目指した。
 僕ごとき庶民が、桔音くんの身を心配するには及ばなそうだし……。
 加枝留くんと分かれた僕は、流れ弾ならぬ、流れ炎に当たらないように身を屈めながら、急いで止まったままのエスカレーターを駆け上がった。
そして例の秘密の扉へと向かい、もと来た場所へと戻るべく地下へのエレベーターに乗り込んだ。
 礼拝堂にはまだ信者達がいるだろうし、怖いけど……先輩達を助けなきゃ!

 エレベーターが到着すると僕は早速、信者達が待ち構えてるんじゃないかって身構えたけど意外にも誰もいなかった。
 僕らの存在に気付いたのは追いかけてきたサム・スギルだけだったってことかな?
 遠くで火の灯りと共に映る無数の人影と声……何かやってるみたい。
 僕は急いでその礼拝堂へと向かった。


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