chapter1 ヤバイシティー
次に目が覚めた時には、サミュエルは自宅のベッドの上だった。
「……気が付いた?」
穏やかな低音ボイスが聞こえサミュエルは半身を起こして部屋を見渡した。
この家はだだっ広い一部屋で、すべてのものが備わっている。
キングサイズのベッド一つと、壁に備わった大型テレビと本棚の他にダイニングキッチンとカウンターテーブル、あとはガラス張りのバスルームがあるくらいで、プライベートな空間など全くない分、何処に相手がいるのか一目で把握できる。
声の主・ライラスはこちらに背を向けてカウンターに置かれたエスプレッソマシンでコーヒーを注いでいるようだった。
「家の前で倒れていたんだよ」
そう言ってマグカップを片手にライラスはようやく振り返ってそう告げた。
横の髪だけ顎まで伸びた少し長めの黒い髪と綺麗なエメラルドグリーンの穏やかな目をした端正な顔の男だ。
ライラスの言葉にサミュエルは意識を失う前に見た先程の化け物のことを思い出し慌ててベッドから飛び起きた。
「そうだ! ライラス! 見たことも無い化け物が家の前にいたんだよ!
それがいきなり襲ってきて……っ!」
興奮して声を荒げるサミュエルを余所に、ライラスは瞳を閉じてクスリと笑うと手にしたマグカップを持ち上げて淹れたてのコーヒーを口に含んだ。
「疲れて幻覚でも見たんじゃない?」
軽く聞き流しているような態度のライラスにサミュエルは不満を零した。
「……信じないの?」
「本当に襲われたのなら、無事じゃ済まないはずだろ?
僕が外へ出た時、化け物なんて何処にもいなかったし、
君はただ歩道で眠っていただけだったよ」
ライラスにそう言われ、確かに自分の体を見下ろして何の異変も痛みもなく、無傷で済んでるのを確認するとサミュエルは先程のことが果たして〝現実〟だったのかどうか自信がなくなってきた。
黙り込んだサミュエルにライラスは言い聞かせるように声を掛けた。
「たまには休息も必要だよ。
今日は『お休み』にするかい?」
ライラスの言葉の意味を察してサミュエルは短く首を振った。
「いや、『やる』よ。付き合って」
そう言うと、サミュエルは着ている制服に手を掛け、黒いネクタイを外し、ブレザーを脱ぎ始めた。