chapter1 ヤバイシティー
「うまく行ったわねサミュエル」
帰りの夜道を二人で並んで歩きながらクロエは得意げに言った。
「本当にあれでうまく行くの? いくらエンジェル家が大富豪でも、彼女の独断で物事は決められないだろう」
「アナタ、本当にルーナのこと知らないのね?」
サミュエルの言葉にクロエは呆れたように溜息を吐きながら言った。
「もはやルーナはエンジェル家の財産を受け継いでいるのよ」
「……どういうこと?」
「彼女の両親、海外旅行中に飛行機事故で亡くなったのよ」
「えっ……?」
初めて聞かされる衝撃の事実にサミュエルは言葉を失った。
クロエは構わず話を続ける。
「だから、エンジェル家の莫大な財産は今、ルーナと彼女のお兄様の二人が握っているのよ。
まあ正確には当主であるお兄様よね」
「お兄さんがいるんだ……」
「ええ、一個上の。確か海外に留学中って聞いたわ。
近々帰ってくるんじゃないかしら。
お兄様は妹のルーナを溺愛しているから
彼女の願いは何でも叶えてくれると思うわ。
だからノープロブレムよ」
「そう……」
サミュエルは相槌を打ちながらも、内心はケミラボのことよりもルーナの家族の事情に心を痛めていた。
何故なら、自分も幼い頃に両親を失っているから……。