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chapter2 ロス製薬研究所



 ヤバイシティの街中にそびえ立つ高層ビルのような病院『ヤバイクリニック』。

 名だたる大学病院やメディカルセンターに引けを取らない医療技術を誇る大病院だが、そこに同じように隣接する白い建物のビルがある。


 その日、ブラッド・ロスは伯父が経営する『ロス製薬研究所』を訪れていた。

 保護者のサインが必要な学校の書類を提出する為だ。

 ブラッドには伯父以外の身内がいない。

 父親が誰なのかは不明だが、母は自分を産んだ直後に亡くなったのだと、物心付いた頃に伯父から聞かされていた。

 まるで腹を突き破ったエイリアンのようだと幼心に思ったものだ。

 そのせいか、ブラッドは何処か冷めたような捻くれた性格に育った。

 それは親の命を代償にして生きていることへの罪悪感や虚しさなのかと言えば、全く違う。

 唯一の身内であり親代わりとなった伯父はよく言っていた。

 お前の母はろくでもない女だった――と。

 素行が悪く、不良仲間とばかり遊んでいたという。

 父親は恐らくその中の一人なのだろう。

 お腹に子を身籠っていながら、ふしだらな生活を改めようとはしなかった。

 夜遊び中に容体が悪くなり救急車で病院に運ばれたが出産直後に亡くなった。

 ゴミ屑のような、無意味な人生だった、と。

 実の妹とは思えない言い草だが、全くもってその通りだとブラッドは思った。

 そして伯父はこう言った。

『そんな愚かな妹の人生にも唯一、〝価値ある意味〟があったとしたら……
それはブラッド、お前を産んだ事だ。お前にはまだまだ未来がある。希望がある。
私の元にいれば、きっと母親とは違うまともな人生を歩むことが出来る』

 全くもってその通りだとブラッドは思った。

 薄情かもしれないが、これが現実であり、伯父の言ってることは正しい。

 もし母親と暮らしていたら今頃どうなっていたかなど想像に容易い。

 今は伯父の元で金銭的にも何不自由ない快適な暮らしをしている。

 伯父は研究所に入り浸りでほとんど家に戻らないが、それもブラッドにとっては快適だった。



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