宵々町奇譚
それから学校を後にし、イコンモールに行く途中、僕らは巡回中のマモル先輩と出くわした。
「ん、またお前らか」
背後から声を掛けられ、僕とモミジ先輩は漫画のように肩と背中をビクッと震わせた。
「あ、あら。犬飼先輩。巡査って案外、暇なのね♡」
流石に今、会うのは嬉しくないようで、モミジ先輩は振り向き早々、満面の笑顔を引き攣らせながら軽く嫌味混じりで応対した。
「お前ら、また何か企んでるだろ?」
「べ、別に企んでなんかないわよ、失礼ね!」
モミジ先輩は腰に手を当ててプンスカ頭から湯気を噴き出している。
「それはそうとマモル先輩。あのミイラの身元、分かりましたか?」
僕は昨日の事件のことをマモル先輩に聞いてみた。
「いや、まだだ。ただ、世の中には行方不明になって捜索願を出されている人々が大勢いる」
僕はマモル先輩の言わんとすることを理解した。
そして、あの可哀相なミイラの少女が、せめて家族の元へ帰れたらいいなと思った。
「とにかく、遅くなる前に今日こそ、まっすぐ家に帰れよ?」
「分かってるわよっ! 子供扱いしないでよね! ふん!」
のっしのっし歩くモミジ先輩の後に続いて僕らは巧いことマモル先輩を撒くと、イコンモールへと急いだ。
たまたまなのか、割と年中無休を
でも、ここで引き下がるモミジ先輩じゃなかった。
「侵入するわよ!」
モミジ先輩は、いつになく目をギラギラと輝かせて白い歯を見せて笑んだ。
正直、僕はこんな
すると、背後から再び聞き覚えのある声が降ってきた。
「何処に侵入するって?」
流石に僕らは心臓が止まりそうになった。
そこには、気配を消して僕らの後を付けていたらしいマモル先輩の姿があったのだ。
「ま、マモル先輩……っ、付いて来てたんですかっ?」
「どうもお前ら、怪しいと思ってたんだよな」
「キーッ!
モミジ先輩は古いギャグ漫画のように
「巡査さん、僕ら今回のミイラ事件とこのイコンモール、何か関係があるんじゃないかと思って調べてるんです」
これ以上、
「ミイラの押し入れの壁に描かれているマークと同じものをこのショッピングモールで見掛けたんです」
「押入れの落書きなら俺も勿論見たが、そんなただの落書きのマークに大した意味はないだろう」
すると、遠目から写真が目に入ったらしい桔音くんが
「そいつは『
「ドンイツキョー?」
「新興宗教。
「カルト宗教……?」
聞いたことないけど、未だにそんな怪しいのがいるんだ。
「信者はただの一般人だろうが、教団のトップが炎の術師として頂点に
サム・スギル……、さむ・すぎる……、寒すぎる……?
その名前ダジャレなの?
「お、おい。さっきから何の話をしてるんだっ?」
「え、そんな凄いヤツなの? ちょっとキツネ野郎、こちとら
話についていけてないマモル先輩を無視して僕らは話を続ける。
「おい女、誰に向かって言っている。僕は最強の魔術師だぞ」
「その燉一教っていうカルト宗教の紋章があったってことは、ミイラの犯人もイコンモールも教団っていうことですね」
「そ、そういうことだね加枝留くん……ってことは、『シラタク』も信者なのかな?」
「やだっ! 変なこと言わないでよコバンっ! イメージ崩れちゃう!」
「お、おい! お前ら! さっきから俺を無視して話を進めるなっ!」
盛り上がってる僕らの間でさっきからマモル先輩が五月蠅いけど、とにかく今はこれ以上、人に見つからないように早いとこ中に侵入しないと……。
「桔音くん、お願い」
僕は扉を開けてもらうよう桔音くんに指示を出した。
前回のドア一枚とは違い、二重扉とシャッターが下りていたが、桔音くんは両手を前に
「お、おい、何だこれ、どうなってんだ?」
信じられないものを
鬱陶しいけどこのままこの人、外に放置したら騒ぎになりそうだから、僕はマモル先輩を無理やり中へと押し込んだ。
魔法の扉をくぐって中に入ると、その扉はスッと消えていった。
何度見ても桔音くんの魔術には見惚れてしまうニャ。
「う、嘘だろっ? 夢じゃないよなっ?」
消えた扉にマモル先輩は呆然とした。
「これで犬飼先輩も不法侵入の共犯だからねっ! 観念してアタシ達に付き合ってもらうわよっ!」
モミジ先輩はマモル先輩に向かって勝ち誇った笑みで脅しかけた。
「うぅ……ちくしょう……なんも言えねぇ~……っ」
僕らはマモル先輩を黙らせることに成功した。
ついでに中にいるであろう警備員、監視カメラ、マモル先輩の無線機など、全て桔音くんの魔力で封じ込め、僕らは順調に階を進めていった。
まるでスパイ映画みたいでワクワクするニャ~。
そして難なく、例の秘密の扉へと辿り着いた。
改めてみると、何とも頑丈そうな鉄の扉に、赤い色で例の紋様が描かれている。
「間違いない、燉一教のマークだ。強力な魔力で扉を閉めているな」
桔音くんはマニキュアで塗り潰したのか、まさかの生まれ付きなのか、真っ黒い爪を伸ばした指で、秘密の扉の紋様をなぞるとニヤリと笑って言った。
「だが、こんな子供騙しのような魔力、僕に通用するもんか。ラエスメサエカブレ!」
桔音くんは目を赤く光らせ、扉に右手を翳したまま呪文を唱えた。
すると、鉄の重い扉が強い力で吹っ飛ばされて派手な音を立てて倒れた。
僕らは思わず心臓が止まりそうになった。
今の音で誰かに気付かれてたらどうしよう……って。
でも桔音くんはそんなこと全く気にしていないようだ。
「どうしたの? 早く行こうよ」
すんごい極悪人のような顔で笑う桔音くんに僕は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。