このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

宵々町奇譚



 僕らはまるで小学生の登校班のように、はたまたロールプレイングゲームの勇者御一行様ごいっこうさまのように縦一列に、モミジ先輩、僕、加枝留くん、桔音くんの順で歩いていた。
先頭を歩くモミジ先輩は背後を歩く僕らを後目にチラリと一瞥いちべつすると、不満そうに独りブツブツと呟いていた。
「何でこうも小男こおとこばかりが集まるのよ……ははん、類は友を呼ぶのね、コバン」
 僕ら三人がほぼ同じような身長なのがモミジ先輩は気に入らないらしい。
 ……僕だって好きで小さい訳じゃない。
「オイ、オマエ。さっきから何をブツブツ言っている?」
 後方から桔音くんの高慢そうな声が聞こえる。
 当然、モミジ先輩からカッチーンという古典的な音が聞こえた。
「言っとくけどアタシは先輩なのよっ、うやまいなさいよっ、これだからキツネ目の男にろくなヤツはいないのよっ」
 先輩……それはちょっと偏見じゃ……。


 なんだかんだで僕らは例の無人アパートに到着した。
日はすっかり暮れて、丁度、闇に紛れるには十分な状態にはなった。
桔音くんの家から歩いて十五分以上掛かっちゃったな。
 急がないと。
 僕らは周囲を注意深く見渡し、あの管理者のオジサンが出てくる気配がないのを確認してからアパートに近付き、僕がカメラで撮った部屋の玄関まで辿り着いた。
「さあキツネ目、出番よ。この扉を開けて頂戴!」
 小声でモミジ先輩が桔音くんに指示を出す。
 朝飯前だと言わんばかりに溜息混じりの嘲笑で桔音くんは人差し指をちょんと鍵穴に向けながら短い呪文を唱えた。
「メサ・オーペ」
 ドアノブからカチャっと音がして扉が自動的に開いた。
 桔音くんの魔術に驚きつつも目撃されないように急いで僕らは中へと入ってドアを閉めた。
「……やったわ、侵入成功ね!」
 中は真っ暗だけど電気を付ける訳にはいかない。
 懐中電灯も勿論、アウト。
 部屋から明かりが漏れちゃうと、外にいる人に僕らが中にいるってバレちゃうからね。
 幸い、今夜は月が明るく、夜目が利く。
 僕らは恐る恐る血痕が見えた窓側の畳の部屋へと向かった。
 しかし、僕らが見たのは血痕などない綺麗な畳の部屋だった。
「あ、あれ? 染みがない……」
 単なる写真の現像ミスだったのかな?
「ま、まあこれも心霊現象の一つよね?」
 消えた染みも怪奇現象としてモミジ先輩は無理やり納得しようとしていた。
「でもこの畳、新しすぎませんか?」
 加枝留くんが畳を指でなぞりながら言った。
「無人なのに買い替える必要あります?」
「またアパート経営を始めるつもりとか?」
「古い木造ですよ。始めるなら建て替えか改装が先では? ふすまも壁も窓もボロボロなのに畳だけ変えるってのも……しかもこの部屋の畳だけ」
「確かに……」
隣の部屋に続く襖を開けると、取り外したと思われる六枚の畳が部屋の隅に重ねて積まれているのが見えた。
「あ、もしかしてこれじゃないですか? 古い畳」
「染みがあるかも! 桔音くん、これ全部この部屋に敷ける?」
 持ち上げて確認するには時間も掛かるし物音がしてはマズイし、僕は桔音くんの魔術に頼った。
 面倒くさそうに桔音くんは再び短い呪文を唱えて指をパチンと鳴らした。
 すると畳一枚一枚が宙に浮き、ゆっくりと流れるように床の上に降ろされた。
 畳の染みはまるでパズルのように元の配置の形に合わさった。
「やっぱり血痕だよね? これ……」
 まるで人を殺害したようなおびただしい量の不気味な古い染み。
「これってさ……なんか隠そうとしてるんじゃない?」
 嫌な予感がしてモミジ先輩が青ざめる。
 するとゴトっと先程の隣の部屋の押入れから物音がして僕らは一斉に振り向いた。
 押入れの中に何かがある。
「ちょ……ちょっとコバン、あ、開けてみなさいよっ」
「えぇっ、ぼ、僕ですか?」
 モミジ先輩に促され、僕は恐る恐る押入れの襖を開けた。
 そして目に飛び込んできたモノに僕らは思わず悲鳴をあげそうになった。
 そこにあったのは女の子の服であるワンピースを着たミイラだった。


13/21ページ
スキ