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宵々町奇譚



 しかし、放課後、写真を撮りに行った僕らは、写し出されたものに度肝どぎもを抜いた。
「ちょ……何よこれ!」
 そこに写っていたのは、幽霊ではなく、血痕けっこんのようなものが付着ふちゃくした畳の部屋だった。
「ちょっとコバン! 部屋にこんなものあったの?」
「い、いえ……ちょっと暗かったし、よく見えませんでしたけど……」
 フラッシュで撮ったことによって肉眼にくがんで見えなかった部屋の内部ないぶ判明はんめいしたみたい。
「これって血痕ですか?」
 加枝留くんも出来上がった写真を覗き込んで言った。
「いや……何とも……ただのみかもしれないし」
 血痕なんて怖すぎるニャ~……。
 どちらにしても心霊写真より不気味かも。
「ちょっともう一度、確認に行ってみない?」
 モミジ先輩の提案ていあん
 確かにまだは明るいし、この目でもう一度見てみたいかも。
「でもあのオジサンにまた遭遇そうぐうしたら厄介やっかいだし……」
「じゃあさ、バレないように暗くなってからやみまぎれて侵入してみない?」
 りてないのか、モミジ先輩は悪童あくどうのようなイキイキとした顔で言った。
「危ないですよ。大体どうやって侵入するんですか!」
 ピッキングのプロでもなければ、魔法使いでもない僕らが、どうやって建物に侵入しろと……?
 ん? 魔法使い?
「そう言えば……」
 僕はあることを思い出した。
「僕らの同級生で……稲荷桔音いなりきつねくんっていう、凄腕すごうで魔術師まじゅつしの少年がいるんですけど……」
「はぁ? 魔術師?」
 モミジ先輩は怪訝けげんな顔で僕を見た。
「そう言えば……僕もその噂は聞いたことあります。あくまで『噂で』ですけど」
 加枝留くんも知っているようだ。
 でも僕も面識はないし、その噂が何処まで本当か分らない。
「てか魔術師なんている訳ないでしょっ」
 モミジ先輩は疑って掛かっている。
「まあそうですけど、それに近い……手品みたいな特技を持ってる人かも知れませんし、きっと力になってくれるんじゃないでしょうか? ほら、マジシャンって何もないところから物を出したり開けたり抜け出したり色々出来るじゃないですか! きっとピッキングも、お手の物ですよ! 会ってみるだけでも価値があると思いますよ!」
 僕はモミジ先輩を説得した。
「分かったわよ! じゃあその胡散臭うさんくさい魔術師とやらに会いに行ってみましょ!」



 僕らは早速、学校を後にし、桔音くんの家へと向かった。
 放課後だし、彼はもう帰宅しているだろう。
 桔音くんはどの部活にも所属していない。
 それどころか、どのクラスにも入っていない。
 全てがシークレットで、存在自体が神輿高校七不思議ななふしぎの一つと化していた。
 生徒会や教師、校長やPTA会長よりも権力がある、なんて噂まで飛び交うほどだ。
 個室で個別授業を受けているという話はあながち嘘じゃなさそうだけど……。

「ところで桔音くんの家って何処か分かる?」
 僕、何も知らずに出てきちゃったけど。
「稲荷という名前は宵々町では一軒しかありませんから」
 加枝留くんは町内の地図帳を見ながら案内をしてくれた。

「ここですね」











【続きは既刊本『宵々町奇譚』オカルト同好会編より】
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