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宵々町奇譚



 僕の名前は猫宮小判ねこみやこばん。十五歳。宵々町よいよいちょう神輿みこし高校に通う高校一年生。
 コンプレックスの小さい背丈せたけ以外の特徴とくちょうと言えば、輪郭を覆うように丸く膨らんだボブヘアーくらいかな。
 僕は生まれた時からずっとこの宵々町で暮らしてる。
 宵々町の住人はみんなこの町が大好きで、大抵の人はこの町の学校に通い、この町で就職を目指し、この町で結婚し、生涯を終える……なんて言うと大袈裟かもしれないけど、実際そんな人が結構多かったりする。
 そして、僕もそんな人生設計を立てている一人です。


「行ってくるニャ!」
 僕は朝食をり終えると、青い学ランにそでを通し、学校に登校する為、早朝に家を出た。
 朝練あされんのある部活動がある訳でも、バス通学しないといけない距離でもない僕が、早朝に家を出るのには理由があった。
 それは自宅から歩いて五分も掛からない距離にある、宵々第二公園にある。


 公園に着くと、僕は早速、家から持ってきた猫用の煮干しが入った袋をかばんから取り出した。
 すると何処からともなく猫が数匹現われて僕を取り囲むのだ。
 さあ、いりこパーティーの始まりニャ。
「ほーら、お食べ」
 僕はハトにエサをくように、地面に煮干しを撒いた。
 すると猫達は美味しそうに食べ、なくなると更に催促さいそくするように僕の足に頭をこすりつけておねだりをしたりする。
 可愛い猫たちに囲まれたわむれるこのひとときは、お家で飼えない猫好きである僕にとっては至福しふくの時間なのだ。
 しかし、時には妨害ぼうがいも起こる。
「こらーっ! 野良猫にエサをやるなと何度言ったら分かるんだーっ!」
 公園の近くに住む猫嫌いのおじいさんが、僕に石を投げながら鬼のような形相ぎょうそうで追いかけてきた。
「いたっ! イタタタ! やめるニャ!」
 猫も僕も一斉に逃げだした。
 至福のひとときはこうして無残にも終わりを告げた。
「フン、猫に餌をやったぐらいで石を投げるなんて……まったく世知辛せちがらい世の中ニャ!」
 僕はぶつくさと独り言を言いながら学校へと向かった。


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