私とテニスと自転車と
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……あれ
私いつの間に電車に乗ったんだっけ……
あ……そっか、さっき……
"じゃあな"
そうだ…さっき、ブン太と…
ほんの2、30分前のことを思い出す。
3年ぶりにあった彼は、少し大人っぽくなってて、中学の頃より逞しくなってた。髪は少し伸びた気がする。彼からするあの甘い香水の匂いは…変わっていない。声は少し低くなってた。身長はいつの間にか頭半分高くなって、でもあの丸い目はやっぱり変わってなくて
かっこ良かった…前よりも
ずっとずっと…
"…帰って、2度と、会いたくない"
酷いこと…言っちゃった…
あんなに悲しそうな顔、初めて見た
ブン太…ごめん…っ
私、ほんとはね
笑いたくても…笑えないの…
あの日から、無理して笑うことしか
できなくなったの…
心の底から…もう、笑えないの
ごめん…ごめんなさい…
さよならもちゃんと言えなくて
ごめんなさい…っ
ブー…ブー…ブー…
…あ、携帯
そういえば東堂と離れて…
おもむろに携帯を取り出して耳元に当てる
「っ香苗か!?」
『…東堂』
焦ったような東堂の声が耳に響く
迷惑かけたな…申し訳なさがでる
『ごめん、ずっと…出れなくて…』
「構わんよ、それよりも今どこにいる?」
ここは…各駅停車してて…近場の駅…
『平塚駅…まで…きた』
「平塚駅だな… 香苗、一人か?」
『…1人』
「そうか…っすまなかった…俺がもっと早く動ければあんなことには…」
東堂のせいではないのに、悪いのは…私
『…東堂は、悪くない…ごめんなさい…』
「…ほんとに大丈夫なのか?声が…」
『…大丈夫…』
大丈夫じゃ、ないけど…今大丈夫と言わないと東堂は余計に心配してくる
「…後で話を聞こう、俺からかけてきたが今は電車の中だ。小田原駅で待ってる」
『…うん…』
「また後でな…」
『…うん』
ゆっくりと電源ボタンを押して少しずつ顔を上げた。時間帯のせいか人は少なく、私が電話してても気にしなかったようだ。今度は視線を窓に移した
夕やけが沈みかけ少しずつ暗闇になる空。まるで私の心のようだ
あぁ
泣き腫らした目を見て
東堂は何と言うのだろう
学校に戻ったら
皆に何て言われるのだろう
そう言えば寿一に連絡…
いや、きっと東堂がしてる
なんだか…全部…めんどくさい…
重たい瞼を落とし
眠りはしないが
さっきのこと、中学の頃を
走馬灯のように思い出しながら
また、泣いた
小田原駅のホームに着いた。もうすでに7時を過ぎている、急いで帰らないと…改札口にいるのだろうか、それとも出口の方にいるのか…連絡して聞けばいいものを、そこまで思考が追いつかなくてとりあえず歩いた
改札口にはいなかった。Suicaを通して学校へと向かう出口に向かって進む。見かけなかったら電話しよう。そう決めてフラフラと歩いた
階段をゆっくり降りる
階段の一番下に箱学の制服が見えた
東堂だ
そう思って近づいたけど
そうじゃなかった
いるはずがない…なんでここにいるの
『…荒北』
小さく呟いたはず、届くわけないと思ってたけど…荒北はこっちに視線を向けた
「…遅ぇよ、ボケナス…」
低い声だ、でも怒っている声ではない
『荒北…』
もう一度呼ぶと荒北は頭を掻いてからこっちに進んできた
一歩ずつ、近づいて
すぐに距離は縮まった
「…ひでぇ顔してやがる」
『…』
「東堂から電話きてヨ…色々聞いた」
『…そっか…ごめん』
「…帰んぞ」
『…東堂、は…?』
「先に学校行ってる…オメーは真っ直ぐ家に送る」
『え、でも…荷物…』
「俺が送ったら持ってく。福ちゃんからのオーダーだ。家に帰れ」
『…っ、わか、た…っ』
また、迷惑かけた
寿一に、何て言ったら…
「…チッ、変な風に捉えんじゃネェぞ。今学校向かったら家帰んの遅くなんだろうが…今回のはオメーは悪くネェんだよ、だからんな顔すんなバァカ…」
そう言って私の荷物を奪って肩にかけた。見上げるように荒北を見ると視線は前を向いてて、でも意思を持った荒北の手が私の頭を撫でた
ゴツゴツしてる手のひら、自転車にバカみたいに3年間費やして出来たマメだらけの手。無造作に撫でるからぐしゃぐしゃになる髪、少し痛いくらい強めに撫でる
でも、温かかった
荒北の優しさがつまった温もりに、また泣いてしまった。なんの涙かわからない、さっきのことを思い出したからか…それとも…その優しさに泣いてしまったのか…
理由はわからないけど荒北はその手を離さず自分の体に引き寄せて
そのまま…私の口を塞いだ
キスされた、荒北に…2度目のキス
驚きで声もでなかった
良かったのは、周りに人がいなかったこと。それと…私の顔がきっと熱く、赤くなっていることがバレないことだ
ゆっくり離れてく唇…視線が絡むと、ニヤリと意地悪そうな笑みで私の目元の涙を拭った
「泣くな…喰いたくなる」
冗談なのか本気なのか分からない
でも確かなのは、涙が止まったことだ
「泣き止んだな…んじゃとっとと帰んぞ、つーか明日テストヤバかったらオメーのせいだかんな?だから明日早く学校こい。落ちねーように勉強教えろよ?」
『…なに、それ…』
暴君のように言う荒北。少し可笑しくて、そう呟くと荒北はまたニヤリと笑って
「…そーだよ、そやっていつも通りでいりゃいーんだヨ…」
『…、…ありがとう』
「…ケッ」
そっか、やっぱり心配してくれてたんだ。だから来てくれたのね、頭を撫でてくれたのね、泣き止ませようとキスをしたのね…
ありがとう、荒北
夜の暗闇のような私の心は
いつの間にか満天の星空が
見えるくらいキレイに澄み渡っていた
星空を見て…私は1つ、決意をする