私とテニスと自転車と
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東「…ふむ、これで問題ないな!」
『そうね、ありがとうございました』
箱学を出てから一時間は軽く過ぎてようやくお店に着いた。持ってきていたリュックに詰めるだけ詰めて、後は手持ちになるが東堂は俺が持つと言って店を後にした
東「意外に荷物にならなくて良かった」
『そうね、お店の人が重い荷物だけ明日届くように配達してくれるって言ってくれたおかげね』
東「まさか俺のファンだったとはな!」
『…いや、箱学自転車部のファンって言ってたでしょ。それに常連だからって』
東「香苗、ここは言いように聞き取るのがいいんだ!」
『…全く』
気を使ってくれた優しい店長さんで良かったよ。まぁとにかく監督に連絡だけしておかないと…。私は携帯のメールで監督に荷物のことを書いて送る
東「では香苗!行こう!中華街に!」
『はいはい、けど…時間的に厳しいから3、40分しかいられないわよ?』
東「なぬっ!ぬぅ…仕方ない!」
諦めるという選択肢はなかったみたいだ。残念、早く帰れればと思っていたのに…仕方ない
お店から中華街までは徒歩で10分位の場所にあって、あっという間に着いた。目を輝かせながら東堂は嬉しそうに腕を引っ張った、もちろん左腕だ
東「香苗!肉まん食べたい!」
『それならアッチのお店の方が美味しいわよ、右にある店』
東「おおっ!来たことがあるんだな!」
『…中学、こっちだったから。たまに来てたりしたよ』
東「では案内してくれ!あ、そうだ手を繋ごう!迷子になるかもしれんからな!」
『なんないし繋ぎません』
東「なぜだ!親友なのに!」
『自称ね』
もう全部に突っ込んでたらキリがない。仕方なく東堂の腕を掴んで引っ張ると嬉しそうに足を動かした
少し休憩できる場所についてジュースを買って足を休めることになった。重い荷物が無いとはいえ、リュックに詰め込んだ荷物の重さがある。東堂は肉まんを半分に割って私に渡してきたからそれを受け取ると笑って話しかける
東「今日はありがとう」
『え?なにが?』
東「無理に来させてしまっただろう?」
『あぁ、別に気にしないよ。それにこっちだってマネージャーの仕事なのに』
東「それこそ構わんよ」
ニィッと笑った東堂は肉まんを口に入れる。目を見開いて満面の笑みになる
東「香苗うまいぞ!さすが知り尽くしてるだけあるな!」
『別に知り尽くしてないわよ』
東「そんなことないぞ…そうだ!今度は皆で来よう!」
『皆?』
東「福に隼人、それに荒北と…あ!自転車部の3年で行くのも面白そうだな!」
『…確かに、面白そうね』
東「そうだろう!その時には…荒北と付き合ってるといいなと俺は思ってるよ」
…え?
まさかそんなことを言われると思わなくてキョトンとしてしまった
東「?なんだ、まだ告白されてないのか?」
そんなあっけらかんに言われても
動揺でうまく言葉がでなかった
『あ、いや、されては…いるけど、なんで』
東「?…あぁ!何故知っているかだな!それは親友だからだ!当たり前だろう!」
…絶対そんな理由じゃない
『…東堂』
東「う、嘘だ、すまん!ちゃんと言うのだ!…荒北の片想いなのは早々に気づいていた、2年の終わり頃だな。その頃になって急に荒北の香苗に対する行動も空気も変わっていた気がしたんだ」
…ほんとに告白されて間もない頃じゃない?勘が良すぎる…
東「まぁ本人からその後聞いたというのもあるがな!」
『!荒北が言ったの?』
東「あぁ。香苗が好きなんだ…とな。真面目な顔でそう言われたのだ」
『そ、そう…』
意外だった。そういうの、言うタイプには思えなかったからだ
東「…それだけ好きなのだよ。現にここに来るときの荒北の表情、覚えてるか?不安と俺に対する嫉妬の目をしていたのだ」
『…嫉妬は、知らなかったな』
東堂に嫉妬だなんて…バカみたい
けど、嫌ではない
東「…荒北はきっと、香苗を支えてくれると思うぞ」
普段とは違った深くて低い、優しい声でそう言った。その目は真剣で、真っ直ぐに私を見つめる
東「… 香苗が過去に苦しい想いをしてたとしても…全部受け止めてくれるさ」
『!』
東「俺は…多少知ってる。香苗の昔のこと。雑誌で見たりしてな」
『と、東…堂…っ』
う、そだ…。東堂が、私の昔を知っている。あんな…バケモノみたいに強すぎた…あの時代の私のこと…っ
聞きたくない…怖い…
東「やはり…
香苗は凄いと感心したぞ!さすがは俺の親友だ!!」
『、は、ぁ…?』
貶される、そう思っていたけどそれは一瞬だ。東堂は目をキラキラさせて少し興奮しながら話してきた
東「テニスの申し子…不敗神話…素晴らしいではないか!しかも…自分のプレースタイルを持つ。俺で言うなればクライマーだ、スペシャリストはいい!極めた者しか使えんのだ、だからその肩書きは誇りに思った方がいいぞ。
…中には不正だのバケモノ扱いするような愚か者が居たようだが、気にするな。むしろもっと堂々とせねばならんよ!恥じるようなことをしていないのだからな!」
『、東堂…』
こんな風に…
東「まぁ詳しく聞いたことはないから真意は知らんが、香苗が不正をするような者じゃないということは知っている」
人に、褒められたのは初めてだ
東「強いということはなんも悪いことではない。ライバルを寄せ付けぬ強さ、圧倒的に強いということはそれだけ香苗が努力し手に入れた力なのだ。だから卑下にするな
強者は常に前に立つ、福がそうであろう?俺だってクライマーとして上に立っている。自分が強いと自賛出来るほど強いからな!
まぁ俺の場合、巻ちゃんと決着を付けてからだがな。ワハハハッ!」
東堂の言葉は、私の心にスゥッと入ってく。求めていた言葉をくれている。あの時欲しかったモノを、今、埋めてくれている
『…ありがとう』
感謝の言葉しかない
東堂の優しさに、涙が出そうだ
東「…何を言ってる。俺はお前のよき理解者でありたいだけだ。そう思えたのも香苗のマネージャーの仕事っぷりを見ていたからだ。だから親友という立場になって支えてやらねばならんと決めたのだ」
『…そっか』
いつの間にか親友と言い出していた東堂。その理由は…私を思っての発言だったのね、嬉しい…
東「そろそろ帰ろう。今日は付き合ってくれて感謝するぞ!また来よう!」
『…うん
ありがとう…"尽八"』
東「!い、今名前で呼んだのか!?」
『…ううん、呼んでない』
東「嘘だ!嘘はよくないぞ!今呼んだであろう!尽八って!」
『さて、バス停向かうわよ』
東「香苗ー!!」
…もう、自称じゃないね
ほんとに…親友だと
思ってもいいかもしれない
たまになら、呼んでも…
ドンッ
東「ぬっ」
『あ、東堂…』
こっちを向きながら歩いていたから東堂は前にいる人とぶつかってしまった
『…なにやってんの』
東「す、すみません!大丈夫でしたか?」
直ぐに謝る東堂。前の人はどうやらさほど気にした様子もなくこっちを見た
ドクン…
うそ…テニスバック
その、校章は…
仁「おぉ、気にすんなさんな。次から気を付けんしゃ……い」
『………っ』
仁王…雅治…だ
仁「…お前さん、っ」
変わっていない風貌に
私の頭は混乱してる
ぶつかった東堂に目を向けてない
私を見てる……
ドクン…
やば、い…怖い…
あの時のことがフラッシュバックしたら
そう思ってたらスッと私の前に東堂が立った
東「いやいや、すまなかった。気をつけよう…行こう香苗」
多分、私の雰囲気に何か気づいたんだろう東堂は私の腕を掴んでそのまま歩き出した
仁「待ちんしゃい、成瀬!」
ゾクッ…
覚えている、私のこと…っ当たり前か
呼び止められた、その声は低くて怖くて
でも、東堂は足を止めなかった
『!』
仁「!」
東「おぉ!知り合いだったか!だがすまん、急がねば間に合わんのでな。悪いが帰らせてもらう」
仁「ま、待つんじゃ!」
東「香苗、すまないが走ろう」
『と、東堂…』
東「話したくないのだろう?行こう」
やはり東堂は優しかった
瞬時に読み取ったんだ
『…うん、帰ろう』
仁王が追い付く前に私たちは走った