私とテニスと自転車と
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学校に向かう足取りは重い。昨日の今日で…荒北に会いたくないけど、私情を挟むほど部活を疎かにしたくない
今日も朝練はある。いつも通りバスに乗って学校までたどり着いた。部室には向かわないでいつも通り職員室から鍵を受け取り(…あれ?部室の鍵がない…誰かもう来てるんだ)ローラー練習場から直ぐ隣の倉庫からタンクを取り出してドリンクの準備を始めた
「おはよう」
ビクッと肩が揺れる。でもその声に聞き覚えはあるから振り向き、挨拶した
『おはよう、新開。早いね』
ジャージ姿の新開が珍しくそこにいた。まだみんな来てないし、寿一たちと来ることがもっぱらだったのに
新「なんか目が覚めちまってな、ご飯はみんなと同じ時間に食ったけど…早く走りたくてさ」
『…なに、焦ってんの?インハイまで時間はまだあるのに』
新「焦ってはないけど…いや、焦ってんのかな?…早く"いつも通り"に走りたい」
いつも通り…
去年、新開はあるレースで小さな命を奪った。それ以来…鬼になることはなかった。本気で走ることに、左を抜くことに抵抗を持ってる。前に進めなかった新開…だけどみんなのおかげで、一歩、踏み出した。今では乗ることさえ出来なかった自転車もちゃんと乗れてる
『…私は、いつも通りの新開の走りじゃなくていいよ。変われた新開の走りが見たい』
素直に思った気持ちだ。何がなんでも勝ちにいく、何かを犠牲にしても…、そういう気持ちだけだったあの頃…今はそんな面影がなく、チームのために走ってる。私はそんな新開の走りが好きだ
新「…はは、おめさんにはかなわねぇな…ありがとう」
『たいしたことは言ってないよ』
新「そんなことねぇさ。インハイ…絶対勝って香苗を表彰台に立たせるよ(バキュン)」
『バァカ…選手じゃない私が台に上がれるわけないでしょ』
「いや!俺は上げさせたいぞ!!」
にゅっと現れた男は新開の肩に腕を通して話しかけてきた
新「ビックリしちまったぜ、尽八」
東「の、割には普通に話すではないか!つまらんぞ!」
『おはよう、東堂』
まだ制服のままだったから見かけてこっちにきたのかな?挨拶すると私に寄って今度は私の肩に腕を通した
東「ウム、おはよう!それでさっきの続きだが…俺は隼人の意見に賛成だ!香苗は俺達と3年間共に戦ってきたのだ!表彰台、いいではないか!」
『いやいや、そういう問題じゃないでしょ。っていうか東堂も来るの早いわね』
東「まぁな!俺も練習せねばと昨日のレースを見て思ってな!いよいよ巻ちゃんと最後のレースになるのだからな!気合い入れて練習せねばな!ワッハッハッハッ!」
昨日の…あぁ、だからか
よく見るとちらほらと人が集まり出していた。いつもより早く来る部員たちも昨日のレースに刺激されたのかな?…いいことだ
東「おぉ福!荒北!遅いではないか!」
荒北の名前で肩を揺らした。昨日の今日だ…私情を挟むつもりはないけど…気まずい
荒「ァア?っせーよ東堂!いつも通りに来てんダロ!オメェらが来んのが速ぇだけだろうが!」
福「香苗、おはよう」
『おはよう、寿一』
変わらない表情で寿一と挨拶を交わす
福「準備はいいのか?」
『あ、そうだ途中だった。私行くから』
福「あぁ」
すっかり忘れてた。タンクを持ち上げて皆にじゃあ、と手を振る。荒北とは視線が合わなかった。アイツも気まずいと思ったのかな…?これ、話づらくなりそう…
荒「オイ」
『!あ、ら北…』
嘘、話しかけてくるとは思わなかった。寿一たちは部室に向かってくのに荒北はそのままこっちに来て私の前に立った
荒「…昨日は悪かったヨ」
しばらくの沈黙のあと、先に口を開いたのは荒北だった。昨日のこと…謝りにきたんだ。
『え、あ、うん…気にして、ない』
荒「嘘つけ、腕…痛かったろ?」
『、まぁ、わりと』
荒「だろうな、無意識で掴んだし」
ケガしてたの忘れてたの?らしいと言えばらしいけど…
荒「…今日」
『、?』
荒「筋トレ…2倍するからヨォ、機嫌治せボケナス…」
、違う…悪いのは私…
荒北に本音を言う勇気がなかったから…
何かを察した荒北は私の頭を…優しく撫でた。部員がいる目の前で…ったく、部に示しがつかないでしょうが…
なんて…また荒北の優しさに甘えてしまう
『…いやいや、4倍でしょ?』
荒「ハァッ!?んなできっかヨッ!」
『え?5倍がいいって?あー痛い、肘が痛いな…誰のせいかな…?』
荒「なっ!?っ、クソッ!」
『 …フ、冗談よ。2倍頑張れ』
さっきまで感じた気まずさは消えた。いつも通りの私と荒北の関係に戻ってく。安心して無意識に口角が上がると荒北が視線をそらした
荒「っ!…クソッ…とっととドリンク作ってこいボケナス!」
『はいはい』
荒「あと!…んな顔すんな。俺以外に…見せんなよ」
『ん?なにが?』
荒「っ、俺以外に…んな、笑うな…そいつらボコりたくなる…っ」
『っ』
なんでか…嫉妬されてる…。顔が赤い荒北に、笑いそうになるのを抑えた
『顔、赤いから』
荒「ッセェッ!!着替えてくる!」
『はいはい』
…やっぱり、荒北と話すのは楽しい
楽しいより…安心する
好意を受けるのは…正直嬉しい
…好きになってみたい
ズキッ
、…わかってる
それはできないこと
まだ私は過去を引きずってるから
『…元気かな…?』
その声は風にのって
誰の耳にも入らなかった
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「…」
「ブンちゃん、おはようナリ」
「…え、あ?仁王?オッス」
「またボーッとして…なにを…考えとったんじゃ?」
「…や、何でもねぇよ。それより早く着替えようぜ?」
「…」
「成瀬…」
少しずつ、二人の歯車が噛み合っていく